ようこそこの世界へ
広々とした街道は一片の埃もなく、まだ点灯されていない街灯がゆらゆらと微光を漏らす。店舗の窓越しには、豪華な人形や複雑に作られた時計が映っていた。夕暮れ時、時間が一瞬、静止したかのように感じられた。
彼女は一人、その広大な街道に立ち続けていた。
...
少女の瞼が開き、窓から吹き込む風が白いカーテンを静かに揺らす。身を起こすと、彼女は自身が何とも言えぬ容器の中にいることに気づく。その容器は、周囲の何気ない日常を纏う部屋とは違和感を醸し出していた。
黄色い瞳と茶色の髪が少女を特徴づけていた。
扉が開き、空間に一人の女性が姿を現す。ピンクの髪に蒼色の瞳を持つ彼女は、どこか大人びていながらも少女のような天真爛漫さを帯びていた。二十余りの年月を重ね、その身に纏う服装は凛とした美しさを放っていた。
「目覚めたか、ユウネ。さて、何と言おうか......何はともあれ、ようこそこの世界へ、ユウネ!」彼女の声は溢れんばかりの熱意に満ちていた。
だが、ユウネはただそこに坐り込んで、静かに彼女を見つめていた。
「思ったより静かな子ね、ユウネ。」
「ユウネ?」美しい顔立ちの少女が、ようやく小さな声で尋ねる。
「そうよ!ユウネ・シンクレア、それがあなたの名前よ。あ、私の名前はセレスト·シンクレア、あなたを創り出した者なの。」彼女の笑顔は、何度も鍛え上げられたかのように見え、変わることなく完璧に美しく輝いていた。
「創った?」静かな声で問う。
「創った?」ユウネは表情を変えず、その声は湖面を撫でる風のように、それでいて一筋の冷たい疑問を込めて問うた。
「私のこと、お母さんと呼んでいいわよ!」
「お母さん...」
「そうよ、上手ね。」セレストはユウネの頭を軽く叩いた。しかし、それは子を撫でる手つきというよりも、埃を払い落とすような仕草であった。
街道へと続く道を手を引かれて進むユウネ。道路は広々と広がり、清潔さが際立っており、その一部でも、風が一片の埃を運んでくることは許されない。夕闇が迫る中、街の光景は夢の中の世界のように揺らめき、現実から切り離されたかのような感覚を呼び起こす。
「ようこそ、ハーロウの町へ、ユウネ。」セレストの笑みは少し静かになっていたが、それは代わりに包み込むような暖かさを醸し出していた。
手を握りしめ、遠くから見れば、二人はまるで親しい姉妹のように映るだろう。
セレストは微笑みながら、ショーウィンドウ越しのマネキンや美しく装飾されたケーキを指差す。その大声の笑い声と共に、この町の物語が彼女から語られていく。
セレストは微笑みながら、ショーウィンドウを通じて見えるマネキンや、装飾されたケーキの模型を指差す。彼女の口からはこの町の物語が次々と滔々と語られ、その声は静かな夕暮れの街に響き渡る。
町には様々な店が軒を連ねていたが、どれも営業をしているようには見えなかった。町には二人だけがいるかのようだった。そして、夜が訪れる。