平凡少年、かく語りき。
夏の始まり。
それは新入生が高校という新しい生活の場に慣れ、友人関係も安定してくることだろう。
かく言う、俺も入学したての高校生。ピカピカの一年生である。受験生の先輩方は必死になり始める頃であるが、そこまで考える必要はないだろう。中間学年である二年生に関してはよくわからないが、遊び呆ける時期なのではないだろうか。
夏の始まりとは高校生にとっておよそ、その様な時期である。
誰もが皆、変わり映えしない平穏な日常を謳歌する。なんとも素晴らしいことだろう。変わらぬ心の安寧こそ本当に望むものだと知れ!
以上が、俺の個人的な主張である。
極論を言ってしまえば、俺は自分が幸せならそれでいいのだ。ただ、我が妹に一度だけ同じような事を言った時、それはもう残念なものを見るような目で「うっわ、だっさ」と言われた。流石に辛かったので主張を曲げようかとも考えた。男子高校生と童貞はダサいという言葉に滅法弱いので、妹には是非ともその辺りの気遣いを身につけてほしい。
しかし、結局のところ平穏な日常と心の安寧こそが人類を平和へと導く鍵であると思うので、主張はそのままである。男子高校生の脳内はどんどん壮大になっていくのだ。
だが、そんな俺の主張も虚しくもう一つの夏がその足をこれでもかという程に動かして迫ってくる。人はそれを転機と呼ぶ。
それは平穏な日常、されど変化に乏しいそんな日々を変革する。そんな夏である。実は四季折々にこの転機と言うものは存在するのだが、そこは割愛しよう。今話しても仕方がないことだ。
ところで、俺について言えばもちろんその転機というものを少しも望んでいない。俺が願うのは平穏無事に大きくも小さくもなく、当たり障りのない、どうでもいいような日常が過ぎていくことだけだ。そこに恋人が居れば大満足だが今は無理だろうから高望みはしない。
だから、今まさに目の前まで迫ってくるその夏は俺が一番避けたいものであったし、まさか自分にやってくるものだとは考えてすらいなかったものであった。
どうして、こんなにも嫌っている転機が俺に訪れてしまったのか。
原因は一人の破天荒な女。
その女によって、俺は望まぬ転機を無理矢理与えられたのである。
これから起こる事、その全ての元凶は八谷祥子という女。
望まぬ彼女との邂逅によって、否応無しに転機は俺の元へとやってきてしまったのである。