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キャベツの王と四人の料理音痴  作者: 乾為天女


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5/5

キャベツに愛をchap04

 ──数日後。場所は慎治郎のアパート、という名の戦場。


 俺たちは、キャベツ一玉で「フルコース」を作るという、正気とは思えない挑戦に挑んでいた。


「やるからには、やるぞ……!」


 慎治郎が包丁を構え、雄介がうなずく。


「王の期待に応えるんだ……!」


 恵梨がスケッチブックに手書きのメニュー表を作成し始め、キホは黙々とキャベツを仕分けていた。


 その日のメニュー構成はこうだ。


【前菜】:キャベツのピクルス3種盛り

【スープ】:キャベツのポタージュスープ

【メイン】:キャベツステーキ ~バルサミコソース添え~

【デザート】:キャベツとりんごのキャラメルグラッセ


「……前菜はいい。ピクルスって漬けとくだけだから」


「いや、3種って時点でハードル上がってるからね?」


「スープも何とかなりそう。牛乳とコンソメと炒めキャベツ……って感じ?」


「メインの“キャベツステーキ”が一番怖い。そもそもステーキって……肉じゃね?」


「デザートが一番意味不明だから! キャベツで甘くすんの!? りんご頼みじゃん!」


 言いながらも、俺たちは動いた。


 まずピクルス用のキャベツを千切りにし、3種類の液にそれぞれ漬け込む。


 酢と砂糖、鷹の爪を混ぜた「甘辛酢」


 レモン汁+オリーブオイル+バジルの「さっぱりハーブ風味」


 ごま油と醤油ベースの「アジアン中華味」


「……意外とそれっぽくなってるな……」


「漬けただけなのに……料理って不思議だな」


 次にポタージュ。


 バターでキャベツと玉ねぎを炒め、牛乳とコンソメでコトコト煮込み、最後にブレンダーで滑らかにする。


「見た目、ちょっと……黄緑色だけど……」


「味は……あっ、これ、いける……!」


「やばい、これは優勝かも」


 慎治郎はレンゲを持ったまま、勝利のガッツポーズをした。


 次が本番、メインディッシュ。


 大きめのキャベツの芯を残したまま、スライスして“輪切り”にし、オリーブオイルでじっくりと焼く。


 焼き色がついたところで塩、胡椒、そしてバルサミコソースを軽く煮詰めてかける。


「キャベツにステーキの風格が出てきた……!」


「もはや野菜とは思えない……!」


 熱気と香ばしい香りがキッチンを満たす。


 ──そして、デザート。


 薄くスライスしたキャベツと、りんご、砂糖、バターを鍋でじっくり炒め、仕上げにキャラメルソースを絡める。


「色合いが……金色に……」


「香りは……アップルパイっぽい!?」


「騙されるな……見た目に……!」


 恐る恐る口にした瞬間――


「……うまっ!」


「信じられないけど、ちゃんと甘い……しかもキャベツが、なんか優しい!」


「もう一口……いや二口……!」


「王、すごいもん思いついたな……!」


 キャベツが――甘いスイーツになった瞬間だった。


 そして、四品すべてがテーブルに並んだ。


 ピクルス。ポタージュ。ステーキ。そしてデザート。


「……これが、俺たちのフルコースか……」


「最初、レンチン塩昆布キャベツで感動してたのに……」


「成長したな、俺たち」


「うん。キャベツと一緒にね」


 その言葉に、全員が黙って頷いた。


 そして――例のごとく、冷蔵庫が開く。


「見事だ……これぞ、真の“キャベツの宴”……」


 あのキャベツ王が、今度は金色に輝いて現れた。


「汝らに、最終の祝福を与える。名を授けよう……汝らは、四賢葉よんけんようの民となった!」


「……葉?」


「葉ってなんだよ!」


「騎士とかじゃないのかよ!」


「いやでも、光ってるキャベツに名付けられたって、なんか……すごいよな」


「うん……いいかも、“四賢葉”」


 その夜、俺たちは初めて、何の不安もなくキャベツ料理を楽しんだ。


 そして、未来を見ていた。


 この力で、どこまでいけるか。


 キャベツを、どれだけ多くの人に届けられるか。


 冒険は、まだまだ続く。


(End)

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