表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

アンナさんは働かない

 私の名前はエルサ!

 勇者様が魔王を倒すためのご加護をお付けするために、国から選ばれた聖女の1人です!

 なんでも、定員4人で応募者が4人しかいなかったらストレートで審査が通ったみたいですけど、そんなことは気にしていません!


 魔王様からこの世界を救うために、今日も素敵な聖女様たちと一緒にエルドア様にお祈りをささげるのです!


 さあ、いざ行かん大聖殿へ。


 朝の素敵な鳥のさえずりとともに、夢の聖女ライフが今日も始まるのです!!



「って、何やってるんですかアンナさん!!!!」


「え? 何って……免罪符燃やして焼き芋?」


「焼き芋?じゃないですよ!! 大事な免罪符で何してくれてるんですか!!」


「いいじゃねーか、こんな紙切れ。こんなので罪が軽くなるんだったら誰も苦労しないっつーの」


「それ、聖女が一番言っちゃいけないセリフですよ……ああ、その火、もしかして聖火を使ったんですか?」


「もち!!」



 アンナさんはさわやかな笑顔でグーサインです。

 私のさわやかな聖女ライフは、煙臭い大聖殿とともに幕を開くことになりました。


 私の目の前で焼き芋を頬張っているのが、同僚のアンナさん。

 認めたくはないけど、聖女です。



「ちょうどいいくらいに芋焼けているぞ。エルサも食べるか?」


「いいですよ。免罪符で焼いた焼き芋なんて、罰が当たりそうです」


「おいしいのに?」


「おいしさは関係ありません!」


「エルサは本当に信心深いやっちゃな~」


「アンナさんが信仰なさすぎるんです!!」



 アンナさんには信仰心というものはない。

 なんで聖女になれたのか、まったくもって不思議なくらいです。



「聖女なんて、所詮は魔法使いの延長だからな。魔力さえあれば誰でも転職できるのよ」


「そんな無茶苦茶な……」



 アンナさんを見ていると、聖女とは何なのかをいつも考えさせられます。


 ここまで見たらお察しの通り、信仰心のないアンナさんにはエルドア様への忠誠心などさらにありません。

 神聖なる大聖殿で焼き芋を食べてしまう始末なんですから。



「なあ、焼き芋食べてくれよ。作りすぎちゃって食べきれないんだよ」


「だから嫌だって言ってるじゃないですか……ほかの2人、ドリアードさんとベルちゃんに食べてもらえばいいじゃないですか」


「ああ、あの2人なら今日は休みだぞ」


「またですか!?」


「うん。ドリアードはどっかの島に行っているみたいで、ベルガモントはお母さんのところに帰ってくるって言ってた」


「私、なんも聞いてないんですけど……」


「まあ、エルサに行ったら止められちゃうもんな~」



 頭を抱えるばかりです。

 4人でエルドア様にお祈りをするためにわざわざ集められたというのに、たびたび起こる無断欠勤。

 4人全員で集まったことなんて、片手で数えるくらいしかありません。


 これじゃ、いつエルドア様からお叱りを受けてしまうかわかりません。



「ああ、おなか痛い」


「便秘か?」


「違いますよ」


「そういう時はやっぱり芋だな! ほら、免罪符の効果と聖火も合わさって便通改善! これで疫病退散待ったなし!」


「だから違うって言ってるでしょう!!」

「モガッ!!」



 うるさいアンナさんに焼き芋全部押し付けて、さっそく今日のお勤めにかかることにします。



「ほら、アンナさんも早くエルドア様にお祈りをささげますよ」


はってエウサ(待ってエルサ)口のなふぁが(口の中が)……」


「自業自得でしょ。今日は2人しかいないんだからサボらないでください」



 まだ口の中に焼き芋が残ったアンナさんを祈祷台まで引きずって、今日のお勤めを開始します。



 煙臭い大聖殿

 灰となって舞い散る免罪符

 消えかかっている聖火


 そして、エルドア様の像の前でありながら焼き芋を頬張っている聖女。


 見渡すと失礼なものばかりですが、もう仕方ありません。


 ああ、エルドア様。

 不敬なる私共をお許しください。



「さあ、今日はアンナさんの御祈禱の日ですよ」


「そうだっけ? 今日はエルサだった気がするぞ?」


「私は昨日やりました。なんなら、ここ1か月全部私がやっています。今日くらいはアンナさんもしっかりお勤め果たしてください」


「へいへーい」



 私たち聖女のお勤めは、この大聖堂の中でエルドア様と勇者様のためにお祈りをささげること。

 旅に出ている勇者様が無事に魔王を倒すことができるように、ご加護をお祈りするのです。


 やる気なくエルドア様の前に立つアンナさん。

 あんな態度ですが、腐っても聖女。

 やるときはしっかりとやってくれるはずです……



「ナンミョーーーホーーレンゲーー……」



「いや、それべつのやつじゃねええかああああ!!!!!」



「な、なんだよ。ちゃんと祈ってるじゃないかよ」


「祈ってるけどそれじゃないんですよ! 初登場からこんな発言させないでくださいよ!!」


「1話目からそんなに怒鳴ってたら、体力なくなっちゃうぞ?」


「アンナさんのせいじゃないですか!!」



 全く、こんな時でもふざけてくるアンナさん。

 本当、いつエルドア様から天罰が起こるのでしょう。


 結局、今日も私がお祈り担当です。



「はぁ、ほら、アンナさんも後に続いてくださいよ?

 ーー天にましますエルドア様よ。どうか勇者様にご加護を……」


「エルドアさま~、迷えるアンナちゃんにもどうか祝福を……」


「まじめにやれえ!」

 ぼへえ!



 不敬なる聖女には正義の鉄槌を。

 エルドア様が直接罰を与えられないのならば、せめて私が!



「なにするのよ! この暴力女!」


「アンナさんがちゃんとやらないのが悪いんです」


「そんなにキリキリしているから、いつまでたっても貧乳なんだよ」


「なっ! 今は胸のことは関係ないでしょ!」


「やーいやーい。悔しかったら焼き芋でも食べていなさい!!」


「ぐぬぬ……」



 相変わらずめちゃくちゃですが、これにて今日のお勤めも何とか終了。

 こんな感じで本当に、勇者様にご加護を与えられるのでしょうか?


 こんな適当な聖女たちと一緒で……



「ねえ、アンナさん。アンナさんはどうして勇者様をお守りする聖女になんか応募したんですか?」


「あん? そんなの決まっているだろう」


「と、言いますと?」



「勇者様をお守りする聖女様って、儚くてすごい"モテそう"じゃん?」



「……はい?」


「しかも、勇者様が帰ってきた暁には。勇者様といい関係になったりしてさ~」


「聞いた私がバカでした」



 そんなこんなで、今日も私の聖女ライフは中途半端なまんま終わっていくでした。


 ちなみに、免罪符で焼いた焼き芋はそのあと裏市場で売買されたのだとか……




【続く!】


お読みいただきありがとうございます!


最初の強敵 アンナ。

焼き芋の季節になってきましたね。まだ暑いけど。

焚火とかキャンプファイヤー程度でしか見たことないので、一度でいいからやってみたい


次回は第3の聖女、ドリアードさんのお話。


ブックマーク登録、評価ポイント、ご感想いただけると励みになります。

よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ