天才の話
俺は、天才になりたかった。
だから、天才とようやく会えた時の喜びは相当であった。
「今日あの天才の!術使いのアンナと出会える………うわあ!俺がんばる!」
俺はその天才と呼ばれる相手と会う。
出会えた時に思ったのは。
彼女の夕焼け色に銀を塗られたような髪を短くした少女。
何というか、……
……………………え。
かわいい………………………。
「あ……………俺はタイトです。天才のアンナさんに会えてうれしいです!!いやほんとに!」
「…………タイト。初めましてアンナです。天才?誰のこと?」
え。
「アンナさんのことですよ!?」
え。
何この知らない感じ。
天才だよね!?
「アンナさんですよ!?知らないとかないですよね!?あー。あ。あれですか?お前みたいな凡人とは違うんだよみたいな?」
俺はそう思った。
いや本当に。
アンナはキョトンとしてる。
わざとには感じない。
「き、気づいてない……のか!?」
「私…。天才じゃない。天才に失礼」
「天才はアンナさんですってば!」
俺は驚く。
え。この人。知らない?気づいてない?
わざとか?
とりあえず天才の観察だ。
気づいたのは。
「アンナさん。そろそろ休まないと体壊しますよ」
「必要ない」
「いやいや、体壊しますって!」
気づいたのは。
「アンナさ………」
アンナは相当に定規を手にして、鉛筆を持ち、線を描いていく。
静かにする。
とても集中している。
目違う。
気づいたのは。
「アンナさん!そっちに行くと転びます!」
「……え」
転んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「平気………」
気づいたのは。
「アンナさん。何か欲しいものとかってありますか?」
「欲しい物はたくさんある」
「何が欲しいんですか?」
「………術に関係したもの全て」
「なるほど、他にはないんですか?」
「タイトは?」
「俺は欲しいものありますよ!食べ物が特に!」
「食べ物……おいしそう」
いつの間にかそばにいるため、彼女を知りたくなるのは仕方ない。
でも、知っていくと…………。
気づいたのは。
彼女の何かを望まない。
その致命的にすぎる。
望まないというのは、命に執着も感じない。
これが…天才か。
天才は……………きっと、失うことに慣れている。
だから本当に致命的にすぎる。
……………悲劇だな。絶望的なほどに。
望まないのに、あれほどの術を作り出す。
この人は望まないからこその力なのか。
「アンナさんて、何か望みないんですか?」
「………望み……………。特にない。あ」
「アンナさんて天才って呼ばれてたから欲張りでとんでもないと思っていたのですが」
「私は術に対してのみ、欲張り」
「…………術よく作りますよね。頭おかしくならないのか?」
「ならない。」
「ならない!?どういう頭…………」
「子どもの時からそれ以外考えてなかった。けど……一時どうしても我慢しないといけなくなった。数年我慢して、私は偶然それ一つに集中できた」
「……………何年、してたんだ?」
彼女は…上を向くと、考えてからいう。
「18年………と思える」
「18年……!え!長!長すぎるだろ!」
「そのことしか考えてなかった」
俺はこれが天才か。と思う。
「俺……天才になりたかった……すげえな18年じゃ………俺無理じゃん。俺みたいな凡人なんてバカに見えるだろ」
アンナは顔を振る。
「そんなこと考えたことない。ただ、考えることをやめた人といるのは悲しかった」
「へえ…………悲しかったのか……。でも、やっぱいいな。天才か。俺もなりたいな」
「天才………私の方がなりたかった」
「な!おい!天才がなりたいとかいうな!俺どうなんだよ!?」
「タイト。私天才じゃない」
…………天才が、天才になりたいっていうな!……
俺は外へ飛び出す。
天才になりたかった。
天才になりたかった。
なれなかった。
望まないくせに、望もうとしないくせに天才だなんて。
「うらやましい……………」
そこへ、誰か来る。
小さな少女が通り過ぎる。
小さな子を見て、昔のことを思いだす。
子どもの時から凡人だった。平凡な人生を送ってきた。
よく天才が紹介される番組を見る。
天才とは………とにかく考え方が違うらしい。
天才の言葉を聞いて、いつも思う。
俺は平凡な人間と思い知らされる。
「凡人かよ…………」
天才を間近で見て、こんなにもうらやましいなんて。
そして………多分それだけじゃない。
「………天才……」
アンナの元へと戻る。
天才と思いつつ、彼女は……。
_________
「アンナさん!俺は凡人です!天才にはなれません!アンナさんがうらやましいてす!!!うらやましいです!正直怒ってます!望まない人に限って!力持ってやがって!と!」
アンナは静かに聞く。
「タイト。おかえり。もう帰らないと思ってた」
俺は帰ってきたぞ!
「アンナさん!俺は天才になりたいです!なる方法教えてください!」
「知らない」
「そういうとこ腹立つ!なのにかわいいからな!くう!」
俺は天才にはなれない。
悲しいけどなれない。
「くう!」
アンナは静かにいう。
「誰か…私を天才といってるの?」
「マジで知らないのか…………!」
「天才………………。かわいい銀色の短い髪でピン留めをつけた、たった一人へ一途な女の子だといい………」
「それ自分か?」
「え、違う………」
「好みかよ!?俺も好みだけど!」
アンナは真顔でいう。
「天才は美少女………ああ、それいい」
「それは俺のいいたいことだ!というか、美少女が何いってるんだ!?」
「美少女………?私?目に何かかけてる?」
「かけてねーし!アンナさんはきれいだろが!」
アンナは一つも笑わずにいう。
「美少女とは本の中だけ」
「…………だっから!美少女が、んなこというな!嫌みに聞こえる!」
「そう…?」
俺はガックリする。
天才になりたかった。
天才を目の前にして思うのは。
「天才とは考え方が違いすぎる!ぐう!」
アンナは俺を見つめる。
「違う?」
「違う」
「どの辺?」
「…………………え。何か、変わってる?」
「それは私に失礼」
アンナは少しだけ笑う。
この絶望的にすぎる彼女を俺はとりあえず近くで観察を続けよう。




