76 離エン
76 離エン
ボクたちがスラクロの町を経って、2日が過ぎていた。
森や草原がゆっくりと後ろへ流れていく光景をぼんやり眺めていたり、サーベニアお姉ちゃんやティニアお姉ちゃんの膝の上でいろいろなお話、主に冒険談を聞かせてもらったりしながら過ごしている。
帰り道は今のところ、意外と穏やかだ。
空は青く、何処までも高く澄んでいて、雲一つない晴天。
道は長く続き、先は大きな道が2方向に分かれているようだ。
このまま、何事もなく無事にケスバ村まで帰ることができるといいな。
と、思っていたら。
「うーん」
突然、サーベニアお姉ちゃんが両手を組んで伸びをした。
「さてと」
「どうしたんですか、サーベニア師匠?」
何となく様子の変わったサーベニアお姉ちゃんの雰囲気に気が付いてか、クリアお母さんが問いかける。
「ランスとクリアの冒険者ギルドへの異動手続きも済んだし、ラドンツのギルドマスターに報告に帰らないと、と思ってね」
「サーベニア師匠、特に正式な依頼ではなかったのでしょ?」
「まあ、そうなんだけどね」
「それなのに、報告に帰るなんて、サーベニア師匠にしてはきちんとしてますね」
「もう、失礼ねクリアちゃんは」
サーベニアお姉ちゃんが両頬を膨らませて抗議の声を上げる。
エルフの見た目と相まって、かわいらしいと思ってしまうのだが、黙っておこう。
「その辺の信用は全くありませんから」
それをクリアお母さんはそんなことは意に介さずといった様子で話を続ける。
「それよりも、今頃、ラドンツの町で店番を任されているエティスちゃんが泣いていますよ。きっと」
そういえば、サーベニアお姉ちゃんはいくつかの町で雑貨とか魔道具とかを扱うお店をやっていて、その一つを冒険者の知り合いに店番させてきたみたいなことを言ってたっけか。
……結構ひどい話のようにも聞こえるけど。
いいのかそれで?
しばらく一緒に生活していたけど、やり手なのか、ずさんなのか、よくわからない人だな。
サーベニアお姉ちゃんは見えていた二股の道に近づいていくと、手前辺りで、動いている馬車から、軽い足取りで飛び降りた。
流石と思うが、同時に良い子は真似しちゃダメだからねとも思う。
元々、最初にうちに来た時からサーベニアお姉ちゃんは大した荷物を持っていた様子はなく、軽装だった記憶がある。
前に少しだけ聞いてみたが、流石というべきか、森と共に生きるエルフ族はたいていのことは森でなんとかできるらしい。
そのため、通常の旅では大した荷物は必要ないということだそうだ。
「ティニアちゃん、セイルくんを頼んだわよ」
「あっ、はい!」
いきなりの別れに、とっさには理解が追い付いていないようなティニアお姉ちゃんが緊張したような声で答える。
ほかの大人を見れば、サーベニアお姉ちゃんの行動に慣れているのか、慌てた様子もなく見ている。
「それじゃあね」
そういうと、ボクたちが向かおうとしている道とは別のもう一方の道を走り出した。
ルーの飛び跳ね走行にもついてきた脚で、走っていく。
流石はAランク冒険者というべきだろうか?
すぐに姿が見えなくなっていった。
風のように現れて、風のように去っていったな。
自由だなあ、サーベニアお姉ちゃんは。
「あっ、しまった!」
ボクがそんなことを考えていると、クリアお母さんが何かに気づいたように叫んだ。
「どうしたの? クリアお母さん」
「倉庫整理、逃げられた」
「あっ!」
そういえば、この旅から帰ったら、エストグィーナスお姉ちゃんの地下遺跡に置いてあるサーベニアお姉ちゃんの膨大な荷物の倉庫整理をするってことになっていたっけ。
……あれは逃げ足だったのか。




