誰も知られない話
生まれては消えていく英雄
生まれては消える英雄
生まれては潰されていく英雄
生まれては伸ばされる英雄
生まれては悔しい英雄
生まれては負けた英雄
生まれては唇を噛んだ英雄
生まれてはどこかに残るかもしれない英雄
誰も知られない話
誰も知らなくていい話
歯を深く噛みこんだ時
血をにじませて拳を握った時
英雄へ幸を。
彼は、赤色の壁に字を書いていく。
遠くから見える字はない。
見えるのは赤黒い色だけ。
字が見えないほどに書き込んでいく。
彼は唇を噛んで文字を重ね、重ねる。
赤色の理由は何か。
彼は一心に赤黒い色に集中する。
そこへ、小さな犬がやってくる。
「相当な色だな」
少年は、赤黒い色を顔や服につけている。
少年は静かにいう。
「相当ですか?」
「赤いな」
「こうやってこれを使うことでこの大陸の英雄の役に立つのです」
「この場所の英雄たちが英雄であるためか?」
ルーは何をいっているのか。
「英雄は全てに知られて英雄であるべきなんです。僕もそんな英雄の一部となれます」
「誰も知られずに英雄の引き立て役をか?いや、引き立てじゃない」
少年はまた始める。
彼はルーを見る。
「英雄たちはこれから先も最前線。そっちの方が大変です。僕の役目は知られなくていいのです」
「英雄の…………」
少年はニコリとする。
「今、英雄は攻撃。深い攻撃をされてしまい、大怪我を負ったようですね。それに比べたら僕は優しい場所にいます」
ルーは少年へ頭を下げる。
少年は手をワタワタと振る。
「頭を下げるべきなのは英雄たちにです。僕へ頭は下げなくていいです」
ルーは頭を上げると。
「失礼した」
離れていく。
少年は続ける。
この大陸の英雄のために。
___________
ソラは遠くの草原でルーを待っていた。
ルーの姿に気づく。
「ルー!来た!あのね!さっきね!タンポポがいっぱい飛んでたんだよ」
「そうか」
「でね、遠くに行っちゃった」
「待たせてすまなかったな。」
「ううん!楽しいものいーっぱい見れたよ!」
ソラは歩き出し、ルーも行く。
ルーは振り返る。
何もいわずに行く。
ソラは質問する。
「ルーは何してたの?」
「英雄に会いに行ったんだ」




