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旅立ち

「確かになぁ、お前の成績やら出席態度から見たら、進学は難しいかも知らへんけど、調理師学校とは、驚いたなぁ」山崎 和浩の担任教師、杉山 誠一せいいちは、提出が遅れていて、やっとの事で提出した和浩の進路希望票を見て、目を丸くした。

「オレなりに色々と考えて、自分が世の中の人の役に立てる事って何やろうって考えたんです。ほなら、たまに作っとったオレの料理を美味うまそうにうオカンの笑顔が浮かんで来て、ホンマに分からへんねんけど、オレの作るメシで、世の中の人の笑顔が作れたらエエんとちゃうかって思たんです」常日頃つねひごろから、何事にいても、投げやりとまでは行かなくとも、やる気を出したり、自分の意見を述べる事のなかった和浩の変貌へんぼうした姿を見て、杉山は確信めいたように口を開いた。

「お前のお母さんが亡くなって、色々と辛い想いをしながらも出した、お前の決断や!大丈夫や、きっとお前なら出来る!ほんで、いつかお前が作った料理を食わしてもろて、先生を笑顔にしてくれ!応援してるからな」

それから和浩は、皿洗いのアルバイトをしている店舗で、自分の進むべき進路を決めた事を告げ、まかない作りから厨房に立たせてもらえるようになった。その中でも、豚肉の切り落としを丁寧に重ねて作った中華風ミルフィーユカツ丼が社員や他のアルバイトスタッフにも受け、店長の独断で、常連さん限定の裏メニューとして出した。

やがて、それが口コミで広がり、いつしかレギュラーメニューとなり、和浩の実力を認めた店長は、本格的に社員として働く気はないか?と打診して来た。

「店長、スンマセン。そないに言うてくれるんはムッチャ有り難いんですけど、オレの夢は世の中のどんな人でもが、オレの作ったメシを食って笑顔になってもらう事なんです。世の中には、中華料理が苦手やったり、ダイエットや言うて敬遠する人も居ると思います。せやから、オレは色んな料理を勉強したいんです」それを聞いた店長は薄く苦笑いを浮かべた。

「ここへ来て、バイトさせてくれって来た時は、変なガキが来よったなぁって思ったけど、随分と大人になったんやなぁ。影ながらやけど、応援させてもらうわ。…あっ、後、お前が考えたメニューは当店ウチのメニューとしてぱくらしてもらうからなぁ!まぁ、逆退職金ってヤツや!でも、腹減ったらいつでも当店ウチに来い!腹一杯、不味まずいメシ、食わしたるからなぁ」


やがて卒業を迎え、和浩は日本料理のコースを選択した。今や、様々な海外の料理が日本国内に入って来ている。しかし、生き残って行くのは、日本人の口に合うようにアレンジがなされたものだ。特に、ここ関西では出汁ダシ文化が強く根付いており、如何いかなる料理も、日本料理がベースにないと、成功はあり得ないと和浩は考えていた。そして、担任教師の杉山のはからいで、四月を始点として、三ヶ月置きのコースの変更が可能な学校を選んでくれていた。

山あり谷ありの人生の中、和浩は、母・初代が残した言葉に想いをせていた。

『この事だけは覚えといて!アンタ一人で生きとるんやないの。周りに支えてくれてる人がるから自分は生かされてるんやで』

今更いまさらになって、やっと少しだけ大人になった和浩は、母の想いを胸に新しい人生を歩み始めようとしていた。

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