63 エンとして
63 エンとして
ボクたちがスラクロの町に来てから3日が経とうとしていた。
あれからティニアさんはなし崩し的にボクたちと行動を共にしており、傍から見れば、もうボクたちは半ば、パーティーと化している感じに見える。
そんでもって、ボルファスおじちゃんがスニテ村への物資の調達をしている間、ボクたちは大体サーベニアお姉ちゃんの買い物に付き合わされて振り回されていることが多い。
まあ、変わった物がたくさん見れて、ボクとしては興味深かったんで楽しかったけどね。
物の相場とかも結構見れたし。
ああ、ランスお父さんはボルファスおじちゃんの手伝いをさせられていることが多かったけどね。
そして、ボクはと言えば。
テニアさんに、懐かれたというか、何というか……。
「サーベニアさんの事はサーベニアお姉ちゃんって呼んでいるんだね。いいなあ。あたしも「ティニアさん」じゃなくて「ティニアおねえちゃん」って呼んで欲しいな」
「えっ!? でもお……」
と、迫られていた。
「ティニアおねえちゃんって、呼んで欲しいなあ」
そっ、そんな、子犬が目をウルウルさせているような瞳で見つめられても……。
お姉ちゃんはもう二人いるし。
「呼んで欲しいなあ」
いや、もうエストグィーナスお姉ちゃんとサーベニアお姉ちゃんがいるし……。
お姉ちゃんは結構、間に合っているので。
「ティニア、お・ね・え・ちゃ・ん」
だから……。
「ティニアお姉さん」
「お・ね・え・ちゃ・ん」
「……ティニアお姉ちゃん」
負けました。
「は~い、よくできました!」
「うわあ!」
ティニアお姉さ……お姉ちゃんは感激した様子でボクを抱き上げて、頬に自分の頬を寄せて、スリスリしてきた。
まあ、ティニアお姉ちゃんの頬はスベスベしてて気持ちいいんだけど。
それにしても、何故だか、お姉ちゃんが増えていく。
そんなスキル、あの薄紫髪ツインテール少女神のパスティエルから与えられていないはずだが?
あの薄紫髪ツインテール少女神、うっかりそうだったしなあ。
もしかして、隠しスキルとかあるんじゃないのか?
まさか!
『ネットスーパー』のスキルに!?
……って流石にそこまではないか。
日本版のをそのまま流用したみたいな手抜きっぷりだったし。
そのおかげというか、せいというか、料金が円建てのせいで、いまだに使えないでいるし……。
隅々まで読んで、やっと糸口になりそうな来店ポイントとかミニゲームみたいなものを見つけたわけだし。
……止めよう。
これ以上考えると空しくなる。
突破口はあるんだし、あともう少しだ。
でも、このままではある程度大きくなるまでに何人のお姉ちゃんが出来ることになるやら。
前世は年の離れた双子姉妹。
今世は絶賛増殖中の疑似お姉ちゃんたち。
これも女難の相とでもいうのだろうか?
……。
嫌じゃないけど、早く、大きくなりたいな。
◇
ボルファスおじちゃんの一通りの要件を終えたので、そろそろスラクロの町を経つことになったボクたちは一応、冒険者ギルドにも出立の挨拶に来ていた。
相変わらず、入った瞬間、ボクを奇異な目で見てくる視線が幾つかあることに気付くけど気にしない。
まあ、仕方ないことだよね。
場違いだしさ。
見れば、一番近いカウンターには初めの日にいたシャロンさんが座っている。
軽く手を振ってみると、シャロンさんもにこやかに小さく手を振り返してくれた。
「あら、ティニアさん、サーベニアさんたちと行動を共にしているんですか?」
「まあね、しばらくこの子、セイルくんと一緒にいようと思って」
「そうですか。でそれで、みなさんは今日は依頼を受けに来てくれたんですか?
そうですかの営業的対応で流されてしまった。
「いいや、一通りの要件が終わったんでな。出立の挨拶をと思ってな」
ボルファスおじちゃんがカウンターまで行って話す。
「そうでしたか。できれば、これだけの高位ランクの方々が揃っているのですから、滞在中に、何か難易度の高い依頼を受けていただければと思ったのですが」
「軽く見てみたけど、今の所、差し迫って緊急の依頼というのもなさそうだけど」
サーベニアお姉ちゃんが言う。
そんな時だった。
後ろの入り口の扉の方で、大きな音がした。
「んっ!?」
振り向いてみれば、冒険者ギルドのドアが乱暴に開けられて、慌てた様子の男達が2人飛び込んできた。
入ってから一旦、荒い息を整えるためにか、手で膝を支えながら何度か大きく息をしている。
でも、何となく見覚えのある二人組だな。
あっ、!
あいつら、ティニアさんを路地裏に連れ込んで言った5人のうちの残りの2人の元冒険者だ!
確か、ティニアさんのお尻を触ったっていうリーダーと、他一名。
冒険者資格を失ったはずなのに、何で冒険者ギルドにきているんだろうか?
そんな風にボクが、連中を観察・評価していると、2人はボクたちを追い抜いていく。
そして、2人はカウンターのお姉さん、シャノンさんの所まで駆け寄っていって叫んだ。
「町の外に魔物が大量に出たんだ!!」
あれっ!? 前にもこんなシーンに似たようなのがあった気が……既視感かな??




