64 エン言 (えんげん)
64 エン言 (えんげん)
魔物が出たって?
この前もそういって冒険者ギルドに飛び込んできたけど、あれはルーに入っていたボクがやったことだし。
悪いことしようとしていたのはこの人たちだしね。
そう何度も似たようなことが続くもんかね?
狼少女はここにいるし、狼中年は間に合ってるんだけどなあ。
周りの冒険者達もこの前の噂を知っているのか、大半は冷ややかな感じの反応を見せている。
「あんた達の言っていることなんて信じられるわけないでしょ!」
狼少女……もとい、ティニアお姉ちゃんがキッと目を吊り上げて言いながら、前に出る。
やっぱりな。
そりゃあ、こういう反応になるか。
まあ、ティニアお姉ちゃんからすれば、仕方のないことだよね。
文字通り、『前科』があるわけだし。
そこの元リーダーにお尻も触られているみたいだから、恨み言の一つや二つはあって当然か。
「あの時は悪かった。けどよ。今回のは嘘じゃねえって! 信じてくれよ」
前回のも、見ようによっては間違えでもないんだけどね。
「大体、冒険者資格を剥奪されたあんた達が、何で冒険者ギルドに駆け込んできて、そんな重要な事報告しているのよ。普通なら、門の警備兵に伝えるのが先でしょうが」
すぐに信じてもらえないのは自業自得というものだよ。
「そんなもん、もう伝えてきてある! 俺たちふたりは冒険者資格を失ってから、他の三人とは意見の対立で別れて、同郷のコイツと田舎に帰って養蜂でも始めようかと話し合っていたんだ。町を出てしばらくしたら新しく見つかった遺跡の方向が騒がしいことに気付いて、少し様子を見に行ってみたら、魔物がうじゃうじゃいて、まだあの辺りに群れていただけだけど、そのうちスラクロの町に押し寄せてくるかもしれないと考えて、慌てて知らせに戻ってきたんだ!」
あのロックバンドの解散理由みたいなやつね。
それにしても、へえ、思ったより、この元リーダーっていう人判断力は良いな。
「コイツ、ダニエルが冒険者(冒険者)ギルドにも早く知らせておいた方がよいって提案してきたんだよ。ここには来辛かったけど、今まで世話にもなっていたし」
それに、影の薄かった人、ダニエルさんっていうんだ。
この人も機転が利くみたいだし。
そういえば、リーダーの名前、知らないや。
二人とも真実ならそのまま急いで遠く逃げればいいのに、わざわざ知らせに戻ってくるなんて、義理堅いところはあるみたいだし。
少し、もったいないな。
まあ、リーダーはスケベみたいなところがあるみたいだけど……。
それが、何であんな連中とパーティーを組んでいたんだか。
「そんな話、信じられるもんですか」
ティニアお姉ちゃんは相変わらず腕を腰から前で組む形で、怒って警戒しているなあ。
でも。
前世の社会経験、主に保険会社の社員としての感だけど。
信じていいと思うんだ。
この人達、今回嘘は言ってないと思う。
だとすると、スラクロの町の外がかなり危険という事になる。
そうすると、出口は反対側で違うとはいえ、このままこの町を出発することもままならなくなるはずだ。
……。
「ボクは信じるよ!」
「「セイルくん!」」
皆が一斉に、大人の話にボクが首を突っ込んでここで発言したことに驚いたようで、周りの人たちも含めて一斉に視線がこっちに集まった。
「……小僧、小僧に信じてもらっても……」
そりゃあ、まあそうか。
この場で3歳児に言われても、慰めにもなりはしないよね。
じゃあ、どうしよっかな?
ああそうか!
この二人はボクがルーの中にいたことを知らないんだっけか。
「サーベニアお姉ちゃん、お願い!」
「えっ!?」
いきなり振ったんでサーベニアお姉ちゃんが呆気に取られているけど、まあいいや。
前振りは済んだし。
(ルー)
「なっ! あの時の変な魔物」
だ~か~ら、変な魔物いうな!
「サーベニアお姉ちゃんの契約精霊のルーだよ」
「契約精霊!」
「それより、時間が惜しいんでしょ? 一先ずは状況を確認した方が良いんじゃない?」
「あっ、ああ」
「……はあ、しょうがない。セイルくんが信じるなら、あたしも信じてあげるわ。あんたたち、セイルくんに感謝しなさいよね」
よし。
その場の雰囲気と流れと勢いで、場の主導権を取ったぞ。
「一先ず、状況を確認しに行こうよ!」
「ちょっ」
有無も言わさず、ボクはルーに乗って冒険者ギルドを飛び出した。




