「魔女…様…」
「さあ、ユウネ、今日はこれまで。年の暮れに街を彷徨うのは良くない。怖い魔女様に見つかる前に、さっさと家に戻ろう。」セレストは人差し指を空に指し示した。そしてユウネの手を引き、家の方へ歩き始める。
ユウネは帰路に身を向けつつも、立ち止まって振り返り、人気のない通りを見つめていた。
「魔女…様…」と、ぽつりとつぶやく。
日が暮れる前に、二人は家に戻っていた。
「ユウネ、そろそろ休む時間だよ。実はまだ、魔法の使い方や他国の情報などを転送していないんだけど。『箱』の中に入ってみてくれるか。」セレストはリビングルームで立ち止まり、隣の部屋にある四角形の「箱」を指さした。
部屋のドアが半開きになっていたため、ユウネはセレストが「箱」と呼んでいるものを見ることができた。それは、ユウネが目覚めた時、自分が中にいたその「箱」だ。ただし、それは「箱」というよりもむしろ何かの基盤のようだった。「箱」はテーブルの上から床に移動しており、いつセレストが移動させたのか、ユウネにはわからなかった。もともとテーブルの上にあった箱は長方形だったが、今は床にある箱は正方形になっていた。
「同じ『箱』だよ、ユウネ」セレストは体を前に傾け、指で唇を封じる「シー」という仕草をして、秘密を共有するような微笑みを浮かべた。
ユウネが箱の中に立つと、箱の縁から半透明の金色の光が立ち上がり、まるで透明ながら形のないガラスのようだった。そして、ユウネは深い眠りに落ちた。
セレストは何かの力で箱をワークテーブルの上に移動させ、ユウネが横になるようにした。
「O antiqua et plena sapientia sorciere, da mihi potentiam. Vita textor, necte memoriam hominis, construe praeteritum et futurum ejus. Da ei sapientiam et potentiam。」
(古より賢し魔女よ、我に力を賜え。命を紡ぐ者よ、此の者の記憶を編み、此の者の過去と未来を紡げ、此の者に知恵と力を与えんことを。)
セレストは複雑で長い呪文を呟き始めた。
深夜の闇が支配する空間が、一瞬にして金色の微粒子で満たされる。美しい黄金色の降雨が、あたかも天空から舞い落ちるように、宵闇を彩る。微かに囁かれる魔法の詠唱は、その光の粒子を舞い踊らせ、空間を幻想的な夢景色に塗り替える。それは、途方もない美しさと刹那の悲哀が交錯する光景であった。