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短編(シリアス)

「いすき」

作者: 裏道昇
掲載日:2025/03/08

昔の短編です。

見つけて懐かしくなったので投稿することにします。


単純なシリアスです。

自分の作品としては珍しい。


読んでいただければ嬉しいです。


 俺は少女が好きだった。

 少女は俺が嫌いだった。


 桜並木が有名な病院に好きだった少女が入院した。

 何度か友達とお見舞いに行ったのだが、少しずつ付き合ってくれる友達が減っていった。


 少女は俺が行くと明らかに顔を歪める。舌打ちする。無視する。

 それでも少女が好きだったんだ。


 一年ほど過ぎた後、家族以外のお見舞いは俺だけになっていた。


「あんたもしつこいわね」

「……負けず嫌いでね」

「しかも手ぶら。図々しいわ」

「そりゃ悪かったな」


 ふん、と少女が鼻を鳴らし、その日の会話は終わってしまった。

 ……確かに、毎回手ぶらは申し訳ないか。


 とは言え子供の身。資金はないのだ。

 出来ないなら、代わりに何かしなきゃいけない。




 次の日の夜。

 俺は少女を夜の桜並木へと連れ出した。


 その夜は満開で、満月だった。

 まるで月へと桃色の道が敷かれたようで。


 少女は小さく息を呑み、舞い散る桜に喜んだ。

 初めて、二人で肩を並べて歩いた。


 そして唐突に、


「なんで来てくれるの……?」

「俺は君の事が気に入ってるんだよ」


 嘘ではない。

 謙虚に言ったまでだ。


「君はどう思ってる?」

「大嫌い」

「はっきりと言ってくれるな」

「じゃあ少し好き」

「正直に言ってくれよ」


 少女が俯き、立ち止まる。

 ……なら、と。


「なら、時間を戻してよ……! 健康な頃……いいえ、一瞬でも、私の命を戻してよ! 出来たら、その間だけ正直になってあげるから……戻ってあげるから……」

「それは……」


 できない。

 それでもそうは、言えなかった。言えないなら、代わりに何かしなきゃいけない。俺は、嘘を使わずにこの娘を救いたい。


 だから、


「……どうか!」


 少女が眼を丸くする。俺はその場に土下座した。

 少女に向かって、ではない。

 少女を背に、世界へと。


「どうか、時間を戻してください!」


 俺に少女は救えない。一秒だって救えない。きっと世界にも救えない。

 でも、祈るくらいは出来るから。

 この望みは、嘘じゃないから。

 何でも出来るわけじゃないけど、出来ることは何でもやるから。


「あんた、何で……?」

「お願いします!」


 気づけば、泣いていた。

 桜の花びらが綺麗に舞う並木道で土下座をしながら泣いた。


「もう、」

「……どうか!」


 一瞬、後ろから大きな突風が吹いた。耳元で低い音が鳴る。

 桜が地面から舞い上がる。舞い戻る。

 高く、高く。

 それはまるで――時間が巻き戻るように。


「無理だと思うから……言ったのに」


 俺は何も言えなかった。

 時間は、一秒に満たなかった。




 そうして、最期がやってきた。


 少女は苦しみから暴れまわるようになっていた。

 罵詈雑言を撒き散らし、動けもしないのに、延命装置から逃れようとする。


 その意思をくんで、家族は今この場で延命装置を外すことにした。

 少女は喜んで承諾したらしい。


 医者が装置に手を掛ける。

 少女が隣の俺を見た。小さな大声で喚き散らす。


「馬鹿、大嫌い、死ねばいいのよ、あんたとなんて会いたくなかった! いつも馬鹿にして、本当は私のことなんか嫌いなのに、偽善者、嘘つき、恥知らず!

 だ……」


読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。


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