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君と会えない一ヶ月  作者: ケイト
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9月25日 国際通りにて

「これは浮気されてるね」

紗弥香は、私の携帯に映し出される、彼からの例の誤爆LINEのスクリーンショット画像を見ながらそう言った。

私もその意見には、不本意ながら同意せざる得ない。


国際通りを一通り巡り、あたりが薄暗くなった頃、私たちは今夜の夕食を予約していた由緒ある沖縄料理店へ入った。

その店は芸能人もよく利用すると噂の有名店で、国際通りに行く際は、かねてより利用したいと思っていた店だった。

国際通りの中心部に位置するその店は、数百年前に栄華を誇った首里王朝さながらの、朱色を基調とした華やかな王宮風の造りで、首里城を思わせる門構えの前では琉球王朝風の民族衣装を着た女性たちが私たちを迎えてくれた。


店内も華やかな王宮そのもので、予約席に誘われた私たちは、まるで王族にでもなったかのような錯覚に酔いながら、沖縄料理をいただいていた。

最高の雰囲気の中、運ばれる沖縄料理は一品一品大変美味だった。

沖縄に来た際は必ず食べたいと熱望していた熱帯の海と同じ色を持つ青い不思議な魚、イラブチャーの刺身料理が運ばれた頃、私は永井さんにかねてより相談したかった、彼の話をしたのだ。


彼女は一通り例のLINEを読み込むと、すぐに浮気判定を行い、文章の解読をし始めた。

彼女は地元紙の若手新聞記者として、様々な事件事故に日々対峙しており、その知見は誰からも一目置かれる存在だった。

私は彼女の見解を固唾を飲んで待った。


「色んな女性と同時進行されていますよ。勝てるかな?by M」


「善之さんのせいで眠れない。

言いたいこと言うと私が体調を崩しても写真をねだるばかりで心配もしてくれない。

仙台に来ようともしてくれない。

電話もしてくれない。

私より事務さんの方が結婚の対象でいる。

どれだけメールしても無視。

忙しいのはお互い様。

おかしいと思わないの?

不思議でならない。」


「あなたの末路」



これは、彼が浮気をしている仙台の女性に対して、その女性の言い振りを真似して愚弄する意図のLINEを送りつけようとしている文面を、私に誤爆したという判定は私も彼女も同意見であった。

そして彼には複数の女性と浮気をしていることも明らかであろうと。



「最初これを見たときは、本当意味がわからなくて、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになったのね。

だから『靴名さんは色んな女性と同時進行されてるんですか?』って返信したんだけど、彼からは返事はなかった」


彼はこの件を一体どう感じているのだろうか?

これ以降彼とは音信不通のため、様子はうかがい知れない。

私ばかりが一方的に思い悩むばかりだ。

彼も今、同様に悩んでくれているのだろうか?


「これは最初、私に対して怒ってる文なのかと思ったんだけど、次に文章を読み込むうちに、これは私宛のLINEじゃないってことがわかってね。

ここの文に出てる、彼への呼び方が私と違うから。

私は『善之さん』じゃなくて『靴名さん』って苗字で呼ぶし。」


私は該当箇所を指差しながら解説した。

彼が仙台の女性宛のLINEを私に誤爆していることの証である。


「この文の『事務さん』とは百合のこと?」

彼女はLINE内のこの単語が気になったようだ。


「多分違うと思う。

彼は私のことを、事務さんとは言わない。

市役所の人っていうから。

だからこの仙台の人の他にも結婚の対象にしてる本命の『事務さん』がいるってこと」


つまりこの箇所からは、彼は少なくとも私、仙台の女性、彼の本命である「事務さん」の三人と浮気していることがわかるのだ。

それを思うと、私は改めて彼に対する怒りがふつふつと沸き立った。


「あと『by.M』って何だろうね?」

彼女もこの文を疑問に思ったようだ。


「私もそこだけ分からなかった。

Mのイニシャルの人が言ってるセリフってことなのかと思うけど、私も彼もMがイニシャルじゃないし…」


Mのセリフから、Mは少なくとも、彼が複数の女性を弄んでいることを知っている人物ということがわかる。


「Mってイニシャルなのかな?

本命の事務さんとかかな?」


「その可能性はあるね」

彼女は的確に答えた。


仙台の女性と本命の事務さんは、彼を巡って熾烈な戦いを繰り広げていたのか?

私はそんなことも知らずに、彼に浮気され騙され続けていたとは…


「もうどうすればいいと思う?

このLINEを見て、自分は本当に混乱して、今もつらくて仕方ないの。

信じていた彼に浮気されてたなんて…。

これが送られた時はつらすぎて、夜も眠れなかった」


このLINEは私にとってはまさに青天の霹靂だったのだ。

彼からの説明があれば、幾分この疑心暗鬼は落ち着いたのかも知れないが、彼から無視されている以上、最悪な想像以外に説明の余地はなかった。


「彼から連絡がずっと欲しくて、今日も飛行機で沖縄に向かう前に、LINEで旅行に行くことは連絡したんだけど、今も既読スルーされて、返信もくれないし」


「なんでLINE送っちゃうの!?」


紗弥香はあきれたように言った。


「もうそんな浮気男なんかに連絡しなくていいじゃん。

送っちゃダメだよ!」


彼女の言うことは、きっと正しい。

それが正解なのだ。でも…


「ひとまず説明は欲しいじゃん…

一体何があったのか、何をしてたのか、話してほしいよ。

次会う時に絶対説明してもらう。

だからその時、あの人に渡す沖縄土産を買っていこうと思う」


紗弥香は、厳しい顔で私を見ていた。

間違いを犯している友人に刺さる視線だった。


「いつまでも優しいね」

そう彼女はつぶやく。

本当に、私は甘すぎるのだろう。


紗弥香は空になったグラスにシークワーサージュースのボトルを注いでいった。

沖縄独特の甘酸っぱい風味が魅力的なドリンクだ。


確かに我ながら、未練がましい行動だと思う。

あんなLINEが来たならば、普通の女ならば、すぐに怒り、彼に別れを突きつけるのだろうか?

そうしなければ女の価値が下がる一方なのか?

それができない女だからこそ、私はあんな風に彼に軽んじられるのだ。


惨めな私を励ますためか、紗弥香は私のグラスにもジュースを注いでいた。

そして、気泡を満杯に蓄えたシークワーサージュースのグラスをつかんだ彼女は、こう高らかに宣言した。


「ひとまず、今日は飲もう!

そしてそんな男のことなんか、ぱーーっと忘れちゃえ!!

今日からの沖縄旅行はその分楽しもう!!」


彼女のその言葉は私を、あのLINE以来、初めて笑顔にしてくれた。

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