6.やはり食事は美味しいに限ります
あの後、私は初めて孤児院の裏山に入り、採集を行った。山は全く人が入らず、手入れがされていないようだった。茂った蔓をかきわけながら、ヴィクタルに教わり、食べられる木の実を採集した。それから、帰りの途中でヒヒ獅子という、猪みたいな生き物に出くわした。こちらに勢いよく突進してくるので、危機を感じた私は思わず、石を拾って魔力をこめ、銃弾のイメージで思いっきり投げた。すると、石は見事にヒヒ獅子の身体を貫き、ヒヒ獅子は倒れた。
どうやらこのヒヒ獅子。食べられるようで、孤児院に持ち帰ったら子どもたちは凄く喜んでいた。動物の解体なんてやったことがなかったので、結構刺激が強かったが、生きるためにはしかたがない。私はヴィクタルに教わりながら、何とかヒヒ獅子を解体した。
手に入ったいつもより豪華な食材で、さっそく私は食事の準備を始めた。孤児院の厨房は、竈があり、薪で火を起こして使うものだ。私はヴィクタルに教わりながら、火のつけ方を学ぶ。無事に火がつくと、私は切った食材を鍋に入れ、水を加えて煮込み始めた。一品目はヒヒ獅子のスープである。
つぎに、今日取ったラズの実という、イチゴみたいな果物を潰し、煮詰めてジャムみたいにする。砂糖は高級品らしく、孤児院にはないようなので、甘さは控えめだが、このラズの実はもともと結構甘いので、十分美味しいソースになる。保存はきかないが、この量なら今日でなくなってしまうので問題ない。
最後に、あのどろどろとしたトウモロコシのおかゆの素を取り出し、少量の水を加えて練る。実はこれ、アルイタという植物を乾燥させ粉末にしたものらしい。なんでこんな変な名前なのかと思ったら、この植物、魔物の一種らしく、成長しすぎると独りでに歩き出し、他の生物を捕獲して栄養を吸い取るらしい。ヴィクタルからこの話を聞いたときは、背筋が凍った。まさか、そんな危険性物を食べていたとは思わなかった。
まぁ、それはさておき、私は練ったそれをフライパンに薄く引き伸ばしながら入れ、薄焼きにする。イメージはトルティーヤだ。それを何回も繰り返し、必要分のトルティーヤを焼いた。
本当は、トルティーヤといえばなかの具材もあると美味しいのだが、調味料は塩だけだし、しかも、それも僅かな量しかなく、無駄遣いはできないので、薄味になってしまう。少しでも雰囲気を出すために、ヒヒ獅子の塩焼きも作っておいたが、個人的には物足りない気がした。ワカモレとかあったら最高なのにな。
とりあえず、できた料理を更に盛り付け、子どもたちにテーブルに運んでもらう。ヒヒ獅子のスープにトルティーヤ風の薄焼きパン、それから、ヒヒ獅子の塩焼きに、トルティーヤにつける用のラズジャム。
子どもたちは準備ができると、喜んで口につけはじめた。久しぶりのまともな食事に喜んでいるのだろう。
「すごい!こんなごうかなりょうりはじめて!」
「これ、おいしい!あまくておかしみたい!」
口々に感想を言いながら、料理を黙々と食べていく。私はそれを見て嬉しくなった。そうやって喜んでもらえると、こちらも作り甲斐があるものである。料理を手伝ってくれたヴィクタルも、食事を口にして驚いたように固まった。
「うまいな……」
そのあとは無言で次々と料理を口に運んでいく。どうやら気に入ってもらえたようだ。私もそれを見届けてから、自分も食事を始める。味は薄いが、久しぶりのまともな食事は美味しく感じられた。
いずれは日本食も実現したいな……。
そんなことを思いながら、食事をたいらげるのだった。