異世界イートクエスト~今日の献立:ドラゴンステーキと温泉たまご~
「ウォォォォォォォォ!!!」
閃光のような斬撃は首を一撃で切り落とし、ドラゴンの巨躯はゆっくりと傾き地面へと伏した。
「はぁ・・終わった」
剣を地面に突き刺し、杖のように体を預け休んでいると、
「これからだぞ、本当の戦いは」
後ろから仲間の魔法使いの声がかかる。
「・・わかってるよ」
体を立ち上がらせ、剣を手に取るとドラゴンの骸を切り刻み、手で持てるサイズの肉塊に分けた。
「始めるか・・。ファイ・ミディ・レイア!」
魔法使いが肉塊を鉄皿の上に置き、詠唱を始めると、辺りに香しい肉の匂いが立ち昇る。
「ドラゴンステーキお待ち」
「じゃあ、いただきます」
俺は手を合わせ、目の前のステーキ肉へナイフを入れる。
抵抗なく切られた肉をフォークで刺し、口の中へ放り込む。
「どうだ?」
「外はカリッと香ばしく焼かれ、中はふんわりジューシー。鳥のような繊細な味わいと牛のようなガツンとくる旨味・・癖のあるドラゴン肉をここまで美味にするとは、さすがは一級調理魔導士だな」
「『食』の勇者に褒めていただけるとは光栄だよ」
「好きで呼ばれてるわけじゃないのよ・・。特異体質のせいで倒した魔物を食べなきゃレベルが上がらないとか、めんどくさいし。魔物の体積の1/3は食べないと経験値が得られないし、美味しくなきゃモチベ上がらんし」
咀嚼しながら愚痴をこぼす俺に魔法使いは、
「おまえにとっては朗報か悲報かわからんが、ドラゴンの巣から無精卵の卵を見つけたぞ」
と耳を疑う報告を告げる。
「・・食べなきゃだめ?」
「卵は完全栄養食だし、経験値もかなりのもんだぞ」
「魔王討伐のため致し方なし・・か」
「近くにあった温泉の中に入れておいたから今持ってくる」
魔法で浮かされた卵はホカホカと湯気が立っていた。
子供の大きさぐらいの卵がズンと縦に地面に突き刺され、俺の目前に置かれた。
俺は剣で卵の殻の上部を切り、中を上から確認する。
そこには一面の半熟白身の海が広がっていた。
「ほらスプーン」
魔法使いから通常の五倍はある大きさのスプーンを受け取り、温泉卵をすくって口へと運ぶ。
「めっちゃトロウマ~」
「それは良かった。あとノルマ肉がウシ三頭分あるからがんばってね」
「ウォォォォォォォォ!!!」
俺の嘆きは空へと響き、夜明けを告げる朝日が昇る。
俺達の戦いはこれからだ―――