60 エン望 (えんぼう)
60 怨望 (えんぼう)
ざっと見渡してみても20人は軽く越えているだろうか?
路地裏を知り尽くしているらしく、そこそこ広い空間になっている広場に、あちこちからぞろぞろと男達が現れてきた。
この辺を縄張りにしている破落戸連中といったところだろう。
路地裏生活のせいか、身なりはあまりよくない。
薄汚れた感じがした。
手には思い思いの武器らしきものを持っている。
よく見れば、先ほどの冒険者ギルドで見た男達が混じっていた。
まあ、ボクもある程度予想はしていたので、心構えは出来ていたけどさ。
自らの素行の悪さから冒険者資格をはく奪されたことによる逆恨みからの仕返し。
ボクたちがバラバラに行動するのを待って、女子供の方を狙う。
お約束も良いところだね。
「ちっ、バレていやがったのか。と、言いたいところだが、あんたら、それなりにやるようだからな。バレてて当然だろうよ」
元冒険者だった男の一人が吐き捨てるように言い放つ。
「それはどうも。わざわざ時間を作ってあげたんだから、これで全部かしら? めんどくさいのよね、ちまちまと突っかかってこられるのをいちいち対応するのは。この後ゆっくり買い物もしたいしね」
うわあ、サーベニアお姉ちゃん、大雑把な性格だとは思っていたけど、こういうところも大雑把なのか。
しかも煽りまくってるし。
あと、今までのは買い物じゃなかったのか?
まだこれから回るってことだよね。
むしろ、この後が本番!?
はっ!
しまった!
前世の妹双子姉妹に買い物で振り回されていた教訓を忘れてた!
「あたしもその意見には賛成よ。意外と気が合いそうねって、あれ? あたしのお尻を触ったヤツはいないみたいね」
こっちもかい! ……そういわれてみれば、いないね。
もう一人というのは存在感が薄かったのか、記憶に残っていないけど。
「ああ、もう冒険者でのパーティーじゃなくなったからな。元リーダーともう一人は分かれたぜ」
「方向性の違いってヤツだ」
バンドの解散理由か!
「ふ~ん。どうでもいいわ」
サーベニアお姉ちゃんは心の底から興味なさそうな態度の反応をしてみせた。
わあ、サーベニアお姉ちゃん、煽ってる煽ってる。
この世界でも、エルフってクールなイメージがある分、相手は馬鹿にされたような印象を受けることになるんだよな。
よし! ちょっとだけボクも参加してみよう。
「つまりはさっきの連中の3人とその仲間たちと言う訳だね」
「わあ、セイルちゃん、その年で計算が出来るなんて! 賢い!」
こっちはこっちでボクにキラキラとした目を向けてるし。
二人ともマイペース過ぎやしませんか?
まあ、ボクも人の事は言えないかもしれないけれど。
「俺たちをオマケ扱いしてんじゃねえぞ小僧!」
元冒険者だった連中の仲間らしき男達の中の一人が威嚇してくる。
「なに、幼児に粋がってんのよ。あんた、バッカじゃないの? ねえ、セイルちゃん」
ティニアさんはボクに賛同を求めるように可愛らしく首を大きく傾けて聞いてくる。
本当、表情の豊かな娘だなあ。
でも、それも十分呷っているからね。
「この女!」
「舐めてんのか!」
「舐める訳ないでしょ。汚らしいそんな顔」
「この女、本当に俺様のモノ嘗めさせてやる!」
「幼児がいる所で何てこと口走ってんのよこの馬鹿!」
別にいいけど。
前世20歳半ばまで生きてた記憶はあるし。
それなりだから。
あと、先に煽ったのティニアさんだよね。
「お子ちゃまが分かるワケないだろうが」
分かってるんだなあ、これが。
「そういう問題と意味じゃないわよ!」
「それともあんたが教えたのか? 俺達にも教えてもらいたいもんだねえ」
ニヤニヤした顔で一人の男が尋ねる。
「コイツッ!」
赤頭巾ちゃんが赤く、いや、ティニアさんが怒気をあらわにした。
「無駄話をしていても意味がねえだろう。それにエルフの姉ちゃんにあのへんてこなゴーレムを出される前に抑えねえと」
へんてこ言うな!
「そうだな。さっさと大人しくさせて、お楽しみと行こうぜ」
「どっちも上玉だしな」
「幼児はどうするよ」
「後で人買いにでも売り飛ばせばいいだろうよ。そこそこ整った顔立ちだし、きっと高く売れるぜ」
男達が空き地を囲むように位置を取りつつ、逃げ場を塞ぐように間合いを詰めてくる。
「安心して、あんな奴ら、セイルちゃんにはあたしが指一本だって触れさせないからね」
そういってティニアさんはボクを後ろに隠す。
サーベニアお姉ちゃんはさっきからその場から動いていない。
ジリジリと男達との間合いが詰まっていく。
「はい、そこまで!」
路地のボクたちが来た方の入り口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
曲がりくねった路地のせいで日の当たらない暗がりから現れたのはクリアお母さんとランスお父さんとボルファスさんだった。
と言うか、予定通りだね。
あっ、あとミニチュアのルーもね。




