72 余エン
72 余エン
うーん、ムニャムニャ。
『フフッ、いつ見ても寝顔、可愛いね』
遠くで声が聞こえる。
『そうよね。見てて飽きないもの』
頭をなでられている感覚がする。
『あっ、わかりますそれ』
聞き覚えのある声だ。
そして、段々と意識がはっきりしていく。
ゆっくりと目が覚めてきた。
瞼を静かに開けると光が入ってくる。
天井は……抜けるような青空だ。
それと、ティニアお姉ちゃん。
白い障害物の向こうからティニアお姉ちゃんが覗き込んでいるように見える。
それとこの背中の柔らかい感じ。
どういう状況だコレ?
なんか感覚的には覚えがある。
……?
……!
そうか!
膝枕クッションだ。
旅に出ている間はエストグィーナスお姉ちゃんもいなかったし、そんな機会もなかったので久々な感じだけど、間違いないね。
足の方を見れば、やっぱり、サーベニアお姉ちゃんがティニアお姉ちゃんと並んで座っていて、ボクを太腿に乗せている形になっているようだ。
「あっ、起きた!」
ティニアお姉ちゃんが、ボクが目を覚ましたことに気が付いて、パッと笑顔を見せて嬉しそうな声を上げる。
「おはよう。ティニアお姉ちゃん、サーベニアお姉ちゃん。ここは?」
ちょっと「おはよう」は場違いかな?
まあ、いいや。
「さっき登ってた町の外壁の上よ」
サーベニアお姉ちゃんが応えてくれた。
さっきということはボクが寝落ちしてからそれほど時間は経っていないようだ。
ティニアお姉ちゃんが名残惜しそうにしているけど、僕は起き上がって、キョロキョロと周りを見渡す。
確かに、さっきルーに乗って跳び上った町の外壁の上のようだ。
それにしても。
「クリアお母さんとランスお父さんは?」
「クリアはセイルくんをわたしたちに預けて、ランスを出迎えに下の門に行ったわよ」
ふーん、仲良きことは美しきかな、だね。
「わたしたちは町の守備隊が来たから、一旦退いて態勢の整え直しってとこね。まあ、モンスタースタンピードの規模も、それほど大きくなかったし、最初であらかた片づけたから、あとは守備隊だけでなんとかなるでしょ。わたしたちはここからもしものための見守りってとこね。
で、さっきから、こっちを羨ましそうに見つめながら、右へ左へウロウロしている不審人物がいるんだけど。
「いいなあ、自分もやってほしいなあ」
確かこの町、スラクロの冒険者ギルドのギルドマスターのアトフィスさんだったっけ? が、これまた羨ましそうな声をあげている。
というか、よく思い出してみたら、そんな呑気な(のんきな)こと言っていて良い状況なのか?
アンタ、全体の指揮を執らないといけないんじゃないのかい?
「ほら、アトフィス、うっとおしいから、さっさと仕事しなさいな」
ほら、サーベニアお姉ちゃんに怒られた。
「それなら大丈夫。抑えの役割は果たしたし、町中に被害もない。それに君たちのおかげで大分数は減らせてたし、後は領主様の正規兵が出てきたから、任せればいいでしょ。あんまりギルドが活躍しすぎると後で睨まれるしね。冒険者ギルドのギルド員たちの撤収は済んでるよ」
「もう、相変わらずね」
「お褒めに預かり恐悦至極」
「今の、何処を誉めたのかしら?」
「あははははっ、さあ?」
基本的にアトフィスさんは軽い魔人族なのかな?
前世のゲームとか小説のイメージだと、魔人族みたいなタイプは粗暴な感じが多いけど、この世界では違うみたい。
まあ、そうじゃないゲームや小説のキャラもいるけどさ。
もちろん、いろいろなタイプがいるのであろうことはわかってはいるけど。
「それにしても」
んっ?
「いいなあ、自分も膝枕、やってほしいなあ」
……。




