ドリアードさんは隠している
皆さんこんにちわ。
今日も慎まやかに聖女ライフを。
エルサです。
今、私は大きな扉の前に立っています。
この扉を開けたらいつもの大聖殿の中に入れます。
エルドア様と、不敬な聖女たちが待っているあの大聖殿に。
「はぁ……今日はどれくらいみんな来てくれているのかな」
思わず出てしまうため息。
それもそのはず。
ここ数日の出勤記録は全て私1人のスーパーブラック職場。
世界の命運を託された大事な職場が、まさか無断欠勤の温床となるなんて。
「ドリアードさん、島に行くといってからもうどれくらいたっているんだろう?」
「2週間ですわよ」
「そう、2週間ですよ。さすがにサボりすぎですよ……ってうわ!!」
思わず振り返ってしまった背後!
そこには、お嬢様然としたきらびやかな聖女様が立っていました。
「お久しぶりですわね。エルサ」
「お久しぶりです、ドリアードさん! 帰ってきていたんですね!」
「ええ、つい先ほどね」
よかったです。
ドリアードさんがついに帰ってきてくれました!
これで、つらいワンオペともおさらばです。
「おお、ドリアードじゃねえか。ようやく帰ってきたのか」
「ええ、つい先ほどね。それにしても、アンナがちゃんといるなんて珍しいわね」
「まあな。祈りなんてめんどくさいけど、たまには顔出しとかないと怒られちまうかなら」
「アンナさん、そのセリフよく私の前で吐けましたね?」
「ひえっ!」
不敬なアンナさんに正義の鉄槌を入れつつも、今日の私は少しだけ心も満たされています。
なんて言ったって、ドリアードさんがようやく帰ってきてくれたのですから!!
「それにしても、突然旅行だなんてびっくりしちゃいましたよ」
「すいませんね。突然のことだったもので」
「今回はどこまで行ってきたのですか? やっぱりドリアードさんほどのお嬢様のことですから、リゾート地まで行っていたのですか!!」
「いえ、行ったのは無人島よ」
「へ?」
「誰にも見つからないところに行きたかったもので」
ドリアードさんは、それがどうしたのといった様子でお話ししています。
しかし……無人島ですか。
「あの、アンナさん」
「なんだよ」
「無人島に2週間も住むことってできるんでしょうか?」
「知らねえよ。無事に帰ってきているってことはできてるってことだろ」
「それはそうですけど……あれだけお金を持っているはずのドリアードさんが、一人になりたいからってわざわざ無人島だなんて」
ドリアードさんは、長く巻いたらせん状の髪をくるくるといじっています。
その容姿、所作、言葉遣いからすっかり聖女に似合う教養を持ったお嬢様と思っていましたが、なんだかここにきて違和感発生です。
「あの、アンナさん。無人島にはどうやって行ったんですか?」
「どうやってって、そこら辺のボートを借りていきましたわよ」
「クルーズとかそういうのは使わずに?」
「そんなの使ったら足がばれちゃうじゃない」
???
足がばれる?
そんなに、見つかりたくない小旅行などあるのでしょうか。
「そんなのはいいからさ、お土産とかないのかよ」
「ちょっと、アンナさん。話をそらさないでくださいよ」
「ああ、お土産ですね。もちろんありますわよ」
アンナさん何を言ってるんですか、と突っ込みたくなりましたがお土産は確かにうれしいです。
わざわざ無人島に行ったのです。
もしかしたら、そうまでしてとってきたかった名産品があったのかもしれません。
「はいこれ。その辺に落ちていた枝ですわ」
「へ? 枝?」
「はい、エルサにはこれ。私が食べようと思ってあきらめた謎の木の実。歯形付きよ」
「気味悪いもの渡さないでくださいよおお!!」
とんでもないお土産を渡されてしまいました!
「枝に木の実って何ですか! その辺の公園にでも落ちている奴じゃないですか!」
「そんなわけないわよ。だって、その枝ちょっと触っただけでも異様にかぶれる代物ですもの」
「ほんとだ。かぶれてるうう!!」
なんか手がかぶれてしまっているアンナさんは置いておくとして、いよいよドリアードさんが怪しくなってきました。
この人、絶対なんか隠しています。
「ドリアードさん。ちょっとお聞きしたいんですけど」
「なんですって?」
「ドリアードさんって、どうしてわざわざ無人島まで行ってきたんですか?」
「え? そんなの……
借金取りから逃げるために決まってるでしょ?」
「なっ?!」
なんだってえええええええ!!
思わず私と、手がかぶれたアンナさんは悲鳴を上げてしまいます。
「ドリアードさん、借金取りから逃げていたんですか!!」
「ええ、言ってなかったかったですか?」
「聞いてないですよ。……じゃあ、今までちょくちょくどこかに出かけていたのって」
「毎回借金取りから逃げていたんですよ。新しい隠れ家を探しては、ここに戻ってきて、また新しい隠れ家を探す。その繰り返しですわ」
「若様もびっくりな逃げっぷりですよ。それは」
「今回はなかなかいい隠れ家を見つけたと思っていたんですけどねえ。やっぱり本職の人たちには勝てませんでした。テヘ」
「てへ、じゃないですよ!!!!」
恐ろしい事実の発覚に頭が痛いです。
まさか、聖女ともあろうものが……聖女ともあろうものが借金取りから逃げていただなんて。
「じゃあ、そのお嬢様風の姿はいったい何なんですか? その姿のせいで、いつもどこかに豪遊してるんじゃないかと勘違いしちゃってましたよ」
「あら、だってこういう姿のほうがお金を借りやすいでしょ?」
「ああ、だめだこの人。根っからのくずだ」
口元に手を当てて優雅に笑う姿はまさに貴族の令嬢そのもの。
たしかに、このいでたちで借金取りに追われているとはなかなか思えません。
「それで、どれくらい借金しているんですか?」
「まあ、軽く国一つ買えるくらいには……」
「国一つ?!」
「冗談ですわよ。せいぜい町一つ買えるくらいですわ」
「いや、それもとんでもない額ですよ」
町一つ買える額なんて、普通に生きていたらまず手にすることのない額です。
そのお金を教会の資金に回せばもっと……
「でもよ~ドリアード。なんでそんなに借金膨れ上がるんだよ。私たちの仕事ってかなりの額の給料もらってるぜ?」
そうです!
私たち、勇者専属の聖女はかなりの額を国から支払ってもらっています。
私だって、そのお金で町の教会を再建するために応募したのですから!
ドリアードさんの借金がいくら多いからって、少しずつ返していけるだけの余裕はあるはずです。
「それは無理ですわよ。だって、私、もらったお金は全部気が付いたら溶けちゃってますから」
「はい? 溶ける?」
「ええ。お給料をもらった時はそのまま返しに行こうとするんですけどね……気が付いたら足がカジノに向かってるんですよ。それで気が付いたら所持金0になっていて」
「ただのギャンブル中毒者じゃないですか!!!」
「そんな言い方は嫌ね。
有り金は
溶かしてしまえ
ドリアード
これが私のモットーなんですの。私はただ、私の生き方に従っているだけですわ」
「無駄に575ににしないでください!」
だめだ。
聖女がギャンブルにはまり借金まみれだなんて、あまりにも闇が深すぎる。
何とかしてドリアードさんには心を改めてもらわないと。
「……と、いうわけで、私は行きますわ」
「どういうわけで! というかどこに!」
「新しい隠れ家を探してきますわ! 直にここにいることも借金取りにばれてしまいそうなので!」
「だめですよドリアードさん。せっかく来たんですからお勤めをしないと!!」
捕まえようとしても、ドリアードさんは長年の逃亡で付けた力なのか、逃げ足が以上に速いです。
1人で捕まえられないなら、ここは2人で何とかして……!
「アンナさん! 一緒にドリアードさんを捕まえてください!」
「ごめん。手がかぶれて無理だわ。テヘ」
「ああああああああああああ!!!」
結局ドリアードさんには逃げられました。
【続く!】
お読みいただきありがとうございます!
あの聖女、家ひとつ買えるくらいのお金を一晩で溶かすらしいぜ
ドリアードさん。ギャンブラー。
有り金がなくなった時にこそ本当の力を発揮すると言った師匠の言葉を胸に今日もカジノへ足を運ぶ。
次回はベルちゃんこと、ベルガモントさんの回。
今日中に投稿します、
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