第49話 新年の決意
「横領の黒幕はネルソン子爵。共謀していたのはシモーネ管理官にセオドア男爵。それとスミス商会会頭のスミスが協力者。
スミスは協力する事でロジェストにおける魔石の利権を得て、他の三人は取引の差額の金銭を横領していたわ。それも全てルイス様には気づかれないようにしてね。
治めていた領地で自分の部下も関与していたのだから、ルイス様の領主としての資質は問われるでしょうけれど、貴方が思っていたようなことはやっていない」
「それでは私がやったことは……」
「無駄じゃないわ。そのお陰で彼らの悪事を暴くことが出来たのだから。もし私がアルカディアに来ずに不正が行われ続けていたら、いずれこの領は無くなっていたでしょうね。そうなれば頑張ってこの地を開拓してくれた人たちの苦労や、ここまで発展させた努力が全て無駄になるところだった。貴方の無言の叫びはその人たちを間違いなく救ったのよ」
「そう……ですか……」
コルフローネの声に力は無かったけど、その顔には何か安堵したような薄っすらとした笑みが浮かんでいた。
「けれども、貴方がやったことは王国の法に照らし合わせれば処罰は免れない事ね」
「それは最初から覚悟しております」
ああ、この人は真っすぐ過ぎるんだ。
そしてどうしようもなく不器用で優しい。
だからこんな状況でもそんなに清々しく言い切れるんだろう。
でもね、それじゃあ駄目なんだよ。
「貴方がその覚悟を決める時、その中にお父上であるヴェール伯爵や、他の家族の方の事は含まれていたのかしら?」
「え……」
「伯爵家の次男が起こした不祥事ですもの。当然ヴェール伯爵家の家名に傷がつくでしょう。もしかしたらヴェール家がそれに関係しているんじゃないか?そんな口さがない噂をする者も出てくるかもしれない。貴方はその事も考えた上で覚悟を決めたのかしら?」
「ああ……」
貴方の優しさは自己犠牲の上に成り立っている。
自分が責任を取れば全て解決するだろうという行動原理で動いている。
でもそうじゃない。
貴方がルイスの事を想っていたように、貴方の事を想ってくれている人もいるし、貴方が他にも大事にしなければいけない人もたくさんいる。
目の前の一人だけの為に全てを捨ててなんて事は出来っこないの。
貴方が捨てても――たとえ忘れていたとしても、貴方を大事にしてくれている人がいるんだから。
「わたしは……なんてことを……」
「後悔しているの?告発なんてやらなければ良かったと」
「後悔……分かりません。今のこの感情が何なのか理解出来ない……。でもあの時の私には他に方法が思いつかなかった。友人が悪事を働いているかもしれないと考えたら何とかしないとって……。だから――後悔ではないのだと思います。家族に対する申し訳ないことをしたという気持ちと、この事を知ったルイスがどう思うのかという気持ち……。ああ、そうか……これは羞恥ですね。
自分の考えが足りなかったばかりに多くの人に迷惑をかけ、大切な友人にも愛想をつかされるかもしれないという恥ずかしさ。自業自得とはいえ、本当に情けないです……」
罪は罪。どんな理由があろうと犯した間違いは罰せられなくてはいけない。
それはこの世界では更に顕著に表れる。情状酌量なんてお金を積む以外には有り得ない話だ。
「貴方に手紙を預かっています」
でもそれはこの世界のルール。
私は私のルールで生きる。
「……これは?」
「ダウントン侯爵閣下から貴方宛てに預かってきました」
「侯爵閣下から?」
後ろ手に縛られたままでは読めないので私が代わりに読むことにした。
「アルカディア領内にて横領の疑いあり。その実態調査にコルフローネ副管理官への協力を要請する」
その手紙には短い文章でそう書かれており、ダウントンのサインと、三年前の日付が記載されていた。
「これは……どういう……」
「貴方はアルカディアの副管理官就任に際して、侯爵閣下から内偵の依頼を受けて調査をしていたのよね?」
「まさか……」
「三年にも及ぶ調査ご苦労様。お陰で全て解決することが出来たわ」
「ああ……ああ……ありがとう……ございます……」
罪は罪。罰は罰。
彼の犯した罪は自分の人生を蔑ろにしたこと。
その罰は、自分を想ってくれている人がいるということを認識して後悔したことで十分でしょ。
今は思いっきり泣いてやり直せば良いんじゃない?
年が明け、この世界の新たな年度が始まった。
ヴァルハラ王国では一月から十二月までの一年がそのまま年度として数えられている為、私にとっては二年目の領主生活が始まったことになる。
依然としてネルソンとセオドアの行方はしれないままで、ロジェスト領主だったネルソンの爵位は剥奪。その後を長男が跡を継ぐことが正式に決まった。
なので今後は逃走中のホレーショと呼ばなければいけないのだけれど、どうにも呼びにくい名前なので心の中ではネルソンで通そうと思う。
その跡を継いだ長男というのも若干10歳になったばかりということなので、側近たちの良いように扱われなければ良いなという不安もある。だってまだ取られたお金は返済されてないんだからね。周りがごねて返さないとかになったら、またダウントンの力を借りなきゃいけなくなるし。ルイスの件が本気かどうか分からないうちは近づきたくないというのが本音。
「リサ様。前年度の決算書をお持ちしました」
「え?もう出来たの?」
「はい。大まかな部分はここにいる間に終わらせておきましたので」
昼食が終わって部屋に戻ったところに決算書を持ったコルフローネがやってきた。
あの後、コルフローネは王都の役所を退職。
裏技を使って許されたとはいえ、やはり罪悪感が残ったようだ。
そのことをビクトから伝え聞いた私は、彼にアルカディアに来ないかと手紙を出した。
そして今では正式にアルカディア家の会計担当として働いてくれている。
真面目で仕事も正確で速い。
彼のお陰でビクトの負担も大きく減ることになって大助かりだ。
これに関してはネルソンたちにお礼を言いたいくらい。
「リサ様?何か良いことがございましたか?」
気持ちが顔に出ていたのか、コルフローネが不思議そうにこちらを見ている。
「そんな顔をしてるかしら?」
「はい。何やら御気分が良さそうに見えます」
「それは――無事に新しい年を迎えられたからじゃないかしら?」
王国滅亡まで後9年。
残された時間は多くない。
それまでに何が出来るのか?何をしなければいけないのか?
リサの立てた計画だけじゃ足りない。
グレイの時のように滅亡ルートを潰していくだけでも足りない。
それでも必ずあるはず。
正しいエピローグに繋がる細い一本の道がどこかに必ずある。
『君と紡ぐ恋物語~輝く王国の未来~』
「君と紡ぐ恋物語」がゲーム本編を指すのであれば、「輝く王国の未来」は本編より後の話。
エンディングからエピローグへと続く10年間の物語。
その間の主人公がリサ=アルカディアなんだ。
それが私がこの世界に来た理由。
王国の未来を輝かせられるかどうかはリサの選択一つにかかっている。
断罪されて追放された悪役令嬢。
黒髪の忌み子、傾国の魔女。
王子に婚約破棄された哀れな令嬢リサ=アルカディア。
ハンデは山積み。てんこ盛り。
やってやろうじゃないの。
廃ゲーマー舐めんな!
こちとらその程度のハンデはあった方が逆に燃えるんだよ!
絶対にクリアーしてやるからな!
この国を救うのは私だ!!
――第1章 転生先は断罪済みの悪役令嬢 完――




