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7 エンと月日は末を待て

7 エン()と月日は末を待て


 本物の魔法をクリアお母さんに間近で見せてもらってから数か月。

 ボクは1歳を迎えていた。

 誕生日パーティーとまではいかないまでも、クリアお母さんとランスお父さんはちょっとした御馳走を作ってくれて祝ってくれた。やっぱり、まだボクは柔らかい物しか食べれないけど……。

 それにしても、うちって部屋の中や家の作りを見る限り、裕福な上流家庭と言う訳ではない様だが、こうやって時折豪華とは言えないけど御馳走らしきものも作ってお祝いっぽいこともしているし、どうやら食べるのには困らない程度の生活水準は有るみたいで、一先ずは一安心だ。

 実際この家って、森の中に一軒だけひっそりと建っている感じでちょっと不安だったんだよね。

 少し行った所に村があるみたいだけど。

 時折訪れて来る人はいるみたいだし、全くどこともかかわらずひっそり暮らしているという訳でもなさそうだ。

 そして、なんと!

 ついに!

 歩けるようになりました!

 どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔)

 ……。

 ……。

 ……。

 またそれか、と言う言葉が何処からともなく飛んできそうだけど、赤ちゃんにとっては大いなる一歩なんだよ!

 行動力の上昇。

 行動範囲の拡大。

 大幅な情報収集能力の向上。

 情報収集量の増大。

 どうよ。これだけでも赤ちゃんの未来は希望に満ち満ちているだろう。

 いやあ、実はさ、何で歩けるようになったかというと、這い這いが出来る様になっていたので、しょっちゅう隠れて密かに杖を触ろうとしてたんだけど、バレて咄嗟に逃げ出そうとしたときにね……。

 おかげで誤魔化せて怒られずに済んだし……。

 どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔)

……。

 何で杖に触ろうとしてたかと言うと、この前魔法の光と杖を触らせてもらった時に、何かが手に触れている感覚と集まって来る感覚があって、もしかしたらボクにも魔法が使えるようになるんじゃ無いかと思ってさ。

 自分で修行してみようかと思ったんだ。

 そして、魔法を見せてもらってから、ボクの次の日からの日課が増えたってわけ。

 えっと、剣にも触ってみたいけどさ、この前ランスお父さんが怒られていたのをみて、下手に触ると杖にも触れなくなるのを警戒して控えることにした。

 ここはとにかく慎重に事を進めるべきと考えてのことである。

 そうして、この前杖を触った時に感じた感覚を思い出して魔力を感じる練習をし始めたんだけどさ。

 けど、今一うまく行かないんだよね。

 ラノベとかだとイメージを強く持てばとか原理を知っていればとか書いてあったが、いざ自分でやってみると、どうにも思う様に魔力が扱えている様には感じられなかったんだよね。

 そこでもう一度杖に触ってみる事にしたところ、何かが身体を流れる感覚がしたんだ。

 要は出来るようになるためには補助してくれる道具があった方がやりやすいという事なのだろう。

 子供の時、自転車に乗れるようになる為に、まずは補助輪付の自転車で練習していくあの感じかな?

 慣れて来れば、杖無しでも練習できるようになるのかもしれない。

 それからは毎日、前に杖を触った時感じた感覚を反復するのが良いのではないかと考え、クリアお母さんの隙を見ては杖に触れて意識を集中する練習をし、それ以外の時はその感覚を思い出しつつイメージトレーニングにいそしむ様にしている。

 その成果が実ってか、今ではほんの少しだけだけど、杖無しでも手に魔力らしき感覚を集める事が出来るようになってきた……と思う。

 決して「我が封印されし左手に力が!」とか、そう言う話では無い……と思いたい。

 まあ兎に角、杖無しでも魔力らしきものの感覚が意識できるようになったので、次の段階として、ベットでこの魔力らしきものを意識し持続する事を続けて魔力枯渇を狙い、上限値を上げるというやつをやってみようと思う。

 幸い、赤ちゃんなら日がな一日寝たり起きたりを繰り返しても、何の問題もないし。

 もちろん、ネットスーパーの一日一回のダブルアップチャンスのミニゲームも欠かさずやっている。

 現在はこんな感じ。


   *   *   *


   『現在の獲得ポイント』


     458 ポイント


   《OK》


   *   *   *


 まあ、順調と言えば順調と言える。

 他にわかったこととしてこの世界の一年の考え方だ。

 まず1週間は光・闇・火・水・風・土・無の七日で多少並びに違和感が有る物の概ね、前世に似ている。

 そして4週間で1か月。つまり1ヶ月は28日。

 これが12ヶ月で1年となる。つまり、1年は336日という事になる訳だ。

これを元に1日1ポイントずつ地道に貯めた場合、送料無料の5000ポイントになるまでどのくらいかかるかを計算しなおしてみると、

 え~っと、

 ……。

 ……。

 ……。

 あっ、暗算が。

 336なんて、暗算がめんどくさ過ぎる……

 14年と、10ヵ月と、16日……で、合ってる、よね。

 はあ、先は長いなあ。あの薄紫髪ツインテール少女神、もう少し何かやってくれないかなあ。

 と言う訳で、今は考えてもどうにもなりそうも無いので、この能力以外の事も今のうちに伸ばしておこうと鋭意努力中。

 それで気づいたことが有るんだけど、今まで意識していなかったけど、このネットスーパーの能力を使うときもほんのわずかではあるが魔力らしきものを使っているという事が分かった。

 逆に言えば、おそらく本来なら魔力の感じ方とか、どこかで誰かに教えてもらわなければ意識できないであろうものを、教えてもらわなくても意識できたのは、ボクに意識せずとも魔力らしきものを使う手段が有り、日々使っていた賜物だったのかもしれない。

 多分、何処かの魔術師に弟子入りしたり学校に通ったりして学ぶのが普通なんだろう。

 そして、恐らくはこの魔力らしきものを感じるのが修行の第一関門になるのだろうが、意図せず魔力らしき……もう魔力でいいや。意図せず魔力を意識する為の基礎訓練が出来ていたことになる訳だな。そう考えると、あの薄紫髪ツインテール少女神のパスティエルに感謝……何か、複雑だ。

 ともあれ、継続は力なり! 継続は魔力なり!

 何かこう考えると、自分でも地道が一番と言っておきながらだけど、本当に地道で地味なもんばかりだなあ。

 そんな事を続けて早半年。

 自分でもちょっとは魔力の上限値が上がってきて魔力が貯まって来たんじゃないかと思えるようになってきた。

 あくまで自分の感覚的なものだけど。

 そんな訳で次の段階に進んでみたいと思う。

 次の段階、それは、

 魔法を使ってみる事だ!

 どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔)

 ……。

 具体的にはと言うと、杖を握りながら呪文を詠唱してみようと思う。

 と言う訳でミッションスタート!

 今現在、ランスお父さんは家の裏で薪割り中でさっきから家の外から木を斧で割る小気味よい音が響いている。

 クリアお母さんは台所で家庭菜園で朝摘あさづみした野菜を洗って料理の下ごしらえおしているようだ。

 今がチャンスだ!

 抜き足。

 ヨチ。

 差し足。

 ヨチヨチ。

 忍び足。

 ヨチヨチヨチ。

 よしよし、気付かれずに杖の所までたどり着くことが出来た。

 杖を握り、呪文を唱えればミッションコンプリートだ。

 ボクの知っている魔法の呪文は前にクリアお母さんが見せてくれた『ライトボール』の魔法の呪文だけだ。

 幸い、赤ちゃんに触らせられるくらいなのだから、危険な呪文じゃないらしいし、万一失敗したとしても問題はなさそうだ。なのでこの呪文で試して見ることにする。

 最初だし、できるとは思えないけど、やってみて損も無さそうだし。

 よしっ!

 やるか!

 クリアお母さんが唱えていた呪文を思い出してみる。

 確か、こうだったよな。

「我が手に集いて光と成れ。ライトボール」

 呪文と共にクリアお母さんが発動した魔法を自分なりにイメージしてみる。

 すると、掲げていた杖を握っている反対の手の掌から、淡い光の粒子が立ち昇り、小さな光の球体を作り出していった。

「おおっ!」

 思わず大きな声が出る。

 出来た出来た!

 ずっと地道にイメージトレーニングをした甲斐があったというものだ。

 とは言え、クリアお母さんが出してくれた光の玉に比べればかなり小さいものだけど、それでも出来た事に変わりは無い。

 正直、一発で出来るようになるとは思わなかった。

 そりゃ、この数か月間、魔力を練る事とイメージトレーニングは欠かさずし続けて来たけど、こういうのは大概一発目は不発で終わるのが実際だと思っていたから。

 よし、じゃあ次はこの光の玉をもっと大きくしてみようか。

 ボクは更に左手に集中して魔力を込めていく。

  そうすると、すこしずつではあるけど、光の球体が徐々に大きくなっていくのが感じられる。

 と、

「はれえ?」

 まずい! 一気に魔力が持って行かれた。

 頭がクラクラする。

 足がフラフラする。

 まずい、やり過ぎた!

 下限を間違えた。

 このままだと気を失う。

 早くベットに戻らなきゃ。

 でもこういう時、下手に歩いちゃいけないんだったっけ?

 その場に座り込んだ方が安全だったっけ?

 でも、バレるのもマズいし……。

 思考がグルグルと頭の中を交錯する。

 それでも無意識にかベットの方に身体が動いていた。

 だけども、ボクは数歩歩いたところで足を取られ前につんのめってしまった。


 ドターン!


「どうしたのセイルくん、今の音は? 転んじゃった? って!!! セイルくん! あなた! あなた来て!」

 クリアお母さんの悲鳴にも似た甲高い声が聞こえて来る。

「どうした慌てて? って、セイル! 何があった!」

 続いてランスお父さんが外から家に入ってくる気配がした。

「……こ……ろんだ」

 ボクは一先ずこの場を取り繕うために、その言葉を発するのが精一杯だった。

「転んだって、顔が真っ青じゃない!」

「きゅうぅぅ」

「!!! おいっ、セイル!」

「セイルくん!」

 そしてボクはそんな両親の声を聞きながら、目を回し、ゆっくりと気が遠くなっていくのを感じていた。

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