74 躓く石もエンの端
74 躓く石もエンの端
「ふむ、それじゃあ、こうしよう。しばらくあの二人をギルドマスター預かりとして、私が面倒を見よう。その後、適性があると判断したらFランクからだが、冒険者として再度、資格を与えるというのでどうだろう? ちょうどセイルに渡す褒章をどうするか考えていたところだし、まさか幼児だからといって、褒章を渡さないわけにもいかなかったし、希望を叶える、これをもって褒章としていいかな?」
「うん、ボクはそれでいいよ」
悪くない提案だと思う。
3才児が魔物退治に参加したなんてのも異例だし、冒険者資格も持っていない。
そもそも、冒険者資格を取れる年齢ではない。
当たり前だとは思うけど。
大人と同じようにお金で払うというのもないではないが、そのための決済は必要だろう。
そのための理由が、アレすぎて、ギルドマスターのアトフィスさんが誤魔化すのにも頭を悩ませそうである。
こちらが、気を使ってあげる必要はないのかもしれないけれど、どうも、前世、社会人経験のあるボクとしてはその辺のわずらわしさを慮ってしまう。
なら、特にほしいというものもないし、希望をかなえてもらうというのは妥当な線だと考える。
できた3才児でしょ?
どやー! (幼児的ドヤ顔)
「反対! 反対! はんたーい!」
折角(せっかく、まとまりかけていた話に横槍が入ってしまった。
ティニアお姉ちゃんだ。
ある程度は予測していたけど、結構、顔を真っ赤にして怒っている。
先ほど、横槍と言ってしまったが、ティニアお姉ちゃんは完全な関係者だ。
そりゃあ、自分が依頼を受けて、一度は冒険者の資格の見極めをして剥奪したものを、そう簡単に戻すなんて話、ティニアお姉ちゃんには受け入れ難いことだよな。
ティニアお姉ちゃんからすれば、もっともな意見だろう。
仕方のないことなんだけど。
「セイルくんの功績が、あんな奴等のために使われるなんて反対よ」
あれっ? 自分のことじゃないの?
ボクのことのために怒ってくれているんだ。
なんだかくすぐったい感じがする。
でも、3才児のボクが、冒険者ギルドのギルド員でもないのに、冒険者ギルドから褒章を貰うのもおかしな話だし。
妥当なところだと思うんだけどな。
それに、あの二人、一度もったいないと思ってしまったし。
しょうがない。
「ダメェ?」
ボクは目をウルウルさせながら、ティニアお姉ちゃんを見上げるようにしてみてみる。
「うっ! でも……だって……」
これはいけるかも。
ウルウル
「そんな……」
もう一押しかな。
ウルウル
「しょ、しょうがないわね。セイルくんの望みだからなんだからね」
やった。
今日、何回目かの、
どやー! (幼児的ドヤ顔)
大盤振る舞いだね。
それにしても、ティニアお姉ちゃんはなんか、ツンデレっぽい発言になっているけど。
まっ、いっか。
折角だから早いとこ、アンザスさんとダニエルさんに吉報を知らせてあげるとしますか。
ボクは壁の上から身を乗り出してアンザスさんとダニエルさんの方を見やる。
何気に、さりげなくカンガーゴイルのルーがボクが身を乗り出し過ぎて落ちないいようにと背中を抑えてくれている。
優しいね。
「お~い! アンザスおじちゃん~! ダニエルおじちゃん~!」
ボクは町の壁の上から、アンザスさんとダニエルさん、二人のおじちゃんたちに向かって思いっきり手を振りながら叫んだ。
それをアンザスさんとダニエルさんは二人そろって、配給のお椀片手にポカンとした表情で見上げていた。




