59 迂エン (うえん)
59 迂遠 (うえん)
ボクたちは滞りなく? 手続きを完了させ、とりあえず冒険者ギルドを出ることにした。
「う~ん、これからはボルファスの用事が終わるまで、俺達は自由だな」
背伸びをしながら晴れやかなというか、清々しいというか、とにかく物凄く良い笑顔でランスお父さんが言う。
「だから、お前は力仕事を手伝ってくれてもいいんだぞ。たまには森深くのお前らの家まで物資を運んでやっている俺を労わろうとは思わんのか?」
「何言ってんだよ。いつも心の中で感謝しているさ」
「なら、態度で示して手伝え」
「へいへい」
不平そうに言いながらもランスお父さんはボルファスおじちゃんの手伝いをするつもりだ。
なんやかんや言って、ランスお父さんもクリアお母さんもボルファスおじちゃんにはお世話になっているし、感謝もしている。
もちろんボクもだよ。
いつもありがとうね、ボルファスおじちゃん。
「わたしたちはどうしましょうか?」
サーベニアお姉ちゃんが考え込む。
どうやら女性陣と男性陣で別れる気配だ。
という事はボクも力仕事を……って無理か。
一瞬、腕まくりをしかけて止める。
「そうね。道具店の通りでも見て回りましょうか。魔道具や発掘品なんかの掘り出し物も見て回りたいし」
「はあ、またですか。私は付き合いませんよ」
ありゃ、違うみたい。
サーベニアお姉ちゃんの言葉にクリアお母さんが溜め息をつく。
「ええ、良いじゃない。折角来たんだし。魔法の探求は好きでしょ」
「魔法の探求は好きですが、ガラクタ探しはあまり好きではありませんから。それに日ごろお世話になっているボルファスさんのお手伝いもしたいですし」
うん、やっぱりそうなったか。
「おっ、嬉しいこと言ってくれるねえクリアちゃんは。ほれ、ランスも少しは見習え」
「へいへい」
「わたしには相変わらず酷いなあクリアちゃんは」
一応、魔法の師匠でもあるはずなのに、容赦ないなあ、クリアお母さん。
まあ、家の地下のエストグィーナスお姉ちゃんの遺跡の倉庫部屋を見れば、気持ちは分からないでもないけどね。
しゃーない。
「ボク、サーベニアお姉ちゃんと一緒に行く!」
ボクが付き合ってあげるとしますか。
「う~ん、セイルくんは良い子だなあ」
抱き上げられて、頬にスリスリされた。
「あのお、あたしも付いていっていいかな?」
冒険者ギルドを出ても、いつの間にやら後ろを付いてきていたティニアさんがおずおずと声をかけてくる。
見れば、ティニアさんは拾って欲しそうな子犬のような目をしていた。
あっ、犬扱いしちゃあダメだったっけ。
でも、「拾って欲しそうな子狼の目をしていた」って、いまいちイメージが湧かないし。
ちなみに、ティニアさんは今、フードを被りなおしてまた赤頭巾ちゃんになっている。
似合ってて可愛いいんだけど、どうしても前世の記憶でネタのように見えてしまう。
「構わないわよ」
「やったー!」
ティニアさんがパッと笑顔になる。
この人、物凄いコロコロ表情が変わるなあ。
「じゃあ、『グリフォンの羽搏き亭』にいつも宿を取っているから、今回もそこに取っておく」
「分かったわ」
「クリアお母さん、ちょっと耳貸して」
「んっ、どうしたのセイル君」
「あのね……」
結局ボクとサーベニアお姉ちゃんとティニアさん、ボルファスおじちゃんとランスお父さんとクリアお母さんに分かれて行動することになった。
ボクたちはサーベニアお姉ちゃんの付き合いで、道具店回りに行くことになる。
◇
主に道具とか雑貨とかが売っている通りはかなり雑多だ。
お店形式の所もあれば、机を並べてそこに品物を置いているところや屋台みたいなところもある。
中には路上に布を敷いただけで、その上によく分からない物をたくさん並べて売っているところもある。
いろいろな壺の中に、いろいろな色の粉末が入っていたりするのはたぶん、薬か香辛料の類かな?
あっちのお店では机を店前に並べて、いろいろな装飾品を売っている。
ボク個人としてはとてもわくわくして楽しい。
外国の市場っていう感じがするし。
そういえば、前世でフリーマーケットのフリーを英語の「Free」(自由)と勘違いしている人が、結構いたみたいだけど、実際は英語の「Flea(蚤)」の事で、直訳で「蚤の市」と言うのが正しいんだよね。
元々の語源はフランス語らしいけど。
当初は、捨てられていた物から使えそうな襤褸布や品物を拾ってきて売っていたため、衣類に蚤が付いていることも多かったところからきているって聞いたな。」
近年では家で余っている物を売ることが多いので、綺麗な物ばかりになって、あえて「Free(自由)」の方を使っているって話も聞いたな。
ちなみに「自由」で使うと「自由市場」になってしまい、これは英語では経済用語として使われているから。
元ビジネスマンのこの世界では何の役にも立たないマメ知識でした。
そういう意味ではここは本当に「フリーマーケット」という言葉がぴったりくる感じの所だね。
「次はどうするの?」
「もう一軒寄りたいところがあるのよ」
ボクが尋ねると、サーベニアお姉ちゃんはニッコリと答える。
それから、魔道具の店にはありがちな、入り組んだ路地の奥まった方へと向かっていった。
「さてと」
雑多に建てた場所のせいだろうか。
路地裏にできたちょっとした空間のようで、それなりに広い。
少し奥の方に入った所でサーベニアお姉ちゃんは立ち止まり、振り返って腕を組む。
でも、この辺にはお店らしきものは見当たらないけど。
ティニアさんも同じように振り返り、両腰に手を当てて今来た路地の方を見ている。
「そろそろ、出てきたらどうかしら?」
サーベニアおねえちゃんが、路地の奥に向かって声をかける。
しばらくして、路地のあちこちから、見知らぬ男達がゾロゾロと出てきた。
ああ、やっぱりね。
こういう事か。




