62 相エン
62 相エン
路地裏で絡んできた破落戸達を警備兵に突き出した後
「う~ん、スッキリしたあ。さてと、買い物の続きをしましょうか」
サーベニアお姉ちゃんが、思いっきり両手を天に伸ばし背伸びをしながら、清々しいほど晴れやかな顔で告げる。
う~ん、なんか、さっきランスお父さんが、似たような動作をしていたような。
それにしても、詳しくは語れないけど、あれだけ派手にやれば、そりゃあスッキリもするでしょうよ。
でも、やっぱり買い物の続き、行くんだね。
一旦、大通りに戻ってから、武器や防具、魔道具などの店が集まっている通りへと歩いていく。
結局は全員で買い物に行くことになった。
ルーはまた地面に戻ってもらっている。
「さあさあ、見ていらっしゃい! 外国から取り寄せた東西南北あらゆる国の防具の数々。紙装甲から神装甲まで何でも揃っているよ!」
防具屋の店員さん、防具屋の呼び込みの声にしては威勢が良くて良いのだけれども、その品揃えはどうなんだろう?
……でも、何となく興味をそそられるものがあるなあ。
まあ、呼び込みの宣伝文句何で流石に紙装甲も神装甲も実際にはないだろうけどさ。
でも、この世界では紙は貴重品では?
まあ、どっちにしても弱さとペラペラさは変わらないか。
そんなこんなで、夕暮れ近くまでサーベニアお姉ちゃんに引っ張りまわされてから、ボルファスおじちゃんの御用達の宿屋『グリフォンの羽搏き亭』にやってきた。
まあ、ボクとしてはいろいろ変わった物が見れたし、物の値段も分かったりしたので、結構ためになったし、有意義で楽しかったけどね。
前世、日本からすれば、識字率のあまり高くないこの世界、文字の読めない人の為に絵が多用されている。
この宿屋の入り口にもまさに宿屋の名前の通りグリフォンの羽搏いている絵の描かれた看板が吊り下げられていた。
なかなかにセンスが良く、格好の良いデザインだ。
宿屋の中は前世、小説で読んだイメージの通り、一階が食堂兼酒場で、2階が宿の部屋になっているオーソドックス? な宿屋になっているようである。
で、一つ疑問。
「ティニアお姉さんはどうするの?」
そう。
あれから買い物にも一緒に付いてきていたティニアさんの事である。
ここまで付いてきているのだ。
「大丈夫よ。あたしもここに宿を取ることにするから。路銀もさっきの依頼の報酬で懐に少しは余裕があるし、しばらくは問題ないわ」
「じゃあ、一先ずは部屋に荷物を置いて夕飯にするとしますか。ここの飯はなかなかだぞ」
「おっ、そりゃあ、期待してもいいんだな」
◇
「えええっ! 部屋が空いてないのお!」
「申し訳ないね。ダンジョンが発見されてから、結構冒険者が増えてきていてね。他の宿も含めて同じようなもんで、かなり賑わ(にぎわ)っている感じだね。常連や馴染みならなんとかなるかもしれないけど、日中に押さえておかないと、今からじゃ空きを探すのも難しいんじゃないかね?」
宿屋の亭主が、本当に申し訳なさそうにティニアお姉さんに告げる。
「そんなあ」
ティニアお姉さんが、情けないような表情と声を漏らしてカウンターに突っ伏した。
「はあ、昨日の宿屋も一日しか開いてない所を頼み込んで泊めてもらったから、今日はもう無理だと思うし。今から空き宿を探すのも大変だし、こりゃあ、野宿しかないかな」
大きく溜め息を付いて、がっくりと肩を落としている。
ほんと、この娘、コロコロと表情が変わるなあ。
「ティニアさん、2人部屋だけど、良ければわたしたちの部屋に一緒に泊まる?」
そこにクリアお母さんが声をかけた。
「えっ!?」
「女の子が街の片隅で一人で野宿だなんて、さっきみたいな男連中がいるのに危ないし」
「でも、いいんですか?」
「亭主さん、料金は3人分ちゃんと払いますので、かまいませんか?」
すかさずクリアお母さんが、宿屋の亭主に確認を取る。
「うむ、ボルファスさんの連れだし、お嬢さん方がそれでいいというなら、こっちは払ってくれるものを払ってさえくれれば、構わないがね」
「もちろんよ」
サーベニアお姉ちゃんも軽くウインクをして応える。
「クリアさん、サーベニアさん、ありがとうございます」
ティニアお姉さんは思いっきり勢い良く深々と頭を下げた。
「セイルくんも一緒だね♪」
ティニアさんが頭を上げて嬉しそうに言う。
「ボクは男の子だから、ランスお父さんたちの部屋だよ」
「えっ、そんなあ」
いや、そんな悲しそうな顔をされても。
幼児だからと言って、大体僕が、女性陣の部屋に泊まったら2人部屋と4人部屋になってバランスが悪いでしょうに。
……。
結局、ティニアさんの押しに負けて、ボクは女性陣の部屋で朝まで、ティニアさんの抱き枕になったとさ。
めでたし、めでたし……か?




