55 エン枉を注ぐ (えんおうをそそぐ)
55 エン枉を注ぐ (えんおうをそそぐ)
冒険者ギルドの建物の中に入ってからしばらくして、後から入ってきた全身傷だらけの男達が5人、慌てた様子でボクたちの前を横切って追い抜かしていく。
よく見てみれば、さっき路地裏に赤ずきんちゃん……女の子を連れ込もうとしていた連中だった。
一先ず、ルーに頼んで女の子を助けるために、5人とも伸して放置してきたんだけど、もう復活してきたんだ。
流石は腐っても冒険者と言うべきか、ランクは分からないけど、意外と頑丈だな。
でも、おかしいな?
できるだけ頭とか顔とかは死にかねないので狙わないようにってルーにはお願いしたはずなんだけどなあ?
う~ん、意思疎通に失敗したかなあ?
隙間から覗いて見ていただけだけど、ルーもちゃんと手加減をして手や足や胴体を狙っていたと思うし。
……!
あぁ、なるほどね。
あれはたぶん、顔の傷に関しては、自作自演だな。
前世、保険会社に勤めていた際、自作自演の保険金詐欺の事例を見せてもらった時にもいくつかあったな。
ボクがそんなことを考えていると、男達はカウンターの受付のお姉さんの所まで行くと口々に騒ぎ出した。
「町中に魔物が出たんだ!」
「ストーンゴーレムだった」
「まさか、そんなことは」
「嘘じゃねえって! この傷を見てくれよ!」
大声で叫んでいたから、周りにいた冒険者達にも聞こえたらしく、冒険者ギルド内に緊張が走る。
んっ? それって。
ルーの事だよな、やっぱり。
さて、どうするべきか?
「どんな魔物でした?」
事情聴取が始まったけど。
「変な形のストーンゴーレムだった」
さて、これはどうやって治めるのが、無難だろうか。
それにしても、変な形言うな、変な形。
そう、心の中で5人の冒険者の男達に抗議していると。
「おわわっ!」
折角、クリアお母さんに地面に下ろしてもらったのに、いきなりサーベニアお姉ちゃんに両脇に手を入れられて抱きかかえ上げられた。
クリアお母さんも隣りに立って顔を寄せてくる。
「セ・イ・ル・く・ん、な・に・か・し・ら・な・い・か・な?」
わあ。
いつになく、サーベニアお姉ちゃんの笑顔が作り笑顔になっているなあ。
じゃなくて、こりゃあ、ボクとルーの仕業だって事、完全にばれてるよな。
詰め寄りはしないまでも、察したらしくランスお父さんとボルファスおじちゃんも同じような雰囲気を醸し出しているし。
どっちかって言うと、二人は苦笑いって感じだけど。
ここは正直に話しておいた方が良いだろうな。
「ごめんなさい。あの冒険者の人達に路地裏に女の人が連れていかれてたんで、つい、助けに行っちゃった」
「ふ~ん、助けようと思ったのは良いけど、セイルく君、危ないことしちゃダメって、いつも言っているでしょ」
クリアお母さんに、鼻の頭をつつかれる。
「あい、ごめんなさい」
「とはいえ、今の話をギルドが鵜呑みにするとマズいわね。早いうちに、対処しましょうか」
「そうだな。後回しにするよりはこの場で片付けておいた方が良いだろう」
ボルファスおじちゃんも同意する。
「う~ん、セイルくん、ちょっと耳貸して」
「うん」
ボクはサーベニアお姉ちゃんに抱きかかえられたまま耳元でヒソヒソ話をされる。
「わかった」
◇
トントン
カウンターで必死に訴えている冒険者の男達の一人の肩を、軽く叩く。
たぶん、前回も肩を叩いた人だと思う。
「何だ。うるせいな。今取り込んでいるんだ! 後にしろ、後に」
男はカウンターの受付のお姉さんの方を見たまま、振り向きもせずに行った。
(ま~た、お約束か?)
カウンターのお姉さんは目を丸くしているけど。
トントントン
「だ~か~ら~、今、お前の相手をしているところじゃねえって、言って……わっ!」
再度、肩を軽く叩くと、それどころじゃないと言わんばかりに、勢いよくこちらに振り返って、やっと気づいてくれた。
やれやれ。
「!!!」
男は一瞬固まる。
ボク、というかルーが、軽く右手を上げて挨拶をする。
次に。
「出た~!! まっ、魔物!!!」
お化けか。
って、この世界だと、割といるんだよな。
でも。
本当に失礼だな。
「中位精霊のカンガーゴイルのルーだよ」




