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男の泣き所

「おぉ、木下!山上!今日、学校終わってからカラオケでも行かへんか?メッチャ、ブルーハーツでも熱唱したい気分やねん」今日はアルバイトが入っていない上に、今朝の事でムシャクシャしていた和浩は、級友二人に放課後の遊興に誘った。

「おぅ!エエなぁ、オレもウルフルズの新曲を覚えたん歌いたかってん」

こうして放課後になると、さを晴らすべく、級友二人とカラオケにきょうじた。

熱唱する余り、携帯電話を内ポケットに忍ばせた上着を脱ぎ散らした事で、携帯電話の着信に気付かずにいた。


「ハイ!西川です」いくら掛けてもつながらない和浩の代わりに、家で駄菓子をむさぼりながらゲームに興じていた西川 翔平の携帯電話に着信が入った。

「オイ!翔平か?カズボンはどないした?」電話口からは鬼気迫ききせまる勢いで話しかける三浦からの声が聞こえて来た。

「カズさんですか?今日はバイト休みやし、ウチにてんのとちゃいますか?」翔平はうわずった三浦の声とは対象に、全く動じる事なく平坦に話した。

「イヤな!ウチにも携帯にもかけたけど、全然繋がらんのや!カズボンと連絡取れたら直ぐにワシのトコに連絡するように伝えてくれ!ワシはここから離れられんのじゃ。お前、ひまやったら心当たりを探してくれ」そこまで言うと、三浦は電話を切ってしまった。

「何やねん、オッサン。仕方しゃあないなぁ」翔平は面倒臭そうに、とりあえず山崎宅を訪ねた。しかし、いくらチャイムを鳴らそうがノックをしようが、一向に反応はなかった。

「あぁ、翔平ですけど、今、カズさんに来てるんすけど、全然、反応はありませんわ。こんだけやってんねんから、寝てるとかありえへんし、どっか行ってんのとちゃいますかね?」

相変わらずの平坦振りに、三浦はつい、イラッと来てしまった。

「どっか行っとるとちゃうんじゃ!他にも心当たりはあるやろ?とにかく一刻も早く連絡を取ってくれ」三浦の勢いに、やっとの事で事を急すると認識した翔平は、あわてて布施駅前へと向かった。駅前で携帯電話の写真を片手に町行く人々に聞き込みをするも、たかだか学生一人を気にする人はおらず、翔平は途方に暮れた。

やがて空が茜色に染まり始め、疲れ果てた翔平は、ロータリーの縁石に腰を掛けて、粒つぶオレンジジュースを飲んでいた。

「何やねん!この粒つぶが、何か違和感やねん!」いつも飲みれているはずのオレンジジュースも、言われのないイライラが翔平の心を支配し始め、オレンジの粒ですら苛立ちの対象になった時だった。ロータリー内にあるカラオケボックスから和浩が姿を現した。

「カズさん!カズさんですやん!ムッチャ探しましたやん」翔平は飲みかけのオレンジジュースを縁石に置きっぱなしに、和浩に近付いて行った。翔平の話しを聞きつけ、面倒臭そうに三浦に電話をかけた。

「オッサン、何やねん?何か用か?」不貞腐ふてくされた和浩の態度にも動じず、三浦は静かに「何も言わんと高井田中央病院に来い」と言ったきり、電話は切れた。和浩は三浦の言葉に胸騒ぎだけを抱えて直ぐに病院へと向かった。


病院に着いた和浩の目の前には、目を真っ赤に染めて廊下に仁王立ちで立ち尽くす三浦がいた。力なく三浦に近寄った和浩に、三浦は左頬に目掛けて思いっ切りビンタを食らわした。そんな三浦の瞳はすでに涙であふれていた。

「オッサン…何を…何を泣いとんねん」言っている和浩の瞳もうるみ始めていた。

「エエか?カズ!男はな、一生で泣いてゆるされる時が三回だけある!

一つは心からの望みを成し遂げた時!

二つは愛する者をなくした時!

ほんで、三つ目は自分の無力さを痛感させられた時や!う覚えとけ」三浦はそれだけ言うと、病院を後にした。

三浦が後にした廊下の直ぐ横の病室の札には"山崎 初代様"と記されていた。和浩が恐る恐る病室に入ると、医師や看護師が、ベッドに横たわる初代を取り囲んでいた。

「あの…オレ…息子の和浩です」と重たい口を開いた。

「息子さんですか?お母様は、相当に無理をなさっていた様です。すでに末期のガンに侵されており、出来る限りの処置は致しますが、余命幾ばくもないかと…」と言ったきり、病室を出て行った。一人残された和浩は母親のベッドのそばで「オカン…オレ…今…泣いてエエ時なんかなぁ。泣いたらアカン言われても…」和浩はその場にひざを崩して号泣した。

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