66 エン隔と対面
66 エン隔と対面
スラクロの町にいる間に聞いた話だと、スラクロの町を囲む石造りの防壁の壁の上は昔、この辺りが戦場で、弓兵を配置できるように作られているのであろう、ちょっとした通路になっているとのことだったので、ルーに乗っていても楽に着地することが出来た。
そこから、ぐるりと町の外を見渡す。
こっちの門の外もボクたちが入ってきた反対側の門と同じように、周りは畑や草原が広がっており、その向こうに森があり、近場の見晴らしは良くなっている。
この辺は町づくりの面からという点もあるのかもしれないが、過去の戦の備えの名残りでもあるのかもしれない。
さらに言えば、冬場だから余計、見晴らしはいい。
その平地と森の境辺りから、今まさに魔物が続々と出てこようとしている光景が目に映る。
あれはデビルロブスターかな
この距離だとザリガニみたいにしか見えないけど。
あとはたぶんあれはコボルトとかゴブリンとかいうヤツだよね。
ほかにもいろいろいそうだけど。
丁度、そのタイミングで街の中央辺りから、けたたましく鐘を叩き鳴らす音が聞こえてきた。
「かなり多いわね」
「そうですね。セイルくんは怖くないの?」
「こんなにたくさんじゃないけど、前にもケスバ村で魔物がたくさん来たことがあったから、」
「そうなんだ。勇気があるね」
そう言うとティニアさんはボクの頭を撫でてくれた。
「これは間違いなくダンジョンスタンピードね」
ダンジョンスタンピード?
ああ、前世、入院中に、妹双子姉妹が病室に持ってきてくれていたラノベでちょくちょく出てきた言葉だ。
確か、何らかの原因でダンジョンから魔物の大発生する現象だったよね。
って大事じゃん!
「サーベニアお姉ちゃん、ティニアおねえちゃん、これって、大変な……」
ボクが慌てて二人のお姉ちゃんの方を向いた時、サーベニアお姉ちゃんの隣りに知らない人が経っているのに気付いた。
「やあ、サーベニア、久しぶり」
誰!?
いつの間にかボクたちの隣りに現れたけど、全然気付かなかった。
「あら、アトフィス、遅かったわね」
サーベニアお姉ちゃんは気付いていたみたい。
慌ててないし、どうやら知り合いみたいだ。
でも、この人? 顔が優男風だけど、肌が緑色がかっていて、人族じゃないよね。
よく見ると耳の後ろに角らしきものが生えているように見えるし。
……飾りじゃないよね。
「酷いなあ。これでも、ラドンツの領主様の遣いから知らせを聞いて、書類をほっぽり出して急いで来たんだから」
「嬉々として書類をほっぽり出す姿が目に浮かぶわね」
「それはお互い様だろうに」
「サーベニアお姉ちゃん、誰?」
「ああ、そういえば、初めてだったわね。このスラクロの冒険者ギルドのギルドマスターでアトフィスよ。見ての通り魔人族よ。こっちの子はセイル、それとカンガーゴイルのルーよ」
魔人族は過去、大きな大戦で人族(人族)や獣人族(獣人族)と戦争をしていたことがある。
実際には今も戦争をしている地域もあるが、逆にそれなりに仲良く溶け込んでいる地域もある。
この辺り、ツーポス王国は後者の地域だ。
まあ、前世の世界も同じ人間同士で仲良かったり戦争したりしていたから、同じようなものだね。
「サーベニアの子?」
「違うわよ! わたしはセイルくんのお姉ちゃん!」
「はあ?」
「初めまして、ギルドマスター。あたしもセイルくんのお姉ちゃんでティニアと言います」
「はあ?? ……まあいいや。そちらの可愛らしい狼人族のお嬢さん、これが終わったら一緒にお食事でもいかがですか?」
「えっ? あたし?」
微妙に、お約束っぽいフラグを立ててるような気もするけど、スラクロの町の冒険者ギルドのギルドマスターっていうくらいなんだから、実力は大丈夫だよね。
それに、魔人族と言うくらいだから、生命力も高いんだろうし。
それで、ティニアお姉ちゃんが、ナンパされて戸惑っている最中、この塀の上に来るためのちゃんとした入り口から人が現れた。
「こらっ! お前等っ! 勝手にこんなところに入り込むんじゃない!」
「ああっ、ご苦労さん。いいのいいの、この美女はAランク冒険者だから」
「こっ、これは冒険者ギルドのギルドマスター。ですが……」
「今は緊急事態でしょ。それに領主さんからうちに伝令も来ているから、問題ないよ」
「そっ、それなら良いのですが」
「ほら応援も連れてきたから、少しの間だけ門を開けてくれないかな。領主様の兵も直来るはずだから」
「はっ!」
警備の兵士さんはきっちりと敬礼をすると、急いで地上へと向かうべく出入口へと走っていった。
その間もアトフィスさんはしっかりとティニアお姉ちゃんの手を握っている。
「こらアトフィス、なに戦い前に女の子を口説いてるのよ。少しはギルドマスターとして緊張感を持ちなさいな」
「サーベニアには言われたくないなあ。それだけの実力を持ちながら、ギルドの重職にも付かず、世界中をフラフラして、趣味を満喫してるくせに」
二人が言い争っているところに、丁度クリアお母さんが息を切らせてさっきの警備の兵士さんが来た入り口から現れた。
「はあ、はあ、はあ、はあ。……やっと……追い付いた……」
息も絶え絶えといった感じだけど、何となくいい感じなんだよね。
「これはお美しいお嬢さん。息を切らせている姿も艶やかですね。あちらで一緒に休憩がてら、お話でもいかがですか?」
そう思っていたら、アトフィスさんが、いつの間にかクリアお母さんの後ろから両肩に手を添えて覗き込むように見つめて声をかけていた。
物凄い早業とさり気なさだ!
「お誘いは嬉しいのですけど、私あいにくと、人妻なもので」
でも、流石はクリアお母さん。
あっさりと素っ気なくあしらっている。
それにしても。
大丈夫なのか、スラクロのギルド?




