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ベルちゃんは聖女様です!

聖女。

それは闇を滅ぼし、人々を光へと導く存在。

清廉潔白。

魔王を倒すために日夜戦ってくださっている勇者様のために、この身をエルドア様にささげるのです!!


それなのに……



「それなのに、なんであなたたちは焼肉なんてやってるんですかああ!!」


「んー? おいひいぞ?」


「おいしいとか、そういう問題じゃないんですよ」



大聖殿の中から漂ってきた香ばしい匂い。

中ではアンナさんとドリアードさんがおいしそうに焼肉を頬張っていました。


もちろん、聖火を使って。



「聖火あぶり特上牛タンおいしいぞ」


「変なプレミアつけないでくださいよ、罰当たりな」


「あら、エルサが食べないのでしたら、私が全部食べちゃいますわよ」


「ちょ、ちょっと、まだ食べないとは一言も」


「あら~?」



悔しいですけど、極上牛タンという言葉には勝てません。

エルドア様、牛タンの名に免じて今日だけはお許しください!



かくして。



「それにしてもドリアードさん、逃げたんじゃなかったんですね」


「ええ、そのつもりでしたのに、お城を出たところで待ち伏せしていた借金取りたちにつかまってしまいましたわ」


「ええ~」


「ギャハハハハハハ、よく無事で帰ってこれたな」


「アンナさん、そんな笑い方していると男の人も逃げていきますよ」


「うるせいわい」



ドリアードさんは、借金取りにつかまったといってはいるものの別に傷などをつけられた痕跡はなさそうです。

これもやはり、エルドア様のご加護のおかげなのでしょうか!



「ふふっ、借金取りの人たちには私のダイナミック土下座を見せてあげましたわ」


「「ダイナミック土下座?!」」

「って何ですか?」


「それは企業秘密ですわよ。本当に必要になったときには教えてあげますわよ」


「ええ~、ケチ!」



そんなこんなで焼肉は進んでいきます。

背徳感はありますが……同僚の聖女たちが一つ大聖殿の中に集まっているというのはうれしいものです。


だから、これはそう、大切な交流の時間なんです。

そうです、決して極上牛タンに負けたとかそういうわけじゃありません。じゅるり。



「でも、突然焼肉なんていったいどうしたんですか? なんか特別なことでもありましたっけ?」


「さっき、あいつから『もうじき帰るから焼肉をするのだ』って連絡が来たんだよ」


「なんですか、その軽い連絡……って、その口調ってもしかして」



ーーゴゴゴゴゴゴゴ!!



突如、外からおどろおどろしい轟音が鳴り始めます。

晴天だった空が一瞬にして分厚い雲に覆われました。


こちらのほうに一直線に向かってくる轟音。

こんな登場の仕方をするのは一人しかいません。



「ただいまなのだーーー!!!」


「ベルちゃん!!」



けたたましい窓の割れる音ともに、窓から大聖殿に突っ込んできたのはベルガモントこと、ベルちゃん。

私たちの4人目の聖女です。


身長110センチの小柄なボディ。

くりくりお目目に、白くてもっちりな肌がたまらない正真正銘の聖女です。

私の聖女ライフの唯一の癒しです!



「エルサ! 会いたかったのだ」


「私も会いたかったよ、ベルちゃ~ん」



ベルちゃんに出会ったら、まずはぎゅっと抱っこしてあげるのが礼儀。

お餅のようなほっぺたを存分にこすり合わせて、日々の活力を充電します。



「うわエルサ、キモ! そんなうわ撫で声聞いたことないぞ」


「日常の中で得ることができない癒しを、ベルガモントにすべてぶつけているのね。なんて哀れなのでしょう」


「あなたたちのせいなんですけど」



外野のガヤは無視して、ひとまず充電完了。

これで、しばらくは頑張れそうです。


しかし、なんだろう。

今日のベルちゃんのお肌はいつもより違和感があったような……?



「おっ、アンナ! ちゃんと肉を用意してくれたんだな」


「当たり前だろ。ベルが肉持ってくるって言ったから、ちゃんと牛タンも用意しといたぞ」


「さすがなのだ! 焼肉と言ったら牛タン一択なのだ!」



ちょっとおじさん臭いですが、それもベルちゃんのギャップ。

おいしそうに牛タンを頬張るベルちゃんは、食べちゃいたいほどのかわいさなのです。



「で、今日はどんな肉を持ってきたんだ?」


「お母さんからいっぱいもらってきたのだ!

ーーほら、バッファローの肉とアングリーベアーの霜降り肉」


「すげえ! 珍味の魔物の肉ばっかりじゃないか!」


「あとは、僕がさっき乗ってきたガーゴイルの肉も追加なのだ!!」



そういってベルちゃんの袋の中から出てくるのは、まだ血が滴る魔物の肉たち。



「うわ、くさ!!」


「ちょっと、このにおいは耐えられませんですわ」



一瞬にして大聖堂の中が魔物のにおいで充満します。

それにしても、こんな魔物の肉を入手できるなんて、ベルちゃんのお母さんはいったいどんな人なのでしょう?


バッファローって、確か魔王軍の幹部では?



「ドリアードにもお土産もらってきたのだ!」


「あら、本当ですの! ベルガモントのお土産はいつも高級品だから助かりますわ」


「うん。今回はこれ……えーっと、覇者の鎧ってやつ」


「まあ! なんて立派な鎧!」



ベルちゃんの袋から出てきたのは、かなり重々しそうな鎧。

っていうか、かなり不気味な感じがするんですけど……



「なんか、この鎧、血がついてませんか?」


「うん。その辺で野垂れ死んでたから剝ぎ取ってきたのだ。たぶん、お母さんが貫いた兵士かなんかなのだ」


「なんちゅう危ないことしてるのベルちゃん!」


「人間はそう簡単に生き返ったりしないから別に危なくはないのだ」


「いや、そういう問題では」



かわいい顔をしているのに、どこかぶっ飛んだところがあるベルちゃん。


でも、ドリアードさんは「こいつは金になる」って喜んでいるので触れないことにしましょう。



「ほら! エルサも突っ立っていないで、僕たちと一緒にお肉を食べるのだ!」


「そうですね。ベルちゃんに言われるのなら仕方がない」


「……とかいって、エルサ。お前普通にベルに抱き着きに行くな」


「いいんです。久しぶりのベルちゃんなんですから! ベルちゃん要素が私には足りないんです!」


「僕は別に気にしないからいいのだ!」


「ほら、ベルちゃんもこう言ってますし……」



ベルちゃんに背後から抱き着き、じっくりとベルちゃん要素を吸収する私。

しかし、その癒しの中でやっぱり、ある異変を見つけてしまいました。



「あれ、ベルちゃん……」


「なんなのだ?」


「ベルちゃんって、角なんて生えていましたっけ?」


「………………」



ベルちゃんのおでこにあった小さな突起。

最初に抱き合った時に感じた違和感。


誰よりもベルちゃんを抱っこし続けている私は、この違和感が妙に気になっていました。


まだ小さいけど、ぴょこっと出っ張ってる違和感。

これじゃあ、まるで私たちの間に広がる魔王のような……



「ナナナナナナナ、ナニヲ言っているのだ、エルサ?」


「露骨に動揺してるじゃないですか!!」


「ツノが魔物のあかしだなんて、ベルはそんなことわからないな~」


「わ、私はそんなことまでは言っていないですよ!」


「はっ」



急に取り乱し始めたベルちゃん。

わたし、もしかしてやばい地雷を踏んでしまったでしょうか!!!



「なんだ? ベルになんかあったのか?」


「ナナナナナナナ、何でもないのだ! 

ベルが魔王の娘だなんて、そんなことは断じてないのだ!! 


……ソウダ、ヨウジ。オモイダシタ。ハヤク、カエルノダ」


「壊れたロボットみたいになってますよ!」



ベルちゃんはそのまま立ち上がると、一目散に窓のほうへ飛び込んでいってしまいました。

大聖堂は、王城の中でも最上階に位置します。



「そういえば、ベルちゃんっていつも何かに乗って出勤してましたよね」


「いつも、魔物を操ってましたわね」


「え……じゃあ、私がさっき食べていたこのガーゴイルの肉も?」



大聖殿の中に流れる危ない予感。

でも、だめです。

こういう時こそ、聖女としての役割を果たさなければ!!



「そ、そんなわけないですよー! ベルちゃんは聖女なんですから。そんな、まさか魔族なわけナイジャナイデスカー」


「そ、ソウダヨナー。あんなおいしい肉持ってきてくれる子が魔王の娘なんて、ソンナワケナイヨナー」


「ソウデスワヨ。こんな素晴らしい鎧を施してくれる子が、人間を滅ぼそうなんて考えるわけないですワヨー」


「あんなかわいいベルちゃんが、敵の訳ありません!!」


「ソウダヨナー。アハハハハハハハハ」



アハハハハハ。

アハハハハハハハハハハ。


この日あったことは、みんなで笑って流すことにしました。


ベルちゃんはかわいい。

ベルちゃんは聖女です。


誰が何といってもそれは変わらないのです!


私たちの胸の中に潜む、悪の心よ滅びろ!!



というわけで、今日も素敵な聖女ライフでした。



ちなみに、翌日。

ベルちゃんはかわいい帽子をかぶってくるようになりました。



【続く!!】


お読みいただきありがとうございます!!


聖女の中に魔族がいるなんて、まさかそんなわけ・・・


明日から1~2話ずつ程投稿していく予定です!


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