おしゃべりの話
「へー。あなたの話おもしろいですわ」
黄色いローブ姿の少女は、楽しそうにテーブルに頬杖をつく。
「どこがだ!何がおもしろいんだよ!」
青年は笑う少女にいらいらとしている。
少女は、怒る彼と楽しそうに話す。
「失敗ばかりですわー。楽しいですわ」
「お前!お前も話せ!ここは来ちまったらしゃべらねーとなんだろ!?」
青年は紫のテーブルクロスがかけられた広いテーブルのまわりにある椅子に座らず、立ってしゃべる。
まわりは木々。
緑の森の中。
広いテーブルは一つ中央に置かれ、しゃべる二人を小さな少女は、見つめていた。
小さな少女はソラ。
その隣に浮かぶのはルー。
ソラは、ここへ来て、すぐに椅子に座らせられてしまった。
テーブルの上には多くのおかしがごちゃごちゃと置かれている。
ソラは手を伸ばすと、ルーにバシッと手を叩かれてしまう。
「勝手に食べるな」
「えーーー。おいしそうなのにー」
ソラは、仕方なくしゃべる二人を見つめる。
青年は怒る。
「お前の話も聞かせやがれ!」
黄色の少女は。
「嫌ですわー。自分の話なんてつまらないですわー」
黄色の少女は。
ぽいっとハート型のおかしを口に放り込む。
もぐもぐする。
青年はいらいらする。
「そっちの奴の話聞けよ!俺はもう何もないぞ!」
青年は腕を組む。
どうやらソラのことだ。
ソラの方を黄色の少女はニコニコとして見る。
「あなたの話聞かせてですわー」
ソラは、とりあえず、つい最近のことを話したり、たくさんしゃべる。
ルーもしゃべる。
が。
黄色の少女は、もっと話せという。
「もっと聞かせてですわー」
「もうないです!」
「まだあると思いますわー」
青年がいう。
「俺は帰るぞ!」
黄色の少女は後ろから青年の肩を掴む。
「もっとー。話してですわー。聞きたいですわー。もっともっともっとー」
「う、うるさいぞ!お前!てか離せ!」
「話すのはあなたですわー」
ソラは、困って見つめてる。
ルーがポツリという。
「自分の話はしないのか」
黄色の少女は、ルーを見る。
ルーは続ける。
「自分の話はしないのか?」
同じことをいう。
黄色の少女は、顔をカタッと右へ傾ける。
「私の話はつまらないですわ。つまらないつまらないつまらないつまらないですわ」
「我は聞きたいが」
「私?つまらないので私の話はなしですわ」
黄色の少女は、手のひらを上へと向ける。
「私は、勇気のある誰か、優しい誰か、失敗した誰か、怒る誰か、泣く誰か、強い誰か、人ではない誰か、立ち向かう誰か、笑う誰か、一生懸命な誰か、楽しい誰か、後ろを向く誰か、前を向く誰か、後悔する誰か、何もできなかった誰か、恨む誰か、憎む誰か、誰かを好きとか、嫌いとか、うらやましい誰か、知りたい誰か、知りたくない誰か、明るい誰か、暗い誰か、守ろうとする誰か、守れなかった誰か、愛する誰か、愛せなかった誰か」
「他にも!もっと!もっと!もっと!聞きたいんですわ!誰かになる誰か!自分がわからない誰か、自分を愛せない誰か、自分を愛せる誰か、諦めない誰か、諦める誰か、聞きたくて聞きたくてたまらないんですの」
ソラも青年も何もいえないまま固まる。
「だから聞かせてですわ!あなたたちはすばらしい!すばらしいんですわ!」
少し怖く感じるが。
瞳の奥は。
ルーは、とても優しげに笑う。
うれしそうに。
「そうか」
「わからなくていいんですわ!」
「…………そうだな。わからなくていい。誰にも」
黄色の少女は、にこっとする。
「あなたの話をもっと聞きたいですわ」
怯える目を向ける青年とは反対に、ルーはどこか寂しそうにいう。
「あなたとずっと話していたい。だが」
ルーはソラを見る。
そうすると、ソラが笑う。
ルーはいう。
「我たちは、先に進む」
「先に進む誰か………いいですわ。すてきですわ…」
黄色の少女は、青年を見た。
青年は怯えた目のままいう。
「お、俺ももう行くからな!」
「……そうですわね。話聞けてうれしかったですわ」
青年とソラとルーは、歩いていく。
ルーは少し遅く進む。
後ろを向く。
黄色の少女は。
ルーへ笑顔を向ける。
ルーは。
何かをいおうとして、やめる。
後ろを向き、黙って進む。
「……」
黄色の少女は。
「みなさん!話を聞かせてくれてありがとうですわー」
全員行ってしまった。
黄色の少女は椅子に座る。
星型のおかしを口に放り込む。
もぐもぐとする。
ゴックンと飲み込む。
「次はどんなすてきな誰かが来ますかしら」




