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8 家族エン満 DE お出掛け♪

8 家族エン()満 DE お出掛け♪


 ふう、この前は失敗してしまった。

 両親の目を盗んでクリアお母さんの魔法の杖に触れながら、魔法の基礎的な練習をしていたまでは良かった。

 だけど、初めてちゃんとした魔法が使えたのが嬉しくて、つい調子に乗って魔力を込め過ぎて魔力枯渇を起こし床の上で倒れて気を失ってしまった。

 ランスお父さんとクリアお母さんには心配を掛けてしまったなあ。

 これがベットの上なら、ただ眠っているだけで済ませられたのかも知れないのに。 

 幸い杖からも離れていたし、赤ちゃんが魔法を使ったとは考えなかったらしい事と、何よりボクが倒れていて慌てていたらしく、クリアお母さんもランスお父さんもボクが魔法を使って魔力切れで気を失ったとは思わなかったようで、バレないで済んだのは助かった。

 あの後、数時間くらい眠ったら普通に体調は元に戻っていた。

 その間、クリアお母さんが付きっ切りで見ていてくれたみたいで、何だか悪い事をした気分になる。

 いや、まあ……実際迷惑かけたので、悪い事をしたのだけれどもね。

 本当に、心配かけてごめんなさい。

 魔法が使えるであろうという事は分かった。

 だけども、今のままでは全く魔力量が足りていない事もよーく身に染みてわかった。

 改めて実感したよ。

 これもネットスーパーのパスティエルポイントと同じように、地道に毎日挑戦して上限を上げていくしかない。

 しかも、こちらはパスティエルポイントみたいに『ダブルアップ』なんてのもないから本当に地道だ。

 いや、本来は地道にコツコツ修行していかなければならないという事もちゃんと理解していますよ。


   ◇


「セイル、村に一緒に行ってみるか?」

 あれからしばらく経ってから、ランスお父さんがそんな事をボクに聞いてきた。

「おさんぽ?」

「うん、どちらかというとお出掛けかしらね」

「おでかけ?」

「そう、おでかけ。森の近くの村までお買い物にね」

 クリアお母さんが答えてくれる。

「おかいもの?」

「えっとね、セイルくんの食べたい物とかお母さんたちの服とかを見に行くのよ」

「おかいもの、いく!」

「よし! じゃあセイルも支度したくするか」

 言葉の使い方には気を付けている。

 ポイントは相手が言った単語を繰り返してみることだ。

 どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔)

 前世、小学校の頃から歳の離れた双子の妹姉妹の面倒を見ていたから、この辺の動作はちょっと自信がある。

 いらん所にもチョコチョコ走り回って「これなあにぃ!」と連呼してみたり、意味不明な単語や場違いな言葉を楽しそうに叫んでみたり、急に機嫌が悪くなってみたりとフェイクを混ぜつつ本来の目的の情報を聞き出す。

 どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔)

 前にも語ったけど、ゆっくり少しずつの上達を心掛けての一環だ。

 急激に流暢に話し始めたらやっぱり気味悪いだろうしね。

 それでも大分会話的要素は成り立つようになっている。

 こういう時の周りにいる大人は結構聞いた事に対し、理解していないであろう子供の疑問にも面倒くさがらずに懇切丁寧に教えてくれることが多い。まあ、世の中には聞いて来る事を鬱陶うっとうしがる大人も確かに居る。

 幸いボクの両親は質問されるのが嬉しいタイプの様で、いろいろな事を分かり易く教えてくれた。


   ◇


「おでかけ♪ おでかけ♪」

 ランスお父さんとクリアお母さんと一緒に森の道を村へと歩いて向かう。

 ボクは直接見た訳じゃないけど、この森には魔物も出るらしいので、ランスお父さんは腰に剣をき、クリアお母さんは手にあの魔法の杖を持ち、二人とも大きな袋を背負っている。

 そしてボクは歩いて向かうといっても、道が整備されている訳でもない獣道のような道なので、ランスお父さんに抱っこされたまま森を進んでいる。

 家の周りなら兎も角、流石にまだこういった道を歩くのは危ない。

 ちょっと前に家の中で思いっきり転んだばかりだしね……。

 まあ、冗談はさておき、実際のところ頭が重く重心が物凄く悪い為、不安定な足場だと自分の意思とは関係なく簡単に転んでしまうのだ。

 そりゃあもう笑ってしまう程簡単にね。

「あれなあに?」

「キノコだな」

「キノコ? たべる!」

「あれはクダスだけと言って、お腹を下すキノコだな。食べちゃダメだぞ。ポンポンが痛くなちゃうぞ」

「ポンポンいたいの?」

「そうそう、ポンポンいたいの」

「じゃあたべない! ……あれなあに?」

 ランスお父さんに抱っこされながら、目に付いた物を次々と指差しして聞いていく。

 高く木々がそびえた森ではあるが、適度に開けているので陽の光は差し込んでいる為、いろいろな植物が育っているようだ。

 まあ、だからこそ足場も悪いのだが、ランスお父さんの歩きはそれをボクに感じさせない程安定している。

 道らしきところの途中にある岩を超え、横たわった木や張った根を跨ぎ、滑り易そうな苔の上を踏みしめて進んでいるにも拘らずだ。

 クリアお母さんはちょっと息を切らせ気味だ。

「はあ、はあ、はあ」

 魔法の杖をまさに杖代わりに使って歩いている。元冒険者とは言え、魔法使いのクリアお母さんは体力的には低いのだろう。二十歳少し過ぎくらいで見た目もそれなりに可愛い系が息を切らせている光景はなんだかちょっと色っぽい。

「はあ……ふう、にしても毎回思うんだけど、サーベニアもなんでこんな所に居を構えたのかしら? 村から近いとは言え、道が険し過ぎるわよ」

 息を切らしていたクリアお母さんが、息を整えてから不平を漏らす。

 それはボクも思った。

 初めて森の外に出ることになるんだけど、何でこんなに深く険しい所にこの夫婦は住んでいるんだろうと疑問に感じていたんだ。

 この二人、中世風ファンタジー世界であろうことを考慮に入れて考えても裕福とは言えないまでも生活に困窮している様には見えない。村とか町とかで十分暮らしていけそうなのに。

「知るか。サーベニア本人に聞けばよかっただろうが、頼まれ事を安請け合いして家の管理を引き受けたのはクリアじゃないか」

「仕方ないじゃない。サーベニアは一応、仲間でもあるけどわたしの師匠にも当たるんだから、頼まれたら嫌とは言えないわよ」

「サーベニア?」

 ここでボクが疑問を挟む。

 初めて聞く人の名前だ。どうやら冒険者時代の仲間らしいけど、冒険の話を聞いた時には出てこなかったと思う。覚えていないだけかもしれないけど。

 今の会話から、あの家はそのサーベニアと言う人の物らしい。それを管理する代わりにこの二人が住んでいるという訳か。

「んっ? そう言えば話した事無かったか? サーベニアは俺達が冒険者を始めた頃、少しだけパーティーを組んでいたんだ。その後は俺達が拠点にしていたドーザリブ王国で道具屋をやっていて、ちょくちょくいろんな依頼で一緒に旅をしたりもしてたしな」

「お母さんの師匠でもあるのよ」

「へえ」

「エルフで美人だぞ」

「へええ」

「ランス! もう、そんな教え方して、セイルくんが貴方みたいになったらどうするのよ!」

 エルフ!

 前に聞いていたけど、この世界にはエルフがいる。

 エルフだけじゃない。

 ドワーフやリザードマンや獣人などいろいろな種族がいて、人間だけじゃなくちゃんとそれぞれの言語や文化を持っているのだそうだ。

 なるほど、エルフだからこんな森の中なのか。

 にしても家はエルフらしからぬ造りをしている様な気がするんだけどな。

「ほら、怒ると疲れるぞ。それとついでに可愛い顔が台無しだ。後もう少しで街道だから頑張れ」

 ランスお父さんって軽いというか、何気なくサラッと歯の浮くような言葉を平気で吐くよな。

「もう! ついでとは何よ!」

 クリアお母さんが顔を赤くしているのは怒っているからなのか、照れているからなのか、息が上がっているからなのか、良く分からない。

 が、一先ずボクも応援しておこう。

「がーんばれっ! クリアおかあさん!」

「セイルくん! んっ、もう可愛いなあ。うん、お母さん頑張るね」

「あい!」

 ボクとランスお父さんは顔を見合わせてニッコリと笑いあう。

 この瞬間、ボクとランスお父さんの気持ちは一つだったに違いない。

 基本的にクリアお母さんってチョロインみたいだ。

 そんなやり取りを続けながら森を抜けると、ちゃんとした道に出た。

 ちゃんとした道といっても前世みたいに舗装されている訳ではない。

 土がむき出しで比較的平らになっているというだけの道だ。

 土の道には凹んでいる部分が有り、恐らく馬車が通ってできたわだちの跡なのだろう。

 その道を道なりに歩いていく。

「おでかけ♪ おでかけ♪」

 今度はボクも地面に降りてランスお父さんとクリアお母さんと手を繋いで歩いている。

 道の両側に広がる畑の青々とした絨毯を眺めながら、時折二人がやさしくボクを引っ張り上げてくれ、ボクは空中歩行を楽しんでいた。

 そうして、しばらく歩いて行くと目指す村が見えてきた。

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