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母さんに5種類の方法を教えてもらったんだけど、それで小袋を作ることができちゃったからびっくり

新しい教科が増えて、そのあおりを受けて隅っこに追いやられているのが家庭科と聞きました。実際の生活の中で針を持つことが必要は場面があると思います。それで簡単に、なるべくかみ砕いて説明できればと考えて書き始めました。 今回は玉結び、並み縫い、半返し縫い、全返し縫い、玉留めの5種類を説明しました。この基本ができれば小物作りはできるようになります。

 幼馴染の八重を登場させることでパッチワークなど、他のことも取り入れていきたいと考えています。

 僕は小堀健太。神戸市内の市立高校の一年生になったばかりの15歳だ。自分では いたってフツーの高校生だと思う。

高校だって一番の決め手は家から徒歩圏だということだ。 高校のすぐ南側に小学校と中学校があって、ほんの少し前までは僕もその中にいて走り回っていた。今でも毎日のように小学生や中学生の声が聞こえてくる。特に体育の時間はもろに聞こえてくる。それをうるさい と言う人もいるようだけれど、僕にとっては自分の姿と重なって、懐かしくほほえましく感じている。

 小学校の校庭にはシンボルツリーともいえる立派なクスノキがある。僕が通う高校からもそのクスノキは見える。僕は毎日そのクスノキが見られることに満足している。

 以前学校を改築することになった時、市からはそのクスノキを伐採して校庭を広げるという案が出されたらしい。それを知った在校生と卒業生、その保護者、そして地域の人たちが大反対をして市に直接抗議をしてそのクスノキが残されたという経緯がある。そのくらいこの地域のみんなにとってあの高くそびえるクスノキは大切な存在なのだ。 今でもクスノキは風をはらみ葉をゆらし影をつくり木漏れ日を注いでいる。


いつものようにクスノキを視野に入れながら登校すると、これもまたいつものようにグランドで朝練をしているサッカー部の姿が見えた。

それを遠巻きに見ている女子達も見える。

 

 ・・・洋介がいるんだろうな・・・


 洋介 とは、前田洋介。 幼稚園から一緒の幼馴染み というやつだ。

成績は常にトップクラスでスポーツも万能、おまけに男の僕から見てもハンサムでカッコいい。学年の中心的存在で、学校行事の時には委員長としてみんなを指揮する立場でもあった。スターであり続けているのは当然と言える。 いつも自信満々なのも当たり前だし、高校生になってもそれは変わらない

一年生なのにレギュラー入りを有力視されていて、朝練にも選手候補の一人として参加しているのだ。


 僕は昔から粘土細工や工作、絵を描いたりするのが好きだったから、中学生の時からずっと、そして今も美術部だ。 土日の練習もなければ朝練もない。 洋介のように脚光を浴びた経験もない。 僕にできることと言えば、洋介が決めたことに協力することくらいだ。 僕はいたってフツーの男の子なのだ。


 僕の目下の悩み と言えば、自分専用のタブレットがないことだ。美術部といえばキャンバスに描く姿が想像されると思うけれど、今はそれだけではなくタブレットに描くこともあって、むしろその方が多いし実際先輩はほとんどがそうだ。 僕もそうしたいけれど、なにせ自分のタブレットを持っていないから無理なのだ。

 アルバイトをして買うしかない と思案中だ。


 洋介に対してはひがむ とか、ねたむ などと言う感情は微塵もない。幼馴染みながら違う世界に生きているような 洋介は皆にとってそんな存在なんだと思う。

 

 僕は僕なりに今の僕に納得しているし、今の僕でいいと思っている と思いたい。


 父さんが中学校の教師で、子供のころから 先生の子 と言われ 見られていたので、なんとなく窮屈に過ごしてきた。その上僕が中学生になったことをきっかけに、母さんは昔の経験を活かして近くの保育所にパートで働き始めた。 最悪だ と思った。 窮屈が倍化する気がした。そのせいかどうか、単純にそういう時期だったのかは今となってはわからないけれど、ささやかな反抗を繰り返していた。

 今はもうそんなことからももう卒業して、 というより、二歳違いの姉ちゃんから 「そんなかっこ悪いこと、やめなさいよ!」 と一括されてしょんぼりして、納得して、反抗をやめた と言う方が正しい気がする。

 弟というものは、多分誰でも姉には弱い・・・と思うのだけど  どうなんだろう? 僕だけかなあ?


 

 母さんは平日は当たり前として、土曜日も出勤することもある。買い物は仕事の帰りに通る商店街で済ませているが、それらを使って実際 晩御飯を作っていたのは姉ちゃんと僕だったので、簡単な家庭料理なら作れるし、料理番組や家にある料理本を参考にしてレパートリーを増やしてきた。

 

 以前は姉ちゃんと当番で作っていたけれど、姉ちゃんは高校三年生になってから進学塾に通い始めたから帰宅がずいぶんと遅いので、最近は平日はほとんど僕が晩御飯を作っている。 母さんが仕事が休みの日は僕が休める日でもある。

 少し前から料理男子と言う言葉ができて、テレビでもてはやされているけれど、そんな言葉が作られるよりずっと前から僕は料理男子だった。

 テレビに出たり本を出したりするほどの実力もないし、それを目指して頑張る気もない。しかし僕は、れっきとした料理男子だと自覚している。きっと将来は良き夫、良き父親にはなれるだろう くらいぼんやりと考えていた。 



 それが覆されたのは、教室で聞いた女子達の井戸端会議的な話だった。



「うちのお父さん、たまーに張り切って料理なんてするんだけど、無茶迷惑!」

「うちもそう。

 片付けはお母さんがするものだと思ってるからホント迷惑。」

「それはダメね。

 それに妙にこだわって普段使わない調味料とか買ってくるし。シーズニングで十分おいしいのよ。全く家計

 を考えてない証拠。ホント無駄が多いのよね。

 最近はレトルトとかレンチンでおいしい物がたくさんあるし、コンビニやスーパーのお惣菜もおいしいし。

 人数が少ないと作るより経済的だったりもするし、手軽だし、何より味が一定してるから安心だし。」

「そうよね。今では最後の仕上げだけすればいい なんてものもあるしね。」

「そうそう。

 そのうちなんでも機械が判断して仕上げてくれるんじゃないかなあ。」

「そうね、ロボットに任せてたらできる 的な?」

「今でもあるんじゃないの?」

「そうだけど、そうじゃなくて、ほら、洗濯機だって洗濯物の量に応じて洗剤や柔軟剤の量を判断して投入し

 てくれる洗濯機があるじゃない。 そんな風にあらかじめ調味料を入れてたら勝手に組み合わせを判断して

 仕上げてくれる器具ができるかも。」

「なるほど。 ロボット料理ってこと?」

「そう。掃除もロボット、洗濯もロボット、料理もロボット。」

「アイロンは?」

「ノーアイロンの服を選ぶ!」

「他になにかあるっけ?」

「ううーーん・・・・・」

「ボタン付け とか 裾直し とか?」

「それ!

 うちのお父さんなんて当たり前のようにお母さんに頼んでるわ。」

「うちの兄ちゃんもそう。

 ボタン付けもだけど、裾上げとか。

 自分でやれ!って思っちゃうわ。」

「同感!

 今からは料理男子より裁縫男子よ!」

「裁縫男子!? それいいわ!  必須!」


 僕は女子の話を、なにやら勝手なことを話してるなあ と思いながらぼんやり窓の外を眺めながら、聞くともなしに聞いていた。 どうせこんな話をしているのは池崎・・? 苗字は知ってるけど名前は知らない。 

 いつも女子の中心にいる池崎なにがし に違いない。彼女は 明朗快活 そのものといった感じの人だ。


 ・・・・・裁縫男子ねえ・・・


「ねえ、そう思わない?八重ちゃん。」


 ・・・八重???・・・もしかして?・・・


 八重  近藤八重  洋介と同じ、幼稚園から一緒の いわゆる幼馴染み というやつだ。

コボリ と コンドウ だったせいで幼稚園ではいつも僕の近くにいた。家も近かったから親子四人で幼稚園に通っていた。 「けんちゃん、なにかがあっても遅刻しないように早めに行くのよ。」 と言って毎日迎えに来てくれていたのだった。 昔からしっかり者で、母さんは「八重ちゃんは私よりお母さんみたいね。」と笑いながら言っていた。

 僕が毎日早めに登校するのはその時の言葉が刷り込まれているからだと思う。


 僕は八重の名前が出た瞬間、耳を大きくして聞き始めていた。


  ・・・八重は何というだろう?・・・気になる・・・


  ・・・それにしてもいつの間に 名前で呼ぶほど仲良くなっていたんだろう・・・


  ・・・ あれは確か・・池崎 なんとか っていったと思うけど ?・・・


「そうね、なんだってできないよりはできたほうがいいし・・助けてもらえるといい かな?」

八重は困ったような顔でそう答えていた。 


「そうよね!そう。助けてもらいたい時ってあると思うのよね。」

「「「そうそう」」」


「世の男子諸君、女子の役にたつ存在になることを心掛けよ!」

と言ったのも池崎なにがし だった。

「「「心掛けよ!!1」」」

 自分たちで言って笑い転げている。


 男子たちはあきれ顔でその様子を見て、そして知らん顔を決め込んでいる。

逆らってもろくなことはないと知っているのだ。


 女子達はまた話に花を咲かせ始め、いつのまにか違う話題になっていた。


・・・・助けてもらえる   か・・・・


 この言葉が僕の頭から離れなくなった。


 ・・・・・裁縫ができたほうがいいのか・・・・・


 ・・・・・そういえば父さんもボタンが取れたときなんか母さんに頼んでるなあ・・・



中学校の教師をしている父さんは、土日には部活の指導や引率で家にいることは滅多にないし、姉ちゃんは土日も進学塾に行っているから帰宅は遅い。

 母さんのパートの仕事は土曜日は隔週で休みだし日曜日は完全に休みだ。休みの日は僕と二人で家にいることが多い。僕が入っている美術部は土日には部活がないからちょうどいい。 ばっちり都合がいい。


  ・・・ 母さんの趣味は確かパッチワークだったよな 母さんに頼んでみようかなあ ・・・・


 僕の頭の中に、

「あ、ありがとう。ボタン、つけてくれたのね。」

「うん、どうってことないよ。」

八重と会話をしているシーンが浮かんできた.


「 おはよう、 なにニヤニヤしてるんだ?」

「あ、おはよう。 別に ニヤニヤなんかしてないよ。」

「そっかあ? まあ いいけどね。」



 しばらくして教室に入ってきて、僕の前の席に座って僕に軽口を向けてきたのは 小林翔太 だ。

中学校は違うが席が前後になって自己紹介したときに、名前の最初と最後が一緒だったことを笑いあったことがきっかけで意気投合した。



 翔太は僕と違って阪急電車で電車通学をしている。

僕にとっては当たり前の風景が、翔太にとっては驚きだったらしい。それはこの辺りには何と言っても桜が多いということだ。 

 そういえば近くにある王子動物園には春、夜桜を楽しむ『通り抜け』の行事がある。

朝は急いで登校するから、王子公園駅から動物園の前を通って、坂を上って学校に来ているが、下校はわざわざ学校から北に上がって遠回りをして北側の道を通って帰るのだそうだ。

 なぜかと問うと「そこに桜並木があるからだ。」と言う。 八重桜もあるし花びらが白い桜もあって、桜が咲く時期がずれているので長い期間桜が見られるのは本当だ。 葉桜を入れるとずいぶん長い。

 僕はそれを当たり前と思っていたけれど、他所から来た人にとっては違うんだろう。


 僕は中学校の時と同じ美術部で、翔太は写真部だ。美術部も写真部も部員が少ないということで、部室を共有している偶然も手伝って僕たちは親しくなった。

 僕らの部室の隣が、八重が入っている家庭科部の部室だ。部室 というより家庭科教室がそのまま部室として活用されている ということだ。

 家庭科部は部員は結構多いし利便性も考えて、広い家庭科教室を使っている。月に一度か二度、お菓子を作っていて、隣の部室にいる僕らもご相伴にあずかっている。 それは僕らの楽しみになっている。

 


「なんか、女子が賑やかだけど、なにかあった?」

「あったようななかったような・・・ただ、男子もボタンくらい自分で付けられるようになって、女子の役に

 立て とかなんとか。 今は料理男子より裁縫男子だ とかって。」

「ふーーん、 ボタン付けねえ・・」

「あの、池崎なんとか っていう女子が言って、自分たちで笑ってたよ。

 今はもう違う話になったみたいだけど・・」

「池崎?  ああ、池崎美和子のこと?」

「翔太は知ってるのか?」

「うん、小学校も中学校も一緒だったからね。

 昔っからあんなふうにいつもみんなの中心にいるって感じ。」

「ふーーん そっか。」

「明るくって何にも考えてないって風に見えてそんなことないんだ。

 結構 正義の徒なんだ。 だから周りからの信任も厚いんだよ。

 中学の時はいつも委員をやっていたし、最後は生徒会の役員にも選ばれてたしね。

 頭もいいし、運動もできる。 確かバド部 バドミントン部の部長もやってた気がする。

 この学校はバドミントン部がないから、何部に入ったのかなあ。

 試合にも出てて結構活躍してたような気がするんだけど。」

「そうなのか。」


「来週は委員の選出だろ? 確か月曜日だったけ?

 立候補がなければ担任の先生が今までの経歴から選んで指名するって聞いたけど、

 僕は、あの池崎美和子が選ばれると思ってるよ。」

「そうかなあ?」

「なんだ、他に誰かいるのか?」

「僕の中学でも活躍してた前田洋介 だよ。

 あいつも成績もいいしスポーツも万能で。常に学年の中心にいて、学校でもずっとスターだったよ。

 委員にもいつも選ばれてたし・・・」

「前田?  ああ あのハンサムボーイか。

 健太は詳しいのか?」

「うん、幼稚園から一緒だったからな。

 幼稚園の時からスターだったよ。」

「そうか。  じゃあどっちが選ばれるかわからないなあ。」

「そう思うよ。」


「さっきの話だけど、男子も料理も裁縫もできたほうがいいって僕も思うよ。

 僕、どちらもまあまあできるし。」

「え? ほんと? すごいなあ。」

「母さんもフルで働いてるからな。 小学校の家庭科でちょっと習っただろ?

 その時、休みの日に母さんに教えてもらったんだ。

 ボタンくらい自分でつけるし、親のも頼まれてつけることもあるんだ。」

「そっか・・ えらいなあ・・・

 僕の母さんも保育所にパートに行ってるから料理は少しはするけど、裁縫は母さんに頼りっぱなしだよ。

 やっぱり自分でボタンくらい付けられる方がいいのかな。」

「健太もやってみたら? 思ったより達成感があるよ。」

「そうか?」

「そう。 だって役に立ってるって確信できるじゃないか。」

「・・・実は母さんが趣味でパッチワークをやってるから、頼んでみようかなって思ってたところなんだ。」

「それ、いい! 頼んでみろよ。」

 

 

  キンコーーーン カンコーーーーン

 


 鐘の音と同時に朝練をしていた連中がぞろぞろと急いで教室に入ってきた。

 教室に先生が入ってきた。

 皆一斉に席に着いた。

 



 その日の夜、僕は母さんに聞いてみた。

「ねえ、母さん。 父さんって自分でボタンとか、つけてる?」

「全然。 急に何? そんなこと聞いて・・何かあった?」

「うん・・まあ・・・

 クラスの女子達が男子もボタンくらい自分でつけられる方がいい とかなんとか言ってたし、翔太もできる

 らしいよ。お母さんがフルで働いてるから小学生のころからやってるんだって。

 だから、母さんはどう思ってるのかなあって。」

「そりゃあなんだってできないよりできたほうがいいに決まってるじゃない。

 私だって風邪をひくこともあるだろうし、頭痛がするときだってあるかもよ。

 そんな時、ボタン付けて なんて言われたらがっかりだもの。

 翔太君みたいに自分でしてくれると、いいよね。逆に頼んだりしてね。」

「そっか。 そうだよね。

 なんだってできないよりできたほうがいい  か。 

 ねえ、相談と言うか、頼みがあるんだけど・・

 休みの日、僕にボタン付けとか、教えてよ。」

「え?

 まあいいけど・・ いきなりどうしたの?」

「なんとなくね。僕も父さんみたいに母さんに頼んでばかりじゃダメじゃないかって思ってさ。

 ボタンとか、自分でつけられた方がいいかな って思ってね。」

「ふーーん。

 ボタン付けねえ・・

 いきなりボタン付けじゃなくて、針を持つことから始めなくっちゃ。」

「小学生や中学生の時、家庭科、あったよ。」

「だって、それ以来でしょ?

 確認も兼ねて練習しましょう。

 それでいい?」

「うん。まあ、いいけど・・・

 その代わり自分でできるように教えてよ?」

「それは自分次第よ。

 教わったこと、ノートにまとめてみたらいいんじゃない?けんちゃんノートにまとめるの、得意だし。」

「ノート?  ノートか  なるほど・・・」

「でも、私のやり方でいいの?」

「うん。」

「教科書通りじゃないかもしれないよ?」

「でもそれでできてるよね、あれこれ。」

「まあ、そうだけど・・・」

「それならそれで充分だよ。」


 次の休日から母さんに裁縫を教えてもらうことになった。

 僕はノートを数冊準備をした。 



一日目  

 

 「じゃあ、裁縫道具、持ってくるわ。」

母さんが自分の裁縫道具を持ってきた。中にはいろんな道具が入っていた。

名前も使い方もわからない道具がたくさんあったので、まずその名前や使い道を教えてもらおうと思った。


 母さんは裁縫箱に入っている道具を、名前や使い方などを一つ一つ丁寧に教えてくれた。

 僕はそれを書き残しておこうと思った。


 その日から僕の裁縫ノートが始まった。



ノート一冊目  表書き  道具


 ページ1  

1.針 関連

   針山   ・針を刺して保管する物

        ・フェルト生地でできているものが多い

        ・中には化繊綿が入っている  昔は髪の毛が入っていた


   縫い針  ・布を縫うための針

        ・絹針、ビーズ針、パッチワーク針などがある

        ・針穴の上に切れ目があって、そこから糸を入れることができるタイプもある

        ・とがっている方を針先と呼ぶ


   待ち針  ・布を2枚合わせて止めるための針

        ・針の根元に留め具になるものがある

   

   ミシン針 ・ミシンをかけるときに使う

        ・布の厚みによって太さを使い分ける


   指ぬき  ・指輪の形をしていて、コルク製、金属製、鹿の皮製などがある

        ・小さい穴がたくさん開いていて、そこに縫い針を入れて固定して縫うときに使う

        ・厚地の時や縫う距離が長い時に便利



 ページ2  

2,鋏 関連

   裁断鋏  ・裁ち切り鋏ともいう

        ・布を裁つときに使う


   握り鋏  ・糸切り鋏ともいう

        ・糸を切るときに使う


   工作鋏  ・マジックテープ、接着芯、紐など布と糸以外の物も切るので必要


   ピンキング鋏  ・切り口がギザギザになる

           ・手芸に使うことが多い



 ページ3   

 3,糸 関連

   縫い糸  ・布を縫い合わせるための糸 

        ・絹糸、木綿糸、ポリエステル糸などがある

        ・布に合わせて素材を選ぶ

  

   しつけ糸 ・縫い糸よりも弱く、安価

        ・布に型紙を置いて待ち針で止め、しつけ糸一本取りで型紙の周りを縫って縫い目線を描く

         必要な部位の必要枚数の型紙を準備するときに取る技法

           直線は3センチ間隔、カーブの場合は細かく縫う

        ・布を二枚、中表に合わせてから型紙を置いて待ち針で止める  しつけ糸二本取りで型紙

         の周りを、糸の両側を2センチくらいに切りながら縫う  型紙をはずしたら、下側の布

         をしっかり押さえてから上側の布を静かに持ち上げて、浮かせた状態で間の糸を糸切り鋏

         で切る  布を元の状態に戻して、しつけ糸を抜けにくくするために掌で上から押さえる 

           二枚一度にしつけができるのが利点

           縫い合わせたときにしつけ糸が残りやすいので要注意

           切り躾、または 切りび という

  

   ミシン糸 ・ミシンをかける時に使う

        ・糸巻に巻かれている

        ・化学繊維、木綿などがあり、素材によって使い分ける

   

   ステッチ糸 ・洋服にステッチをかけるために使う

         ・他の糸より太く、光沢がある


   ボタン付け糸 ・コートなどのボタンをつけるときに使う

          ・手縫い糸よりも太く強い


 ページ4   

 4,他

   物差し  ・20センチ差し、30センチ差し、50センチ差しなど、竹製のものがある

        ・カーブ差しは製図の時に曲線を描くために使う

        ・布が透けて見えるプラスチック製の物もある

        

   糸通し  ・糸が通りにくい時に使う

        ・細い金具の輪を針穴に入れて、そこに糸を通して持ち手を引っ張って抜く


   ニッパー ・ミシンの縫い目をほどくときに使う

        ・長いほうを糸に引っ掛けてミシン目を切る

   

   チャコ  ・布に印をつけるための布用の色鉛筆

        ・三角形の物や鉛筆タイプの物 紙状で写し描きするタイプの物がある

        ・指ではじくと粉が飛んで色が消えるが、濡れると消えなくなるので要注意

    

   紐通し  ・紐やゴムを通すための道具  

        ・安全ピンで代用できる


     

  新しいことを教わった時に新しい情報を書き加えるために、余白を残したままにすることにした。



「お道具はだいたいわかっただろうから、次は本番。

 まずは布一枚で練習してみようか?」

「練習?」

「そう、縫い方の練習。」

「わかった、やってみるよ。」



 母さんが20センチ四方位の大きさの布を用意してくれていた。それは格子柄の木綿の布で、ギンガムチェックというらしかった。

「チェックだと縦も横もそれを基準にできるから縫いやすいわよ。」

と言った。

 僕はその時はよくわからなかったが、すぐにその言葉の意味が分かるのだった。


「さあ、けんちゃん、まず針に糸を通しましょう。」

「そのくらいできるよ。」

「わかってるかど、最初から説明 ということで。」

「はあ・・・」


「糸切り鋏を利き手に持って、もう一方の手に縫い糸を持つ。」

「持ったよ。」


「糸の先を糸切り鋏で斜めに切る。」

「斜めに切る?」

「そうよ、斜めに切るの。

 糸の先が斜めに切られていたら、針穴に糸を通しやすくなるの。

 糸の先がまっすぐだと糸の先が開いてしまって針穴に通しにくくなるからね。

 小さいことなんだけど、やっておくと後が楽だからね。」

「わかった。  斜めに切るんだね。」


「糸切り鋏はいったん置いて。」

「・・・・」


「次は利き手に糸を持って、もう一方の手に縫い針を持つの。

 針は針穴を上に、針先を下に向けて持つの。」

「・・・・」


「針穴に糸を通す。

 針穴が見えやすいように、針穴の向こうに白い紙とか、背景を明るくしてから通すといいと思うよ。」

「・・・確かに  バックが明るいと針の穴がよく見えるよ。」


「通した糸はそのまま腕を腕をのばして引っ張って、それから針を起点にしてそのままぶら下げた状態にして

 糸端から10センチくらい短いところで糸切り狭で切るの。」

「もっと長いほうが通す回数が少なくていいんじゃないの?」

「長すぎるのはNGよ。

 下手の長糸 って言ってね、 あまり長いと糸が縫ってる途中で絡まったりもつれることがあるし、

 糸がすれてちぎれることがあるからね。」

「へえ、そうなんだ。  長けりゃいいってもんでもないんだね。

 でも、思ってたよりは長いよ。」

「そう? 短すぎるのも糸の無駄遣いになるからね。  適当っていうのは難しいのよ。

 自分で自分にとっての適当な長さ をさぐりながら決めていくしかないわね。」

「母さんが言った通りでいいよ。」


「次は玉結びね。  縫い始めに作る糸のコブ のことよ。

 長いほうの糸の先を人差し指に一回巻いて、それをぐるぐるって撚って引っ張ると小さいコブができるの。

 何回巻いたかでコブの大きさが決まるの。

 これは糸を切る前でもできるやり方よ。


 もう一つは、利き手に糸を持ってもう一方の手に針を持ってから、長いほうの糸先を針に二回か三回巻き付

 けて、針を持ってる手でそれをしっかり押さえてから利き手に縫い針を持ってそのまま引っ張って針を抜く

 の。 そうしたら小さな糸のコブができるの。

 こちらは糸を切ってからじゃないとできないやり方よ。


 どちらのやり方も正しいんだから、どちらでも。

 けんちゃんのやりたい方でやってね。」

「うん・・・  両方できるようにしてケースバイケースで使い分けることにしよう。 なんとなくそれが正 

 解なような気がする。」

「それがいいわね。 持ち駒は多いほうがいいものね。」


「玉結びができたから、次は実際に布を縫ってみようか。

 まずは基本中の基本。 並み縫いね。」

「並み縫い?」

「一番基本で、フツーの縫い方よ。

 糸が通って玉結びをした針を利き手に持って、両手で布を持つの。」

「・・・持った。」

「布は上下に動かしながら、縫い針を前に押す感じで縫い進めるの。

 布と縫い針の距離が遠いと縫い目が大きくなるし、近いと縫い目が小さくなるの。

 布を持つ手を少しずつずらしながら縫い針を進めていくと縫いやすいかもしれないな。」

「布をずらしながら?」

「両手の間隔を保つ ってことが大切。」

「針が進んだら、それに合わせて布を持つ手もずらすってことだね?」

「その通り。  ゆっくりでいいからやってみてね。」



「できたけど、母さんとはずいぶん違うと思う。  なんだかなあ・・・・」

「最初から母さんと同じようにはできないわよ。

 何事も慣れ よ。 何度もやっていたら そのうちすいすいとできるようになるから。」

「そう願いたいよ。」


「少しずつ  4目か5目を縫ったらいったん針を抜こう。」

「え? 全部縫ってしまうんじゃないの?」

「一度に縫ったらだめ。

 一度に縫って全部を一度に引っ張ってしまったら、縫い縮みができてしまうのよ。

 縫い縮みができてそのままにしてしまうと、糸が引っ張られて縫い目が切れることがあるからね。

 4目か5目縫い進んだらいったん針を抜いて、その都度 布を引っ張って 布をしごく っていうんだけど

 布をしごいて縫い縮みをなくしてから 次を縫っていくのよ。」

「布をしごく?  なんか布をいじめるみたいな言い方だなあ・・・」

「そうかもしれないわね。

 布を引っ張るんだからね。 引っ張っても縫い縮みが直らないときは、面倒だけど一目ずつ縫い目を

 ゆるめて縫い縮みを直していくの。 

 それくらい縫い縮みはNGってことよ。」

「へえ よくわからないけど、やってみるよ。」



「こんなかんじ でいいのかな?」

「そうね。 縫い縮みがないから上出来よ。

 その調子でもう少し並み縫いをしよう。  10センチくらい縫ったらいいからね。」

「わかった。」


「できたね。 じゃあ最後は玉留めね。」

「玉留め?」

「最初 縫い始めに糸が抜けないようにするのが玉結び で 最後に糸を縫い留めるのが玉留めよ。」

「なるほど  で、やることは一緒?」

「一緒と言えば一緒かな。」


「縫い終わりの位置に縫い針を置いて、利き手じゃない方でそっこを押さえて、利き手で縫い針の近くの

 縫い糸を持って、縫い針に糸をぐるぐると2回か3回巻き付けて、縫い針と一緒にしっかり押さえたまま、

 もう一方の手で縫い針を持ってそのまま抜く そうしたら糸のコブができるの。

 これも糸を針に何回巻き付けるかでコブの大きさが決まるのよ。」

「じゃあ、3回巻こう。  

 縫い針を置いて 糸をぐるぐる巻いて 針を抜いて で コブができた  と。」

「そうしたら糸切り鋏で玉留めの上2ミリで縫い糸を切る。 で 出来上がり。」



「次は全返し縫いの練習よ。お茶でも飲んで少しゆっくりする?」

「お茶はいいよ。それよりゼンガエシヌイって、なに?」

「まず、玉結びをしておいてね。」

「あ、そっか、わかった。」


「それじゃあ全返し縫いをやってみようか。

 まず布に縫い針を入れて一目縫ったらそのまま縫い針を抜くの。」

「一目だけ縫うってこと?」

「そう。 玉結びが抜けないように気をつけてね。

 一目縫ったら最初に縫い針を入れたところに戻って縫い針を入れる。」

「戻る? 」

「そう。 縫ったところに戻って縫い針を入れて、最初の縫い目の長さの2倍の大きさの縫い目になるところ

 に縫い針を出すの。」

「・・・・ 戻って 入れて 2倍のところに縫い針を出して・・・

 あ、わかった!  縫ったところに全部返って縫うから全返し縫いなんだね?」

「そうよ。 読んで字の如く ね。」

「並み縫いと違って一目ずつ縫っていくってことだね?」

「そうよ。 だから縫い縮みを直す作業は必要ないはずなんだけど、あまりきつく引っ張ると

 布にしわができるから、そうならないように気を付けてね。」

「うん。」

「それを また10センチくらい縫ったら玉留めをして、糸を切って出来上がりよ。」

「わかった。」


「じゃあ最後に半返し縫いね。」

「半返しってことは、半分戻るってことだよね?」

「そう、その通り。

 玉結びをして、一目縫って、最初縫った縫い目の半分のところに戻って縫い針を入れる。

 そして最初と同じくらいの縫い目で二目めの縫い針を出す。

 また、半分戻って縫い針をいれる  この繰り返しよ。」

「さっきは全部戻ったけど、今回は半分だけ戻るんだね?

 これも一針ずつ縫うんだね?」

「その通りよ。

 これも10センチ縫ったら玉留めをして、縫い糸を切って出来上がり。」

「・・・針を入れて  半分戻って  次を縫って  また半分戻って・・・  」


「母さん、できたよ!」

「見せて。」


「すごいじゃない、けんちゃん。

 これで五種類の言葉とやり方を覚えたってことよ。

 この五種類ができたら、実際物を作ることができるのよ。」

「え? これだけで?」

「そうよ。」

「ふーーーん、 物をねえ・・・」


 僕は軽く聞き流しながら、今聞いたことを忘れないようにメモを取るのに必死だった。

このメモは後できちんとノートにまとめるつもりだ。



 ノート二冊目  表書き  縫い方


 練習

  ・まず、針に糸を通す。

  ・糸の長さは、腕を伸ばしたくらいの長さを目安として針を中心にして折り返して、片方を10センチ位

   短くして糸切り鋏で糸を切る。

  ・玉結びをする。

  ・指ぬきをして、布を持つ。

  ・左右の手の間は10センチから15センチ位開ける。

  ・指ぬきのくぼみに針を入れて並み縫いをする。

  ・最後に玉留めをしてから糸を切る。


  ・玉結びをする。

  ・全返し縫いをする。

  ・玉留めをする。


  ・玉結びをする。

  ・半返し縫いをする。

  ・玉留めをする。


ノート二冊目  表書き  縫い方


 玉結び  糸が針から抜けないように糸の先に作る小さい糸のコブのこと


      1・利き手ではない方の手の人差し指に、親指を使って長いほうの糸をぐるりと巻き付ける

       ・そのまま親指をずらして糸を数回撚る

       ・親指と人差し指で糸を固定したまま針を引っ張る

       ・糸の先に小さいコブができる


      2・利き手ではない方の手で、針先を上にして親指と人差し指で針を持つ

       ・針に通した糸の長いほうを利き手で持つ

       ・針先と人差し指の間に糸を挟み、しっかりと持つ

       ・針先の付近の糸を利き手で持ち、針にクルクルと二回か三回巻き付ける

          回数は布の厚みや糸の太さでその都度判断する

       ・それをしっかりと持って、利き手で針を抜く

       ・糸の先に小さいコブができる

 

 並み縫い  ・利き手に針を持つ

       ・両手で布を持つ  左右の手の間は10センチから15センチくらいにする

       ・もう一方の手で布を上にあげると同時に針を入れる

       ・次に布を下に下げて、同時に針を入れる

       ・布を上下させるのと逆方向に針を上下させる

       ・それを繰り返す

          針を持つ手と布を持つ手が近いと縫い目が小さくなり、遠いと縫い目は大きくなる


 全返し縫い ・針を入れて一針出して糸を全部引き抜く

       ・最初針を入れたところに戻って、再び針を入れる

       ・最初の一針の2倍くらいのところに針を出す

       ・一針目の糸が出たところに戻って針を入れる

       ・これを繰り返す


       ・表から見るとミシン目のようになる

       ・裏から見ると糸が二重に重なっている


       ・並み縫いに比べると縫い目が丈夫になる


 半返し縫い ・針を入れて一針出して糸を全部引き抜く

       ・最初針を入れたところと、今針を出したところの半分のところに戻って針を入れる

       ・最初の一針の2倍くらいのところに針を出す

       ・一針目の糸が出たところと、今針が出たところの半分の一に戻って針を入れる

       ・これを繰り返す

  

       ・表から見ると並み縫いと同じように点線状の縫い目になる

       ・裏から見ると一重の縫い目と二重の縫い目がある


       ・並み縫いに比べると縫い目が丈夫になる

       ・全返し縫いに比べると速く縫えて、縫い目が少し薄くなる


 玉留め   ・縫い終わったところに、針先を上にして縫い針を置いて、利き手ではない方の手で押さえる

       ・縫い終わりの近くの糸を利き手で持って縫い針にクルクルと二から三回巻き付ける

       ・針を押さえた手で一緒に糸も押さえて、利き手で針を抜く

       ・縫い終わりに小さな糸のコブができる

         縫い始めにする玉結びと同じ作業をする



 

 午前中は道具の説明と、五種類の縫い方の実践練習だった。

僕は自分が縫った縫い目を見ながら、 下手!  と思った。それでも格子柄だったおかげで縫い目の大きさはだいたいは揃っているし、まあまあ真っすぐに縫えている。


 ・・・だから母さんはこの布にしたんだ・・・・


 そう思っていると、目の前にチャーハンが置かれた。


 え?

 あ、そうか  もうお昼だ。  そういえば腹がへった。


「さ、食べましょう。おなか、すいたでしょ?

 頑張ったもんね、けんちゃん。

 食べたら続き。

 今度は小袋を作るからね。

 試し縫いで一日終わったらもったいないでしょ?

 もうひと頑張り ね!」

「え ??・・・う、うん・・」


 思ってもいなかった小袋作り 本当にできるのか? お昼からはメモをまとめようと考えていたのに、まとめはそれが済んでからになりそうだから、夜だな  参った。

 妙に母さんが張り切ってるし、自分から言い出したことなんだから疲れたとは言いにくい。

午後も続けてやるとするか。

 覚悟を決めてチャーハンを食べた。



 母さんが布をいくつか持ってきて、

「けんちゃんの好きなの、選んでね。」

と言った。


 それらは無地、縦じま、小さな絵柄のあるもの 大きな絵柄のあるもの と様々だったが、大きさはどれもが長さは40センチ 幅は20センチ位だった。 これらが小袋用に用意されていた。



 ・・・母さんはこんなに準備をしてくれていたんだ・・・


 いつの間にこんな準備をしてくれていたんだろう  僕はそのことに驚いた。

ちょっとした思いつきで言った僕の言葉をきちんと受け取ってくれて、準備してくれたことに感謝した。


「これにするよ。」

 

僕が選んだのは、縦じま模様の布だった。


「そう、それね、わかった。

 それでいこう。

 じゃあまず初めにすることはね、まっすぐに切りそろえること。」

「まっすぐにって、もうまっすぐに切ってるんじゃないの?」

「そう見えるんだけど、大切なのは布目。

 布が曲がってると仕上がりがねじれてしまうから、布目を確かめるの。

 見てみて?」

と、布を目線にまで上げて僕に見せた。


「切り揃えるのって意外と面倒なのよね。

 でも、目印になる線を作ると簡単に切りそろえることができるのよ。」

「へえ・・ で?」

「こうするの。」


 母さんは布の端の布目を一本を持って引っ張って抜いた。


「え?」


 思いもしなかったことに僕はまた驚いた。

 布を見ると、当たり前だけれど、抜いた糸のおかげで一本の筋ができていた。


「この線に沿って切ればいいの。

 楽でしょ?

 さあ、もう片方は自分で引っ張って抜いて、それから切ってね。」


 僕はうなずいてやってみることにした。

 それは意外と簡単だった、というより、簡単にできる布を母さんが選んでくれていたのだと思った。


 「布の向こう側から明かりを当てたらもっとわかりやすくなるんだけど、目が悪くなるといけないし、

  それにまだ明るいから。 大丈夫だと思うよ。

  少しずれてもどうってこと ないしね。」


 僕はそんな母さんの言葉を聞きながら、裁ち切り鋏を持って切り始めた。


「切ったよ。 縦はいいの?」

「縦は縫い合わせるときに気を付ければ大丈夫。」

「わかった。」


「じゃあ、始めましょう。」


「布を外表に合わせて縦半分に折るのよ。外表に折ると言うのは布の表側が見える状態で折るってこと。

 折り紙を折るときみたいに色がある方を表にして折るってことよ。

 布には表と裏があって、だいたいは柄がはっきりしている方が表の場合が多いのよ。

 わかりにくい時は布の耳 布の両端を見るとわかるのよ。耳の部分に字が書いてあったりするからね。

 字が書いてあるほうが表なのよ。 こんな風に端切れになって売っている時は、柄を表にしてお店に並べて 

 あるから、わかりにくい柄の場合は買って帰った時に、すぐに布の端っこに鉛筆でもペンでもいいから

 裏側に印をつけておくといいわね。」

「そんなめんどくさいこと するんだ。」

「印をつけるくらいちょっとの時間でできることよ。

 それでずっと困らないんだから。 その方が結局楽なのよ。」

「ふーーん、そうか。 で 折ったらどうするの?」


「待ち針で止めましょう、動かないようにね。」

「それはやったことあるからできるよ。」


「布の縦の端から端までを、布端から5ミリくらいのところに打ってね。」

「わかった。」


「袋の口の方 布が切ってある方ね  そっち側の上5センチは縫わないで、5センチ下から針を入れて

 一回全返し縫いをしてから袋の底まで並み縫いをして、最後にもう一回全返し縫いをしたら玉留め。」

「え? 最初の5センチは縫わないって・・・待ち針をはずしたらぶらぶらするよ?」

「ぶらぶらしてもいいのよ。 それでいいから母さんが言ったように縫ってみて。」

「わかった、やるよ。」


「左右両方縫ったら言ってね。」

「うん。」


 母さんは立ち上がってどこかに行った。

 そして僕が言われたことができたころになると、僕のそばにやってきて次の指示をするのだった。


「縫い代を5ミリに切り揃えましょう。 それから縫い代を割るのよ。

 縫い代5ミリを両方に折り返すようにすると簡単に割れるからね。

 袋の底の縫い代は、自然に三角になるからそのまま強く押さえたら出来上がりよ。」

「・・・・・こう?」

「そう。」


「そうしたら袋をひっくり返して中表にしましょう。

 中表 というのは内側に布の表側がある状態のこと。

 さっきの逆で、折り紙の色があるの方を中にして折るのと同じよ。」

「・・ ひっくり返したよ。」


「そうしたら縫い目に添ってしっかり押さえて縫い代を落ち着かせてね。」

「縫い目に添って押さえる・・・」

「そう。それができたら今度は端から端までを、縫い目から1センチ内側に待ち針を打って。」

「さっき縫ったところの内側ってこと?」

「そうよ。 最初 縫ったところは5ミリの縫い代だったから、それよりさらに5ミリ内側に待ち針を打つっ

 てことね。

 縫い代よりも内側を縫うことになるわね。」

「わかった。端から端までってことは・・縫っていない5センチもってこと?」

「そうよ。 今回は端から端まで縫うから。  待ち針も端から端まで打ってね。」

「わかった。   これでいい?」


「それじゃあ、今 待ち針を打ったところを端から端まで縫おう。

 最初と最後は一回ずつ全返し縫いで、間はずっと半返し縫いね。」

「え?  さっきは間は並み縫いだったよね?」

「さっきはね。  でも今回は半返し縫いにするのよ。

 袋の縫い目になるんだから、縫い目が弱いと困るのよね。

 ミシンをかけるのと同じくらいの強さが要るから 必ず半返し縫いね。」

「そっかあ・・・  なんとなく納得。   両方とも端から端までだよね?」

「そうよ。」


 母さんは時間がかかると思ったのか、またどこかに行った。

母さんがどこで何をしているのか、それを聞いたり確かめたりするゆとりは僕にはなかった。

ただ黙って言われたように縫うだけでいっぱいいっぱいだった。

なにせ、メモもとらないといけないんだから、それどころじゃない。


「できたよ!!1」

「はいはい。今行く。」


「けんちゃんが今縫った縫い方が、袋縫い という方法よ。

 縫い代がほつれるのを防ぐために縫い代を内側に閉じ込めるようにして縫うのよ。

 縫い代が四重になるから、どうしても縫い代が分厚くなってしまうのが難点なのよ。だから厚地の布には合

 わないし、縫い代が5ミリとかで短いから、ほつれやすい布にもふさわしくないの。

 今回は薄手のしっかりした木綿布だから丁度いいのよ。」

「ふさわしくない布の時はどうするの?」

「その時は裏布をつけるの。

 その方がもしかしたら作るの楽 かもよ。」

「へえ・・・・そうなんだ。」


「で、次はどうするの?」

「そのままの状態で、袋の口を裏側に向かって2センチ折って、さらに3センチ折って、最初の2センチの縫

 い代を織り込んで待ち針を打とう。」

「二回折るってこと?」

「そう。  これを三つ折り っていうのよ。」

「二回折って三重になるから  三つ折り?」

「そう。  折ったら待ち針ね。」

「わかった。」


「・・・けど・・両側の縫い代はどうすればいい?」

「あ、縫い代ね。

 縫い代は向きを決めて、どちらでもいいから、向かい合わせになるように倒すのよ。

 それから三つ折りにし両側の両側の縫い目を合わせてから全体にぐるりと待ち針ね。」


「そっかあ! 三つ折りにするから袋の口側の縫い代がごっつくならないように袋縫いにしなかったんだ。

 それで5センチぶらぶらさせたままにしたんだ。

 そうだよね?」

「その通り。  よく気が付いたわね、けんちゃん。」

「5センチぶらぶらさせたままっていうのが不思議で気になってたんだ。 なるほどね。 納得。」


「できたよ!」

「はい!」


「それじゃあ、三つ折りにしたところをしつけ糸で止めましょう。

 折り目から1センチ上のところを 2センチくらいのざっくりした針目でぐるり縫ってね。」

「最初と最後の全返し縫いは?」

「しつけだから必要ないわ。」

「わかった。」



「今回は布が厚くなかったから だけど、分厚い場合は針を縦に入れて出して、また縦に入れて出して を

 繰り返して縫うと布がねじれなくてしつけができるからね。

 分厚い布を縫う時や表を見ながら縫う時は、しつけに限らずまっすぐに針を入れて出して を繰り返して縫

 うときれいに仕上がるのよ。」



「・・・・できたよ。」

「はい、じゃあ待ち針をはずしてから表に返してね。」


「・・・・やったよ。」

「そうしたら、次は両側の 表と裏の縫い目をきっちり合わせて二か所に待ち針を打って。」

「え? せっかく外したのに?」

「裏側の待ち針は外して、表側から待ち針を打ち直すの。」

「はあ・・・?」

「間に一か所か二か所 待ち針を打つ。」

「はあ・・・」


「しつけはかけたけど、縫ってるとだんだんずれてくるのよね。

 だから、表からも待ち針を打ってずれないようにすることが大切なのよ。」

「ふーーん。 しつけをきつくすればいいんじゃないの?」

「そうするとしつけがずれてた時 やり直さなきゃいけなくなるから。」

「ふーーーん。」

「これは袋が小さいから間の待ち針が一か所か二か所でいいけど、大きくなると五か所やそれ以上も待ち針を

 打つこともあるの。

 今回も二か所、三か所、 打ってもいいのよ、待ち針。」

「じゃあ  念のために二か所にするよ。」

「はい。」


「打ったよ、待ち針。」

「今度はね、玉結びが表から見えないように横にある縫い目近くで、しつけ糸に重ならないようにその少し下

 の位置にくるように 裏側から  三つ折りで隠れるところから針を縦に入れて表に出すの。」

「はあ? 理解不能。」

「結局表からも裏からも玉結びのコブが見えないように、隠れるところから針を入れればいいの。」

「そっか。コブが隠れるところから出す ・・・出したよ。  これでいいのかなあ?」

「大丈夫、できてる。」


「これは最後の仕上げで、いわゆる顔 になるんだから、丁寧に 縫い目の大きさをなるべく揃えるつもりで

 ぐるりと全返し縫いね。」

「ミシンをかけたみたいに ってこと?」

「そうよ。 縫い進みながら待ち針を外せばいいからね。」


「さっき言ってたけど、布が重なって分厚くなってるんだから、針を縦に入れて出して しながら縫うってこ

 とだよね?」

「ご名答!!  よく聞いてたわね。 感心感心。」

「なに、それ?」

「丁寧に全返し縫い ね。」



「できたーーー!!!」


「じゃあ、袋の口にマジックテープをアイロンで貼り付けて仕上げましょう。」

「もう出来上がりじゃないの?」

「このままじゃあ袋の口が開いたままで、物が入

 だからマジックテープで閉じられるようにするの。」

「なるほど、そうか・・・ はあ  できたと思ったのになあ・・・」


「マジックテープを3センチに切ってあるから、アイロンをかけて貼ればいいのよ。

 二つ使ってもいいし、三つ使ってもいいし。 それけんちゃん次第よ。」

「ううーーーーん・・・二つにするよ。」


「じゃあ、当て布をして、蒸気アイロンをかけて貼ろうか。」

「僕がアイロン かけるってこと?」

「そうよ。全部自分でしなきゃ。」

「わかったよ。   はあーーーーー 参った・・・」


「当て布は 私はいつもガーゼを使ってるんだけど、ガーゼを見ずで濡らして絞って、それを当てながら

 アイロン。」

「わかった。  小学校でやったことあるから  やるよ。」



「できたよ。」

「すごい! できたじゃない!」

「そう?  まあまあ  かな。」

「思ったより簡単でしょ?」

「そうでもない。 でも、難しいって程でもない。」

「じゃあ次は裏布付きを作ろうか。」

「え? 裏付きって  無理なんじゃない?」

「大丈夫。 さっきも言ったけど、裏付きの方が楽 かもよ。」

「ええ?」

「さ、布を選んでね。  裏布にする布は表布より薄いほうがいいからね。」


 初めてにしてはまあまあのデキだと自分でも思う でも裏付きなんて、できるかなあ・・?

それよりもう一回同じものを作ったほうがいいんじゃないかと思うんだけど、母さんはやる気満々だから

裏付き  やるしかない。  できなかったらその時はその時のこととしよう。


・・・・布を選ぶとしよう・・・


「決めた。選んだよ。」

と言うと、母はすぐに僕の近くに来た。


「始めましょう。  へえ、表が無地で裏がペーズリー柄なんて、おしゃれね。」

「ペーズリーって言うんだ。知らなかったけど なんとなくこれがいいかな って思って。」

「なんとなくいいっていうのがいいのよ。」


「じゃあ、表布も裏布も布目を整えるところから始めましょう。

 裏布は表布と幅は一緒で、長さは10センチ短くしてね。」

「うん、わかった。」


 僕は布の横糸を抜いてから、その線通りに鋏を入れた。


「両方とも中表にして端から端まで待ち針を打って。中表って覚えてるよね? 布の表側が内側になるように 

 合わせるってこと。 待ち針を打ったら最初と最後一回全返し縫いをするのは同じなんだけど、 

 間の縫い方が違うのよ。表布は半返し縫い、裏布は並み縫い。両方ともそれで端から端まで縫ってね。」

「全部? 表布も裏布も縫い方を違えるだけで、端から端まで全部縫うんだね?」

「そう、全部縫うの。」


「縫ったよ。」

「次は縫い代を割る。

 縫い代を折り返すようにしてしっかり割って、底の縫い代は三角に整えて。 両方ともね。」


「割ったよ。」

「それじゃあ次は表布と裏布の縫い代を合わせて中とじね。

 中とじ というのは縫い代同士を縫い合わせて固定すること。

 縫い代を割ったんだから一か所に二つあるんだけど、どちらか一つでいいのよ。

 袋の底の縫い代 三角の端を合わせて待ち針を打ったら、今度は袋の口の方を5センチ違えて待ち針を

 打つ。

 表裏で長さを10センチ違えたんだから、二つ折りにしたら長さが5セン違ってるはず。

 だから5センチの差を確かめて待ち針で止めてるの。 

 端と端に待ち針を打ってるってことになる。

 それからその真ん中、その真ん中 を待ち針で止めていくの。」

「端と端を合わせて・・・その真ん中・・・その真ん中・・・に待ち針・・」


「中とじはしつけ糸でもいいし、縫い糸でもいいの。

 外からは全然見えないところだから、値段が安いしつけ糸を使っても大丈夫。

 強度が心配なら縫い糸を使ったらいいし。

 しつけ糸と縫い糸と、縫い針を二本用意するのが面倒ならそのまま同じ針で縫えばいいし。

 でもいずれはしつけ糸を使うときが来るんだけどね。」

「それならしつけ糸を使うよ。」

「じゃあ縫い糸とは別にしつけ糸用の針を用意しなきゃね。」

「うん。」


「最初と最後は一回全返し縫いをするんだけど、縫い目の長さは2センチ位。大きくていい。

 間は一回ずつ針を縦に入れて抜いて を繰り返すんだけど、これも縫い目の長さは2センチ位にするの。

 合わせた二枚の布が動くくらいにゆったりと縫うのよ。

 袋に何か入れたときに表布と裏布に均等に力が加わるとは限らないじゃない? だから少々ずれても中とじ

 の糸が切れないようにするためのもの。 ゆったりと ね。」

「一回全返し縫いをしたら、一回ずつ針を縦に入れて 抜いて を2センチで ゆったりと・・・」


「できたら、次は裏布の方を表布にかぶせるようにひっくり返して・・・」

「・・・・・」

「両側の縫い目のところに待ち針を打って止めて。

 袋の口の差が5センチなのを確かめながら その真ん中 その真ん中 に待ち針を打って止める。

 少し裏布が突っ張った感じがするかもしれないけど、表に返したときにはちゃんと添ってるから大丈夫。」

「・・・・・」


「このまま次の段階に進んでもいいし、待ち針をつけたままが嫌ならしつけをかけて止めて待ち針をはずして

 から次にいくけど  どうする?」

「しつけするよ。」

「じゃあしつけをかけましょう。

 その時玉結びと玉留めは表布側にくるようにね。

 しつけ糸は後で抜くんだから、抜きやすくする と同時に糸が中に残らないようにするためにね。」

「なるほどね、わかった。」


「次は、2センチ 3センチ と折って三つ折りにして待ち針 で しつけ で 表に返してからまた待ち針

 で しつけ。」

「説明が雑!」

「だってここからはさっきと一緒だもの。

 縫い糸の針に持ち変えて、玉結びと玉留めが見えないように、全返し縫い で マジックテープをアイロン

 で貼る で 出来上がり!」

「わかったよ。 メモを見ながらやってみる。 わからなかったら呼んでいい?」

「もちろん!!!」


 母さんを呼ばなくても、メモを見ながら僕は何とか仕上げることができた。


 ノート三冊目  表書き  制作

 1 小袋   ・布の布目を整える

        ・布を外表にして縦半分に折る

            外表 とは、布の表の面を外にして布を合わせた状態のこと

        ・布の端から端まで、布の5ミリ内側に待ち針を打つ

            袋の上を 口  下を底 と呼ぶ

        ・袋の口側5センチ下から針を入れる

        ・一回全返し縫いをしたら底まで並み縫いをして、最後で一回全返し縫いをして玉留め

          袋の口側の5センチは縫っていない

        ・もう一方も同様に縫う

        ・縫い代5ミリは指で割る  

            割る とは、両側に開く ということ

        ・底の縫い代は底側を頂点にして三角に整える 

        ・縫っていない5センチの縫い代は斜めに折って布の重なりをなくす    

        ・袋をひっくり返して中表にする

            中表 とは、布の表の面が内側になるように布を合わせた状態

        ・縫い代をしっかり押さえる

        ・袋の底の縫い代は待ち針を使って整える

        ・布の端から端までを縫い代1センチで待ち針を打つ  

        ・袋の口から底までを縫う 一回全返し縫い 間は半返し縫い 最後に一回全返し縫い

        ・もう一方も同様に縫う

            袋縫い  縫い代を内側に隠す縫い方 外表にして一回中表にして一回縫う

        ・袋の口を内側に2センチ さらに3センチ折り返す  三つ折り という

          両側の縫い代は同じ向きに倒しておく

        ・三つ折りにした口側を待ち針で止める

        ・しつけ糸で1センチ位のところを縫い留めて待ち針を抜く

        ・袋を表にひっくり返す

        ・袋の底を待ち針を使ってきれいに整える

        ・袋の両側の縫い目の表と裏を合わせて 2か所 間に2か所 合計6か所待ち針を打つ

          しつけはしてあるが、ずれることがあるので表からも待ち針を打っておく

        ・表から玉結びが見えないように 裏から針を出す

        ・全返し縫いで縫う  縫いながら待ち針をはずす

        ・玉留めが表から見えないように 裏側で玉留めをする

        ・しつけ糸を抜く

        ・袋の口側にマジックテープを貼る  マジックテープは3センチに切り2か所に付ける

        ・水で濡らしてからかたく絞った当て布をしてアイロンをかける

        ・全体にもアイロンをかけて仕上げる

     

 

 

 

 2 小袋・裏布付き

・表布と裏布を用意する 

          裏布は表布よりも薄い布を使うことが多い

          緩衝目的で裏布を厚くすることがある

       ・表布の布目を整える

       ・裏布は表布と同じ幅にする

       ・裏布の長さは表布よりも10センチ短くなるように布目を整える

       ・表布を中表に合わせて端から端までを1.5センチのところに待ち針を打ち一回全返し縫い   

        間は半返し縫い 最後一回全返し縫いにする

       ・裏布を中表に合わせて端から端までを1,5センチのところに待ち針を打ち、一回全返し縫

        い 間は並み縫い 最後以下愛全返し縫いをする

       ・表布と裏布の縫い代を割り、袋の底の縫い代は三角に整える

       ・表布と裏布の縫い代を中とじする

          中とじ とは、表布と裏布の縫い代を合わせて待ち針を打ち縫い代から5ミリくらいの 

                 ところを縫い合わせること 

                 針目は2から3センチ、縫い目から5ミリくらいのところを縫う

                 縫い糸は引っ張らず、動くほどゆったりにしておく

       ・裏布をひっくり返して袋状にする

       ・表布と裏布を5センチの差をつけて待ち針を打ち、しつけ糸で止めて待ち針を抜く

       ・袋の口をまず2センチ折り、さらに3センチ折って三つ折りにする

       ・待ち針を打ってしつけをする

       ・表に返して縫い目に2か所、間に2か所の合計6か所に待ち針を打つ

       ・裏側から糸を出してぐるりと全返し縫いにする

       ・裏側の見えないところで玉留めをする

     

       ・マジックテープを貼り、水でぬらしてから硬く絞った当て布をしてアイロンをかける

          マジックテープは3センチに切り2か所に付ける


   ・・・・袋縫いとかしないから、もしかして裏布付きの方が楽だったかも?・・・・

  

   ・・・・できたじゃん!・・・・


 気が付くといつの間にか外は真っ暗で、リビングには明かりがついていた。


 ・・・もうこんな時間・・・・


 「なにしてるの、けんちゃん?」

姉が進学塾から帰ってきて、僕が手に持っている二枚の小袋を見た。

「もしかして、けんちゃんが作った?」

「まあね、母さんに教わって。」

「すごいじゃない! これ丁度いい大きさだわ、ちょうだいよ!

 ね、けんちゃん。 ちょうだい!」

「え?」

「ねえ、お母さん、けんちゃん、裁縫の才能、あるんじゃない?

 すっごくいい! ね、ちょうだいね!」

「そんなに?

 初めてだし、下手だし。」

「そんなことない、上手!」


姉は僕の返事を聞かずに袋を二つとも持って行ってしまった。


  ・・・・ま、いいか。

      別に袋が要るってわけじゃないし・・・・・


 僕は褒められたことも嬉しかったけれど、僕が作った物が必要とされたことが嬉しかった。


「母さん、次の休みは何にするか決めてる?」

「そうねえ、なにか知りたいことってある?」

「知ってたら というか、できたら役に立つこと かなあ。」

「役に立つ か・・・   そうねえ、 なにが役に立つかしらねえ・・」


「ねえ、ボタン付け とか、裾を直す とか、 ってことじゃない?

 いつもお父さんがお母さんに頼んでること。

 お父さんができたらお母さん、助かるじゃない。」

いつのまにか姉が話に入ってきて、僕のことなのに二人で話し合っている。

「まあ そうだけど・・・

 そうね。けんたん、初めにボタン付けって言ってたもんね?」

やっと僕に聞いてくれた。

「うん、それがいい。」

「わかった。」


 次はボタン付けに決まった。



 晩御飯ができたころ、珍しく父が帰宅した。部活の引率の日は帰りが遅くて、だいたいは一緒に晩御飯を食べられない。 今日は四人での晩御飯だ。


「健太、母さんに裁縫、教わってるんだって?

 二つも袋を作ったんだって?」

「え?なんで知ってるの?」

「母さんに聞いたよ。

 すごいじゃないか。

 今度父さんのも作ってくれよ、少し大きめなヤツ。」

「ええーー?

 そんな  自信 ないし。」

「そんなことないよ、けんちゃん、上手よ。

 裏布が付いた袋も作ったのよ。 

 早希ちゃんが欲しいって。」

「そうよ。だって私の好みだもの。

 絶対私が使う!」

「それは健ちゃんが決めることよ。」

「そうだけど・・・・

 けんちゃん、いいよね?

 私にちょうだいね。」

「わかったよ、もう。

 めんどくさい、何回も。

 使えばいいじゃん。」

「やったーーーー!!!!!

 ほら! いいって!

 言ったもん勝ちよ!

 二つともちょうだいね。」

「え? ま、いいけど。」

「やったー!

 月曜日、さっそく使っちゃお!」

「健太が初めて作った物なんだから、大切に使えよ。」

「わかってる。 擦り切れるまで使う。」


 僕たちは顔を見合わせて笑った。


 日曜日にしては賑やかで楽しい晩御飯になった。


 動機は少々不純だったかもしれないけれど、母さんに裁縫を習って良かったと思った。

そしてこれからも少しずつ教えてもらおう。


小さい袋だけど、できあがった時は嬉しかった。


 次はボタン付けだ。



 月曜日、今日もギリギリにやってきた翔太が席に着くなり、

「ボタン つけられるようになった?」

と聞いてきた。 僕は、

「ボタンは次。

 最初は縫うことに慣れないといけないから って。並み縫い とかいろいろな縫い方を習って、それから小

 さい袋を作って それでおしまい。

 ボタン付けは来週教えてもらうことになってるんだ。

 都合が悪くなったらそのまた次の週だな。」

「そうか。  がんばれよ。

 家庭科部に教えられるかもな。」

「それはない。」

「そうだな。」


 二人で顔を見合わせて笑った。


 始業の鐘が鳴って担任の先生が教室に入ってきた。

「起立!  礼!  着席!

 今からクラス委員の選出をします。 

 誰か立候補する者はいますか?」

先生は教室の全体を見回したが、手を挙げる者はいなかった。


「立候補者がいないようなので、中学校からの実績を踏まえて先生が選出したいと思います。

 池崎美和子 と 前田洋介 二人前に出なさい。」


 名前を呼ばれた二人が前に出た。


「二人で話し合うなりして、委員長と副委員長を二人で決めてもらいたい。

 決め方は二人に任せるから。」


 二人は顔を見合わせた。 前田洋介は考え込む様子だったが、池崎美和子がじゃんけんを提案した。

なんと 五回勝った方がどちらになるかを決める権利を得る というものだった。

前田洋介は驚いていたが、 少し考えて、 面白そうだ と言った。


 二人のじゃんけんが始まった。

最初は皆つまらなさそうな顔をしていたが、なかなか決まらないのでだんだん盛り上がってきて、みんなが声を合わせてのじゃんけん大会に変わっていった。

前田洋介もいつの間にか熱くなって、二人は純粋にじゃんけん勝負をしていたのだ。

 結局先に五回勝ったのは前田洋介だった。

そして彼は委員長の方を選んだので、池崎美和子は副委員長に決まった。

彼女はじゃんけんに負けたことをことさら悔しがっていたこともクラスのみんなの笑いを誘った。


 それまでよそよそしかったクラスの雰囲気がガラッと変わって、みんなの肩の力が抜けたようにくだけた感じになっていた。 一瞬でうちとけた様子だった。


 先生もその様子をただ黙って見ていて、そして終始にこにこしていたのだった。


 僕はもしかしたら池崎美和子はじゃんけんの結果はどうでもよくて、こうなることを狙って、わざと悔しがったのではないか と思っていた。

 

 

 放課後二人で部活に行くと、家庭科部の部長が僕たちの部室にやってきた。

「今日は今年度初のクッキーを作ります。あとで持ってくるからそれまで帰らないでね。

 それと、食べた後の感想 聞かせてね。」

と言ったので、僕らは

「やったーーー!!!」

と両手を挙げて喜んだ。  それを見て周りにいた先輩たちが大笑いした。


 しばらくしてクッキーを持った家庭科部の部員たちがやってきて、僕たち全員に配り始めた。

僕たちにクッキーを持ってきたのは八重だった。


「ありがと。これ、八重が作ったのか?」

「うん、先輩に教わりながらだからおいしいと思うよ。」


 翔太が???の表情だったので、僕は、

「八重と僕は幼稚園からの幼馴染みなんだ。

 昔からの癖で、内輪の時はつい 八重 って呼んじゃうんだ。  なあ?」

「そう。 あ 私 近藤八重って言います。 お話するの 初めてですね。」

「そうですね。 僕は 小林翔太です。 今後ともよろしく です。」

「こちらこそ。  確か同じクラスですよね、けんちゃんと話してるの 見ます。

 私もけんちゃん って呼んじゃう。

 みんながいるとちゃんと小堀君って呼ぶんだけど。 

 前田君のことも ようちゃん って呼びそうになる時があるもん。」

「そうだよな。」


「え? あ、そうか、サッカー部の前田君も幼馴染みって言ってたな。」

「うん。 幼稚園からずっと一緒なんだ。」

「そうか。

 それはそうと、近藤さん、知ってますか?

 健太、 お母さんに裁縫を教えてもらい始めたんですよ。」


「そうなの、 けんちゃん?

 おばさん、パッチワークが趣味だし、洋裁だって手編みだって得意だもんね。

 私もパッチワークをしたいと思ってるんだけど、おばさんに頼んでもらえないかなあ。」

「ええーー?! それは・・・

 まあ、言ってはみるけど・・・どうかなあ・・・

 約束はできないけど・・言ってはみるよ。」


「家庭科部では教えてもらえないんですか?  近藤さん?」

「家庭科部は自由参加 みたいなところがあって。 お料理の日はだいたいの部員が集まるんだけど、いつも

 はこんなに集まらないんです。それぞれが自分がやりたいことをやっているから、別に部に来なくてもでき

 るんです。  それに学外のクラブに入っている人が、学校の部活をやってますアピールのために

 入っているっていう場合も結構あって・・・ 

 部員の数は多いんだけど、実質の部員は少なくて・・・

 家庭科の先生がいらっしゃらないから、顧問の先生も専門外だから、形だけだし。

 教えてもらおうと思っても、なかなか難しいんです」

「そうなんですか。」


 翔太と八重はまだ打ち解けていないので、お互いが丁寧語で話している。

そのうちタメゴで話すようになるだろう と思った。


 「ああ!ギリギリ間に合った!」

と言いながら僕たちの部室に入ってきたのは池崎美和子だった。


「今日がお菓子の日だって思い出して急いで来たんだけど、クッキー作りには間に合わなかったわ。

 でも、おすそ分けタイムには間に合ったから よかった!!! 

 ね、八重ちゃん。」

「そうね・・・」


 僕たち二人はポカンとしていた。それを見た美和子が、

「私、八重ちゃんと同じ家庭科部なのよ。

 今日は放課後さっそく第一回目の委員会があったからそっちに行かなくちゃいけなくて遅刻。

 ごめんね、八重ちゃん。 次のお菓子作りの日には絶対来る。」

と答えた。


「バドミントンはやめたのかい?」

と翔太が尋ねると、美和子は、

「昔っから入ってる学外のクラブで続けてるのよ。

 だからあんまり家庭科部には来られないんだけど、なるべく来るようにしたいと思ってるの。

 私も手芸に興味があって、小物とか自分で作れるようになりたいもの。」

「ふーーーん。」


 八重が言っていたのはこういう部員のことなんだ と思ったし、つながりのなかった美和子が八重を

八重ちゃん と親しそうにに呼ぶ理由も理解できた。


 八重はただ黙って話を聞いていた。


・・・・今日母さんに話してみよう・・・

 僕はそう決めた。



 その日の夜、今日も父さんは遅いし、姉ちゃんは塾だったので二人で晩御飯を食べていた。

僕は思い切って、

「ねえ 母さん、近藤八重って覚えてる?」

と母に話を切りだした。

「もちろんよ。 幼稚園のとき、毎日迎えに来てくれてたでしょ?

 ・・けんちゃん、遅刻したらダメよ ・・・ て言ってたわね。

 あの頃もいい子だったけど、今もいい子でしょ?

 たまに商店街で会うことがあるんだけど、必ず挨拶してくれるのよ。

 小さい時いい子だった子は大きくなってもいい子よね。」

「そんな余計なことは覚えてなくていいんだよ。」

「そう?大切なことだと思うけどなあ・・・・

 で、八重ちゃんがどうかしたの?」


「母さんにパッチワーク 教えてもらいたいって。

 翔太が僕が母さんに裁縫を習ってるって言っちゃったもんだから。」


「そうねえ・・・

 八重ちゃん 、本を買ってそれを参考にしてるんじゃないかしら。

 私も昔、公民館の教室に通って習ったことがあるけど、本とは違ったやり方だったのよね。

 それでいろいろ本を見てみたら、先生によってやり方が違うってことがわかってね。

 だから公民館の教室が終わってからは  2年で卒業って決まってたからね それからは母さんは母さんの

 やり方 っていうか 基本は一緒だとは思うけど それでやってるから・・・

 母さんのやり方でよかったら是非どうぞ って気持ちなんだけど、本の通りにって言われると難しいかも。

 それを確認してちょうだい。  話はそれから かな。」


「うん、わかった。  聞いてみるよ。」

「もしそれでいいんだったら、作りたいものを決めて、できれば布も決めて。 

 それらを持ってきてもらえば 、いいかな。」

「わかった。  母さんはやる気満々だって言っとくよ。」

「あれ?  ばれた???」

「バレバレだよ。」


 僕は母さんが僕にしてくれたように八重にも気遣ってくれる と確信した。

 


 火曜日の放課後、僕と翔太が部活に行くときに八重が僕たちの後ろに歩いていたが、部室が同じ方向にあるので、誰も何も言わなかった。最初は少し離れて歩いていたが、結局三人で並んで歩く形になった。そのときに、母さんからの言葉を八重に伝えた。教室ではこの話はできなかったが、翔太は内容を知っているので、包み隠さずありのままを伝えることができた。

  

 八重は素直に喜んだ。

「おばさんのやり方で統一できたら その方がいいと思う。」

と言って、そして、次の土曜日が楽しみだ とも言った。


「作りたいものが決まっているのなら本と布を持ってきて だって。

 もし決まってないなら、うちにある本を見て決めたらいいって。」

「作りたい物はもう決まってるの。布ももう買ってあって。」

「それじゃあそれらを持ってくるといいや。」

「うん、そうさせてもらう。 

 で、何時ごろがいいの?」

「そうだな・・・ 昼飯が済んでからがいいだろうから、午後一時か二時か・・・?」

「二時じゃあ遅くなるから、一時過ぎにお邪魔させてもらうわ。

 おばさんにもそのこと言っておいてね。」

「一時だな。 わかった。 言っとくよ。

 家にもいろいろ道具やらあるから、重たいものはそれを使えばいいから。」

「うん、ありがとう。」


 そんなことは母さんから言われていないけれど、勝手に判断して言ってしまった。母さんも同じ考えだと思った。




 そして、今週の土曜日の午後一時、八重が僕の家に来ることになったのだった。

僕の家に八重が来るのは、小学校低学年の時以来のようなきがする。


 八重にとってはどうかわからないが、僕にとっては、そのことは大きな出来事だった。


 土曜日までに家を片づけておこう と思った。


 ゆっくり歩いたせいか、部活に行くと隣の家庭科日の部室から話し声が聞こえてきた。 その声はどこかで聞いたことがあるような気がした。

 僕たちの部室に入ろうとした時に、いきなり家庭科教室から出てきたのは同じクラスの池崎美和子だった。

「八重ちゃん、遅かったじゃない。 私の方が早く着いちゃった。」



「今日は家庭科部に参加。」

「そう・・・」

 二人は家庭科室に入って行った。

 八重は美和子と並んですわったが、健太との約束を話さなかった。


 美和子の様子を見て、僕は少し不機嫌になった。 いつも自分本位で自分勝手な感じがして、それに周りが振り回されているように思えたからだった。

 

 そんな僕を見て、

「今日は外に出て被写体を探すけど、健太もたまには外で写生しないか?」

と翔太が声を掛けてくれた。

「そうだな。」

僕もその方がいい と思ったので、二つ返事で承知した。


 僕たちは先輩に許可を得て部室の外に出て、しばらく歩いてから二人並んで芝生に寝転んだ。

そして大きく深呼吸をした。  校庭の桜の花びらがはらはらと散り始めている。



「なあ 健太。  この桜、描かないか?」

「え?」

「きれいだろ? 見てるだけじゃもったいない。 僕は撮る、君は描けよ。」

「桜  ねえ  」

「健太は当たり前になりすぎて、この桜の魅力をわすれてるんだよ。

 嫌なことがあってもここにいると忘れられる気がする。  浄化作用がある みたいな。」

「じゃあ、僕も描いてみようか。  しかたない、つきあってやるよ!」

「なんだと?  ははは  今年のテーマは桜だな。」


 ・・・・ 当たり前の存在の魅力か・・・・


 ・・・・ 土曜日の約束・・・・


 ・・・・ 八重も楽しみにしているんだろうか・・・・


 そんな風に思いながら空を泳ぐように流れる雲をぼんやりと眺めていた。




  









 


       

 

  





 



これをきっかけに針仕事に興味を持っていただければ幸いです。

なるべく詳しく説明をしたつもりですが、実際に作ってくれる人がいたらうれしいです。

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