61 エン着
61 エン着
ボクとサーベニアお姉ちゃんとティニアさんが、路地の奥で破落戸の集団に絡まれている。
相手はどいつもこいつも、女子供に20人くらいでかかれば、何とでもなるというような表情で、余裕綽々な表情をしている奴らばかりだ。
予想通りの展開と状況だけど、物凄~く、感じが悪い!
で、そんな奴らがボクたちに襲い掛かろうとしている矢先に、その更に後ろ、入ってきた路地の方から、あらかじめ簡単に打ち合わせをしておいたクリアお母さんとランスお父さんとボルファスおじちゃんが現れた。
ちなみに何でこんな地元の連中しか分からないような入り組んだ路地裏にクリアお母さんたちが後から時間差で合流できたかというと、からくりは単純で、クリアお母さんが抱っこしているミニサイズのルーのおかげである。
ルーはボクと繋がっているためボクの位置が分かるらしい。
「らしい」というのは直接聞いたわけではなく、土の上位精霊であるエストグィーナスお姉ちゃんが教えてくれたからだ。
ボク自身は近くにいれば感じることは出来るんだけど、離れてしまうと分からなくなるので、まあ、そうなんだとくらいに思っている。
「怯むな! 増えても男は二人だけだ。しかも女はどれも上玉と来てる。数で押せば問題ない!」
「小僧を人質に取ってしまえば、身動きも取れないだろうよ」
その言葉を聞いて赤ずきんちゃん、ティニアさんがボクをティニアさんの後ろへと庇うように構えて立つ。
本当、良い子だなあ。
こんな幼児に、そんな風に思われているとは思わないだろうけど。
それにしても。
ほうほう。
ボクがこの場の弱点だと。
その判断は間違ってはいないけどね。
でもね。
(ルー、おいで)
ボクは心の中で語り掛ける。
すると、ルーはそっとクリアお母さんの抱っこしていた腕の中から抜け出して地面へと溶け込んでいった。
そして、ティニアさんの横にいつもの大きさで現れると、僕をいつものように袋の中に乗せてくれた。
これには破落戸達も驚いたようだ。
「なんだあれは!」
「おい、ジック、こんなの聞いてねえぞ」
「ばかな! エルフの女は何もした様子はなかったぞ!」
そりゃあそうだよ。
ルーと繋がっているのはボクだからね。
「怯むんじゃあねえ! 数で攻めて、あのエルフの姉ちゃんを抑え込んじまえば、あの変なのも消えちまうに違いない!」
だ~か~ら、変なの言うな!
それから、その考えはハズレ。
それにしても、さっきからサーベニアお姉ちゃんが静かだな。
ここにおびき寄せて、破落戸に出てくるように声をかけてからは全くもって動きがない。
Aランク冒険者であるサーベニアお姉ちゃんが、わざわざ相手をするまでもない奴らってことなんだろうか?
う~ん。
それじゃあ、サーベニアお姉ちゃんの代わりに、ボクが動くとしますかね。
「行くよルー!」
ボクとルーは跳ね上がり、ちょうど破落戸達の中央辺りに着地しようとする。
「おわっ!」
「ひっ!」
そのあたりにいた男達が慌ててその場からヘッドスライディングよろしく飛び退く。
おうおう、なかなか良い反応だ。
「ルー、ローリングテイル!」
着地と同時に、すかさずルーがグルリと一回転する。
それに合わせて、ルーのしっぽも一回転することになる。
ちなみに技の名前はボクが付けた。
「どわっ!」
「うぎゃああ!」
「ぐげっ!」
ちょっとした広場とはいえ、この狭い路地でルーが一回転すれば、そこそこ長い範囲が射程内に収まることになる。
まあ、足払いするように低い位置で回転させるように伝えたから
ベキッ!
「足が!」
後で青たんになるくらいだと思うけど、
ボキッ!
「いてえ!」
まっ、まあ、多少は打ち身とか、打撲とかになるかもだけど。
バキッ!
「ぐあああ! 足が、足の骨が折れた!」
……やりすぎたかな?
考えれば、ルーは石造りだもんね。
ははっ。
んで、
ボクが破落戸達の真ん中に入って、文字通り? 5・6人蹴散らしたことで、破落戸達も二手に分断される形になった。
こうなると、数の優位が機能しなくなり、元々の冒険者としてのランクの高いうちの家族の敵じゃなかった
クリアお母さん側は何も心配がないようだ。
ランスお父さんとボルファスおじちゃんが問題なく気絶させていっている。
何気に、クリアお母さんも魔法の杖で殴っている気がするんだけど。
魔法を使おうよ魔術師さん。
とりあえず、見なかったことにしておこう。
ボクの今後の精神衛生上のために。
ティニアお姉さんも、Cランクというだけあってかなり強いみたいだ。
どうやら、ゲームでいうところの職業は格闘家のようで、素手で相手を殴るわ、スカートなのにハイキックをかますわで、物凄い暴れようだった。
そして、サーベニアお姉ちゃんは……。
「セイルくんを人買いに売るぅ……人質にとるですって!!!」
……大人しいかと思っていれば、静かに怒りを溜めていたみたいだ。
「なんだ? あの女エルフ」
徐に腰に下がっているレイピアを抜いて、ゆっくりと男達に近づいていく。
「ちょっ、ちょっと、ヤバくねえか、あの目付き」
ゲージMAXって感じで、背後に怒りオーラが見えるようだし。
「まっ、待て! 話し合おう」
格闘ゲームならここで超必殺技が出せるようになるところだな。
「うぎゃあああっ!」
……ご愁傷様。
あっ、きっちり殺してはいないからね。
とりあえず、流石はAランク冒険者とだけ言っておこう。




