73 エンの切れ目は子で繋ぐ
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「それにしてもサーベニア」
ボクがサーベニアお姉ちゃんとティニアお姉ちゃんに、膝枕クッションをされていたのを、羨ましそうに指を咥えて見ていた、このスラクロの町の冒険者ギルドのギルドマスターのアトフィスさんが、急に真顔になった。
いや、本当に。
少し前までは指を咥えて目の前を右へ左へウロウロ行ったり来たりしていたからね。
「なにかしら?」
「その精霊、サーベニアの契約精霊に見せかけているけど、実はセイルの契約精霊でしょ?」
ギクリ!
鋭い
サーベニアお姉ちゃんの後ろに控えるように立って、ボクを見ているカンガーゴイルのルーを見る。
「よくわかったわね。流石と言っておくべきかしら」
サーベニアお姉ちゃんも隠す気がないようで、誤魔化しもせず、あっさりと肯定してみせた。
「お褒めに預かり恐悦至極」
右手を左胸あたりにあて一礼をするアトフィスさん。
肌の色は変わっているけど、なまじ優男風な容姿をしているので、妙に様になってる。
相変わらず、とぼけたしぐさをして見せるアトフィスさん。
食えないタイプの人だな。
イメージの魔人族というべきだろうか?
ティニアさんを見れば、目を丸くして驚いた表情を浮かべてボクを見ている。
「えっ! セイルくんの……精霊」
多分、こっちが普通の反応なのだろう。
「まあ、幼児が中位級の精霊と契約しているなんて知れたら、かなり大事になるもんね」
ねえ、冒険者ギルドのギルドマスターにばれた時点で、十分マズいんじゃないの?
僕が不安な感じでサーベニアお姉ちゃんを見つめると、サーベニアお姉ちゃんはボクに向かって優しく微笑んだ。
「大丈夫よ。こんなだけど、信用はできるから」
ボクの心配事はお見通しといわんばかりに、サーベニアお姉ちゃんはボクの頭を撫でながら言う。
「こんなだけどは心外だなあ。セイル、心配しなくていいよ。秘密にしておくから」
こっちはいい笑顔で言ってくる。
「それからサーベニア」
「何かしら?」
「何気にこっそりレイピア抜こうとしないでくれるかな。これでもこの町のギルドマスターなんだから。何かあったら大変なことになるんだよ」
サーベニアお姉ちゃん。
レイピア抜いて何しようとしてたの!?
ボクは見なかったことにしようかなと、視線を外す。
ボクたちのいる町の壁の下、ちょっとした広場になっている所を見下ろせば、戻ってきていた冒険者達が、思い思いに休んでいる。
労いの炊き出しが行なわれているようで、冒険者ギルドの受付嬢たちが、スープらしきものを配っていた。
その中に、ボクの知っているシャロンさんの姿もある。
「んっ?」
あれはアンザスさんとダニエルさん。
端っこの方で、居辛そうにお椀を手に、小さく丸まるようにしている二人の姿を見つけた。
……。
「ねえ、アトフィスさん」
「んっ、何だいセイル」
「ちょっと、お願いがあるんですけど」
「今回の功労者のお願いか。これは聞いてあげないとだめだね」
まだ何も言ってないんだけど、子どもの言うことだと思って、高を括っているのかな?
まあ、無理難題を言うつもりもないけど。
でも、ちょっとは困るかな?
「あのね。あそこにいるアンザスさんとダニエルさんを、冒険者に戻してあげてほしいの」
「セイルくん!?」
直接聞いたアトフィスさんより、近くで聞いていたティニアお姉ちゃんの方が驚いている。
まあ、そりゃあそうだよね。
でも、アンザスさんとダニエルさん。
選択肢、あるいは出会いを間違えていなければ、きっと良い冒険者になれていたと思うんだ。
そして、それはまだ間に合うと思う。
「あの二人を……確かに冒険者資格を失っていたにもかかわらず、スラクロの町のために知らせにきて、危険も顧みず、モンスタースタンピードに向かっていったことは称賛されるべきことだけど、一度剥奪した冒険者資格を短期間でそう簡単に回復させるのは……うーん」
冒険者ギルドのギルドマスターであるアトフィスさんが両腕を組んで考え込んでしまった。
やっぱり、無理かな。




