第三章「仲間」(前編)
〔2024 7/22 Mon. 11:47〕
『着陸まで1000メートル』
『500メートル』
『此処までよく頑張ってくれた。四番格納庫まで誘導する。あと少しだ。』
やっと着いた。あの基地から恐らく6時間は飛んだ。此処はオーティクス本土東海岸にあるエイミネス基地だ。俺は昔この基地の噂を聞いたことがあった。なんでも、合衆国軍の全パイロットの中から選ばれた4人だけで構成された精鋭部隊があらしく、エイミネス基地はその部隊の本拠地だそうだ。その噂が正しければ、俺を助けたのもその精鋭部隊ということになる。だが、なぜそんな部隊が敵地のど真ん中にいたのか。それは大きな謎だ。
そんなことを考えていると、すぐに格納庫に着いた。戦闘機は逆噴射ができないため、格納庫に入るときには車両に押してもらわなくてはいけない。エンジンを停止すると、牽引車が機体の前脚に接続し、ゆっくりと押していく。機体が完全にしまわれると、乗降用の梯子がぴったりとコックピット横に付けられた。キャノピーを開けると、俺は耐Gスーツと椅子のベルトを外し、ゆっくりと立ち上がって梯子を下りた。そのまま更衣室へ行き、ロッカーに入っていたパイロット用の制服に着替える。丁度着替えが終わった瞬間、更衣室のドアが開いた。そこには、同じ制服を着た男が立っていた。名札には、[Bridge]と書いてある。
「フリー…だったよな。指揮官が呼んでる。作戦室に来てくれ。」
男が言う。
「分かった。」
俺が答え、男の後を歩いていく。
5分ほどで作戦室についた。作戦室は地下1階にあった。ドアは防音用の分厚いものだ。男が取っ手を掴んで重いドアを引くと、部屋の中から冷たい空気が流れてきた。中に入ると、俺は驚嘆した。まず、暗い部屋の奥の壁に巨大な明るいタッチパネル付きのモニターが掛けられていて、いろいろな情報が表示されている。それから少し離れたところに、操作端末らしきものも置かれている。その周囲にはパイロットと指揮官の姿が見える。
「フリーだな。まずは君に謝罪をしたい。我々がもっと早く助けに行っていれば、君の仲間を助けられたかもしれない。すまなかった。」
それを聞いた俺は困惑した。今まで、本当の仲間と呼べる存在を失った事が無かったため、どういう反応をするべきなのかが分からないからだ。仲間の事には触れず、助けてくれたことへの感謝を述べておくか。いや、仲間を失ったのは自分のせいだということにするか。
「あいつらが死んだのは俺のせいだ。俺があいつらを助けていれば、生き残れた奴もいたかもしれない。とにかく、救援要請に応じて俺を助けてくれたことに感謝をしたい。本当にありがとう。」
言い終わると同時に頭を下げる。よし。俺が今思いついた中では最高の答えだ。
「頭を上げてくれ。」
広い部屋に誰かの声が響く。体を起こすと、優しい笑みを浮かべた男が俺の前に立っていた。
「俺はブリッジだ。ホークアイ隊の隊長をしている。君の事を歓迎するよ。これからよろしく。」
男がこちらに手を差し出す。俺は、その手を握って言った。
「こちらこそよろしく…ん?」
指揮官が軽く咳払いをした。
「…フリー、君は、今日からホークアイ隊の4番機だ。いきなりですまないが、司令部の決定だ。君も異論はないだろう?」
指揮官にそう尋ねられて、一瞬迷ったものの、俺は首を縦に振る。
「こんなことは異例中の異例だが、これにはちゃんとした理由がある。実は、ホークアイ隊、ガーディアン隊は司令部直属の部隊なんだ。そのため、スパイから守るために情報が秘匿されているんだ。だから、本来君はここには来ずに、君が元居た基地に帰っていたはずだ。だが、あの空域には我々以外の部隊も、AWACSもいなかった。君がどこの隊に所属しているのか判らなかったあの時は、この基地まで連れて来るしか無かった。」
今度は、ブリッジが口を開いた。
「スカイキーパーが話した通り、俺たちの情報は隠されている。だが、お前はこの基地に俺たちが居ることを知ってしまった。そこで、司令部は特例としてホークアイ隊に編入することにしたわけだ。」
なるほど…?どうしてそんなことをしたのだろうか。司令部は、俺が刑務所から来た囮部隊のパイロットであると知っていたはずだ。本当に、オーティクス軍司令部のすることは理解できない。
指揮官が全員を見渡してから言う。
「フリー、君の腕前に期待しているよ。では総員、明日の作戦に備えてゆっくり休みを取ってくれ。解散。」
この章はちょっと長くなってしまったの前編・後編の二部構成になってます