キャベツに愛をchap04
──数日後。場所は慎治郎のアパート、という名の戦場。
俺たちは、キャベツ一玉で「フルコース」を作るという、正気とは思えない挑戦に挑んでいた。
「やるからには、やるぞ……!」
慎治郎が包丁を構え、雄介がうなずく。
「王の期待に応えるんだ……!」
恵梨がスケッチブックに手書きのメニュー表を作成し始め、キホは黙々とキャベツを仕分けていた。
その日のメニュー構成はこうだ。
【前菜】:キャベツのピクルス3種盛り
【スープ】:キャベツのポタージュスープ
【メイン】:キャベツステーキ ~バルサミコソース添え~
【デザート】:キャベツとりんごのキャラメルグラッセ
「……前菜はいい。ピクルスって漬けとくだけだから」
「いや、3種って時点でハードル上がってるからね?」
「スープも何とかなりそう。牛乳とコンソメと炒めキャベツ……って感じ?」
「メインの“キャベツステーキ”が一番怖い。そもそもステーキって……肉じゃね?」
「デザートが一番意味不明だから! キャベツで甘くすんの!? りんご頼みじゃん!」
言いながらも、俺たちは動いた。
まずピクルス用のキャベツを千切りにし、3種類の液にそれぞれ漬け込む。
酢と砂糖、鷹の爪を混ぜた「甘辛酢」
レモン汁+オリーブオイル+バジルの「さっぱりハーブ風味」
ごま油と醤油ベースの「アジアン中華味」
「……意外とそれっぽくなってるな……」
「漬けただけなのに……料理って不思議だな」
次にポタージュ。
バターでキャベツと玉ねぎを炒め、牛乳とコンソメでコトコト煮込み、最後にブレンダーで滑らかにする。
「見た目、ちょっと……黄緑色だけど……」
「味は……あっ、これ、いける……!」
「やばい、これは優勝かも」
慎治郎はレンゲを持ったまま、勝利のガッツポーズをした。
次が本番、メインディッシュ。
大きめのキャベツの芯を残したまま、スライスして“輪切り”にし、オリーブオイルでじっくりと焼く。
焼き色がついたところで塩、胡椒、そしてバルサミコソースを軽く煮詰めてかける。
「キャベツにステーキの風格が出てきた……!」
「もはや野菜とは思えない……!」
熱気と香ばしい香りがキッチンを満たす。
──そして、デザート。
薄くスライスしたキャベツと、りんご、砂糖、バターを鍋でじっくり炒め、仕上げにキャラメルソースを絡める。
「色合いが……金色に……」
「香りは……アップルパイっぽい!?」
「騙されるな……見た目に……!」
恐る恐る口にした瞬間――
「……うまっ!」
「信じられないけど、ちゃんと甘い……しかもキャベツが、なんか優しい!」
「もう一口……いや二口……!」
「王、すごいもん思いついたな……!」
キャベツが――甘いスイーツになった瞬間だった。
そして、四品すべてがテーブルに並んだ。
ピクルス。ポタージュ。ステーキ。そしてデザート。
「……これが、俺たちのフルコースか……」
「最初、レンチン塩昆布キャベツで感動してたのに……」
「成長したな、俺たち」
「うん。キャベツと一緒にね」
その言葉に、全員が黙って頷いた。
そして――例のごとく、冷蔵庫が開く。
「見事だ……これぞ、真の“キャベツの宴”……」
あのキャベツ王が、今度は金色に輝いて現れた。
「汝らに、最終の祝福を与える。名を授けよう……汝らは、四賢葉の民となった!」
「……葉?」
「葉ってなんだよ!」
「騎士とかじゃないのかよ!」
「いやでも、光ってるキャベツに名付けられたって、なんか……すごいよな」
「うん……いいかも、“四賢葉”」
その夜、俺たちは初めて、何の不安もなくキャベツ料理を楽しんだ。
そして、未来を見ていた。
この力で、どこまでいけるか。
キャベツを、どれだけ多くの人に届けられるか。
冒険は、まだまだ続く。
(End)




