偶然の針に糸を通す話
偶然とは、針に糸を通すことだとここでは伝わる。
針に糸を通すのは難しい。
偶然出会った。
偶然出会って、無意識に過ごすこと。
偶然出会って、けど違うと思って忘れること。
偶然出会ってそれと思うこと。
偶然出会って、忘れても忘れるほどに忘れられないこと。
それは針に糸を通すことだと伝わる。
偶然出会ってもまさかと思うこと。
偶然出会わなくても惹かれること。
偶然はどこへ行くのか。
彼女は針を手に持ち、座る。
黄色結晶のような髪を持ち、継ぎ接ぎされたドレスを着る。針が多くあり彼女は指から血を流しても針に糸を通そうとする。
その際に刺してしまった場所が多い。
どこへつながるか分からない糸がある。
短い糸、千切れた糸、長く更に長い糸。
千切れた糸を他の糸で結ばれた糸がある。
つながっているのかさえ分からない。
彼女は針へ糸を通す。
「まだだめ」
針に糸を通す。
どこかへつながり、誰につながるか分からない糸を通す。通す。
「まだだめ」
が、針に糸を通そうとしたのに、その糸は消えてしまう。
「まだだめ……………なのに」
が、消えてしまう。
なら、次の針へ糸を通す。
指を刺してしまう。
「………………まだだめ」
針に糸を通す。
どのつながりかは知らない。
そこへソラがやってくる。
ルーは隣にいる。
「糸………です?」
その際に継ぎ接ぎのドレスは綺麗になり、血の流れない姿へと彼女はなる。
ソラは質問する。
「お姉さん何をしてるんですか?」
「針に糸を通してるんだよ」
「私も出来ますか!?」
彼女は優しい声音で話す。
「あなたは、ケガしそうだね…だめ」
「だめですか?」
「うん、だめ」
ソラは地面に座ると糸を見つめる。
糸は何なのか。
「これは何ですか?」
「誰かのつながり。全てはまず偶然から。そこからは分からないけど………それがないと始まらないから」
「?」
「針を糸に通せば、誰かの生きるになるから」
「?そうなんです…か」
「うん。だからまだだめ…失ってもまだつながりある者は諦めたらだめなの」
「だめなんですか?」
彼女は強くうなずく。
「だめ………絶対だめ。だから偶然の針に糸を通すの」
「お姉さんは誰かを守ろうとしてる…です?」
「消えるときもあるけどね」
「…………そう、なんですか」
ルーはそこへ声をかける。
「おぬし。このままいると邪魔になる。行こう」
「え、あ、うん!あ、えとお姉さんさよならです」
彼女は浮かぶ月のように微笑む。
「ええ。さようなら」
ソラが行ってしまうと彼女は姿は戻ってしまう。
消えそうな糸がある。
「まだだめ…」
針に糸を通す。
消えることはなかったようだ。
その針に糸を通したものはどこかへと行ってしまう。
次だ。
「頑張ったね………」
次の針に糸を通す。
「まだだめ」
______________
ソラとルーは歩いていく。
糸が雲のように飛んでいく場所が広がる。
「それにしても、ここは糸がいっぱい飛んでるね!」
「そうだな」
ソラは糸を見送るように通り過ぎていく。
ルーは表情なく隣にある。




