今の話
次は今の扉を開くソラ。
ルーはつぶやく。
「今、か………」
針金がある。
金属を細長くひものように伸びている。
それがひどく絡まっている。
ソラはなぜかゾッとした。
針金は絡まり、互いにぶつかり合う。
その音が何だか恐怖を感じさせる。
ソラはすぐに扉から出たくなる。
今。
そこへ針金をハサミで切る少女がいる。
彼女は蛍光灯のような濃い紫の色の髪を左に三玉状にして、長くあとは伸ばす。
服装は宇宙をイメージする硬そうなドレス姿。
「うー。絡まりすぎだよお!」
ハサミで泣きながら切る。
「うううう、なんでこんなことをおおおお!もうやだよおおおお!」
ソラの方へ絡んだ針金が飛んでいく。
そこを少女はハサミで切り落とす。
「うえーん。もう、もう、なんで私がこんなことしないとなの!?ねえ!誰か教えてよお!なんで、なんで!?」
彼女はハサミで切っていく。
「やめられないんだよお!もう!何なんだよお!私の人生こんがり過ぎだよお!うわーーーん!!!」
ハサミで切る、切る。
ソラは見つめる。
切り続ける彼女を見つめる。
「うう、子どもの頃はそこまで何もなかったのに、どうして……突然今がやって来て、私はここで切ることになって、あなたにしか出来ませんとか!!騙されてると思って、おだてられてるだけって分かってるのに!何かそうでもなくて!?ガチで褒めてて!?うわあーん。もう!どうしてこうなったあああ!?」
ソラとルーは見つめる。
「すぐ切り捨てられると思ってたから、このハサミすぐ置いて、静かで孤独な日々を送ると思ってたのにいいい!!ハサミで切ってるよおおお!?なんで!?」
ソラは聞き続ける。
「何でだと思う!?」
ソラは困っている。
ルーが答える。
「どうやってもそうなる人生なんじゃないか?」
「いやいやいや!私ハサミとか上手に使えないし!いや、使えてるけど!?」
ハサミで正確に切っている。
ソラはその美しさにいう。
「きれいです!」
「うーむ。そういわれても、ね。想像してなかったんだよお!だって、だって、私が絡まる“今”を切ることになるなんて、想像してないよ!?」
「でも切ってるです!」
「だから想像してなかったの!私出来ないもん!いつの間にかやることになってるんだもん!しかも私の性格的にキチッとやる方みたいだし!」
ルーは一言。
「適材適所というものではないか?」
少女は顔を振りつつ、絡まる針金を上体を引くことで避け、ハサミで切る。
やはり、それはもう美しいとしかいえない。
「きれいです、よ?」
ソラはいうが、彼女は顔を左右に何度も振る。
「いやいや!向いてないから!私!他の人の方が向いてるよ!?」
ルーがいう。
「ちなみに切ることは嫌か?」
「いや、嫌じゃないんだよね……不思議だ、よね!」
絡まる針金を避ける。
避けて。また切っていく。
ルーがいう。
「そろそろ行くか。おぬし」
「あ……うん!」
ソラもいう。
「お姉さん!あの、その頑張ってください!」
少女はハサミを持ち、自分の命を抉ろうとする相手との戦いは楽しそうだ。
「うん!絡まる今をとにかく切るね」
ソラは振り向く。
絡まる今がソラの命を狙う。
そこへタッと地面を蹴り、向かう。
次に地面を滑るように来ると、絡まる今を切る。
ソラはいう。
「一体何ですか?これは…」
「絡まる今だよ。これが外に出るとこの場所の今は破壊するんだって」
「お姉さんは続けるんですか?」
少女は一瞬嫌そうな顔はしたが、けど楽しそうに笑う。
「……………やめる理由がないんだよねえ………理由がないんだよお…………だから、続ける……くう、理由さえあればあああ!」
ソラは頭を下げる。
「お姉さん。ありがとうございます」
ソラは扉を出ていく。
ルーは残るという。
「あなたも絡まる今を続けているのか?」
「そうだね、でもまあ、絡まってるから楽しんだ方がいいのかな」
「………たしかに楽しんだ方が勝ち、かもしれない」
「…じゃあ、何だかんだいって楽しいから……………でもなあ!ううううう、やっぱりなんでこんなことにいいいい!?」
ルーは一言。
「我は行く」
「そっかあ…………あなたたちも絡まる今の世界のはず。頑張ってね!」
ルーは少し間を開けてから答える。
「頑張るではどうにもならないとしても………」
ルーは言葉を続けようとして、そこへ針金が伸びてくる。
少女はハサミで切る。
少女はニコリとする。
「しても?」
ルーは強く答える。
「…行く。我たちは二人だ」
絡まる今を切る少女は針金たちが一度後ろへ下がると。
ルーを見て、口元に指を当てると笑う。
「よくまあ、こんな場所を見に来てくれたね。では、行ってらっしゃい」
ルーは頭を下げると扉を出ていく。




