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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

みんな、いっしょに、カエろうよ。

作者: kayako


 

 お母さんから、いつも言われていた。

 お友達とは、いつも一緒に帰りなさいって。



 4月20日(木曜 快晴)


 私は今年、高校に入学したばかり。ぴっかぴかの女子高生。

 中学の頃までは勉強ばかりで、真面目すぎて大人しすぎる子だった私は、全然友達が出来なかった。

 けれど、高校に入ったらそれももうおしまい。

 女子高だから、私の容姿をあざ笑ってくる男子もいない。

 結構な進学校だから、勉強を頑張る私を馬鹿にするような馬鹿もいない。

 周りは優しい女の子ばかり。だから――


 中学までは全然出来なかった友達が、やっと出来る。


 お母さんにはいつも言われた。

 高校生になったら、今度こそ積極的にお友達を作りなさい。

 お友達は人生を豊かにしてくれる。

 休日には家に連れてきなさいね。お母さん、ケーキ作って待ってるから――って。


 大丈夫だよ、お母さん。

 私はもう、中学までの私じゃない。

 積極的にお友達を作る私になるの。

 おしゃべりになって、たくさんの優しいお友達に囲まれて、休日になったらみんなで街にショッピングへ出かけて、お泊り会もできたらいいな。

 一生懸命自己紹介したら、クラスのみんなは笑って受け入れてくれた。

 今週はたくさんのお友達と毎日、駅まで一緒に帰ってきたんだ。

 お母さんがいつも言ってたとおりだった。お友達と一緒に帰るの、とっても楽しい。


 あの子たちを家に連れて行ったら、お母さん、喜んでくれるかな。



 5月10日(水曜 くもり)


 クラスで仲の良い子とそうでもない子がはっきりしてきた。

 私と仲の良い子は、隣の席の田神さん。

 それから、ひとつ後ろの席の高畑さん。

 二人とも、時々私をお昼に誘ってくれる。私たちはいつも仲のいい三人組だ。


 それ以外の子? 勿論、まだお友達だよ。

 でも、一緒に帰ろうとするとすぐ「部活があるから」「塾があるから」って逃げられちゃうんだ。みんな真面目だし忙しそうだなぁ。

 だけど、大丈夫だよ、お母さん。

 1週間に3回は、誰かと一緒に帰ってるから。



 6月1日(木曜 小雨)


 高畑さんが、私を誘ってくれなくなった。

 顔も性格も悪い宗方さんと、彼女はつるむようになってしまった。高畑さんと私は宗方さんに引き離され、高畑さんはお昼に誘ってくれなくなった。

 あんなブスのどこがいいんだろう。話題だって、ケバい化粧やくだらないアイドルの話ばかり。

 私の方が勉強は出来るから色々教えてあげられるし、好きなマンガやゲームや小説の話だって、いっぱいしてあげられるのに。


 おかげで先週は、お友達と一緒に帰ったのが2回になってしまった。

 まぁ、いいや。大丈夫だよ、お母さん。

 私にはまだ、隣の田神さんがいるから。




 6月21日(水曜 雹)


 最近あんまり会話が弾まないけど、まだちゃんと、1週間に1回は田神さんと一緒に帰っている。

 先週の金曜日は、委員会があるからって言ってた田神さんを、3時間ぐらい正面玄関で待ってた。

 田神さん、とってもびっくりしてたなぁ。私の熱い友情、分かってくれたのかな(^-^)


 それに高畑さんだって、宗方さんに騙されてるだけ。

 その証拠に、宗方さんのいない時に待ち伏せしたら、ちゃんと一緒に帰ってくれる。


 だから先週も先々週も何とかお友達と1回ずつ、駅まで一緒に帰れたんだよ。お母さん。

 1週間で一度もお友達と帰れないなんて、お母さん絶対悲しむよね?

 だから雨の中必死で待ってたりして、一生懸命努力したんだ。ちょっと褒めてほしいなぁ。



 7月14日(×曜 雷雨)


 今日、お母さんから言われた


「先生から連絡あってね

 田神さんのお母さんが、娘につきまとうのはやめてくださいって

 貴方に校門で待ち伏せされて田神さん、警察呼ぶことまで考えたそうよ」


 田神さんが? なんで?


「高畑さんのお母さんとも、この前話したんだけどね

 貴方はとても大人しくて可哀想だから、相手をしてあげてるだけなんだって

 本当に仲がいいのは宗方さんなのに、邪魔しないでほしいって」


 なんで? 私が可哀想? 相手をしてあげてる?

 なんで? どうして?



 そしてお母さんは私を睨みつけた



「貴方――

 やっとお友達が出来たんじゃ、なかったの?」



 お母さんの大きな眼が、じろりと私を凝視して。

 同時に思い出したのは、遠く幼い日の記憶。

 お母さんの怒鳴り声。



 ――お友達を作れない子なんて、ウチの子じゃないわ!

 誰かお友達を誘ってくるまで、家に帰ってきちゃいけません!



 お友達の輪にうまく入れない私に、怒ったお母さんは。

 私をそう怒鳴りつけて、家から追い出した。

 慌てて公園まで行って、一生懸命同じクラスの子を探して声をかけようとしたけど、誰も相手にしてくれなくて


 ――夜遅くまで砂場でひとりぼっちだった、あの時の記憶。

 お母さんの怒鳴り声。

 クラスの子たちのせせら嗤い。

 頭の中で 記憶が ぐるぐると


 お友達を家に連れて行かないと、家に帰れない

 お友達と一緒に帰らないと、お母さんに怒鳴られる

 お友達を作らないと、家に入れない

 お友達を、家に

 お友達 家 






 7月15日(×曜 土砂降り)


 朝、目覚めると

 ずっと昔から大切にしていたぬいぐるみや人形が、全部ズタズタになっていた。

 小さい頃からいつも一緒に寝ていたクマのぬいぐるみもペンギンのぬいぐるみも、金髪青目で可愛いドレスを着た人形も、全部。


 手のひらを見ると、幾つも幾つも赤い筋が、あちこちに刻まれて。

 目の前に転がっていたのは、黒く凝固した血のこびりついたカッターナイフ。

 切られた人形の白いドレスにも、ぬいぐるみの腹から飛び出した綿にも、真っ赤な血液が点々と飛び散っていた。


 枕元で、何かがビリビリ震えていた。

 薄暗がりの中、滅多にメールの来ないスマホがうっすら光っている。

 ふと画面を見ると――


 そうだ。何故か昨夜、宗方さんからメールが来ていたんだ。

 メールには、いくつか画像が添付されている。


 それは、私が知らないうちにクラス中でこっそり交わされていた、SNSのやり取り。

 SNSを一切やっていなかった私は、みんなの間でそんなやりとりがされていたこと自体、知らなかった。

 そこに書かれていたものは――



 ――あの子、自分の好きなマンガやゲームのことしか話さないし、つまんないんだよね

 ――そもそも、最初の自己紹介の時点でおかしかったよ。みんなに変な子って笑われて弄られてるのに気づいてないんだもん

 ――田神さん、あそこまでつきまとわれて可哀想

 ――私もやられたよ。部活だって言って逃げたのに雨の中でずっと待ってて、超ホラーだった!

 ――帰り道で一緒になりさえすれば、友達だとでも思ってるのかな? 

 ――気持ち悪い



 連なりに連なる、私への暴言の数々。

 高畑さんの発言もある。

 そしてそんな画像の数々と共に、宗方さんは私にメッセージを残していた。


 《分かる? これが、みんなの総意だよ。

 だからこれ以上、みんなに付きまとわないで。しつこい待ち伏せとか、完全にストーカー行為だからね。

 貴方は誰にとっても、友達でも何でもないんだから》





 7月■日 (金曜 酷暑)


 今週は、誰も、私と一緒にカエってくれなかった





 8月■日 (■曜 すごくあつい)


 夏休みもそろそろ終わり。

 私と一緒にお出かけしたり、海に誘ったりしてくれるお友達は、誰もいなかった。

 電話もメールも一切なくて

 みんなが何をしているのか

 私は全然分からなくて


 お母さんに睨まれるばかり


 ごめんね、お母さん

 でも私、2学期は何とかするから

 何とかしてお友達をおうちに連れてくるから

 お母さんの言う通りにするから


 だから 私を家から追い出さないで




 9月■■日(■■曜 天気なんか覚えてない)


 新学期が始まったけど

 誰も私と一緒に■ってくれる人は■なかった

 誰も私と■をしない

 誰もが私を■■していく


 でもいいの、おかあさん。

 そんなにかなしそうな目をしないで

 わたしを■てないで

 わたし、見つけたから

 お友達と一緒に帰る方法を





 ■■■月■■■日(■■■曜 ■■■)


 ■■さんを■■た

 ■■さんも■■た▼▼さんも●●さんも

 あのブスは■■た刺しにし■川に投げ捨て■

 気に入らないヤツは全員川に■した

 先生が■■てきたけど■■■

 ■■を振ったらみんな■■ゃ■■■■なってトマトみたい

 カッターが刃こ■■■■手が■っ赤になって

 あのぬいぐ■■みたいに■がちぎれて

 あの人形みたいに■■が切れて



 でもだいじょうぶ

 これでみんなと一緒にカエれる

 これでおかあさんも満足してくれる

 これでわたしは ずっと家にいられる





 くっきー月けーき日(どよう よくハれたひ)


 みんな、マッカなどれす着て、マッカなルージュ引いて、おウチにやってきた。

 おかあサン。おともだち、ツれてきたよ。

 みんなでおしゃれして おとまりかいするんだ。

 だから、わたしたちをおうちに入れて。

 たくさん、けーき、焼いてあげて。


 おともだちとイッショに、おとなのヒトたちがたくさんおウチにヤってきた

 今日はぱーてぃだ

 でも、おカアさんはダレもうちにイれずに、ずっといんたーほんで泣きながらサケんでいた

 なんでだろう?














 《――■■市で発生した、●●女子高校連続殺傷事件の続報です。

 こちら、容疑者とされる女子生徒の自宅マンション前です。

 先ほど、女子生徒の母親のインタビューが取れましたので、お伝えします――》



『ちがいます ちがいます 

 私の昔の言動がきっかけで、こんな事件が起こったなんて……言いがかりもいい加減にしてください!

 本人の日記に書いてあったなんて、そんなこと知りません!

 私はただ、心配で……娘にまともになってほしかっただけ……

 中学まで勉強させてばかりだったから、今度こそまともな人間になる為に、お友達を作りなさいって、親として当然のことを言っただけなのに!


 ……

 …………え? 何がおかしいんです?

 だって、お友達が出来ない子なんて、人間じゃないですよね?

 そんなの当たり前でしょう?』



 完


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― 新着の感想 ―
[良い点] すごい、お母さん確実に毒親じゃん。 私も友達はあまりできない性格だけれど、こんな事になったのは確実に親の責任じゃん。なんで家に置いてけぼりにするの?それはトラウマになるに決まっているよ。こ…
[良い点] しいな ここみ さんの割烹から読みに来ました。  ……辛い、読んでいて滅茶苦茶辛くなるお話しでした。ラストの救われなさに、また何とも言い難い辛い気持ちになりました。
[良い点] 主人公も気の毒ですね。 母の教育もありますし、自身の人付き合いがなかったので人の気持ちの気付きがなかったので、汲み取れなかったのですね。 影で集団で悪く言われてたと分かると精神が病んで暴走…
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