51 快気エン
51 快気エン
スロクラの町に着いたボクたち一行はまず、ボルファスさんが所属する商人ギルド、『コバルド商人ギルド』に、乗ってきた荷馬車を預け、皆で冒険者ギルドに向かうことにした。
わざわざ長旅までして、ケスバ村からスロクラの町に来た主の目的、ランスお父さんとクリアお母さんのBランク冒険者としての異動手続きを先に行なってしまおうという考えだ。
ついでに、行き掛けの駄賃とばかりに旅の途中で倒した魔物、シープルフの討伐証明を提出してボルファスさんのCランク冒険者としての期間延長手続きも行なってしまおうということらしい。
今はサーベニアお姉ちゃんとクリアお母さんに両手を握られて道を歩いている。
荷馬車で来た道とは違う、市場のように店が立ち並ぶ通りだ。
「甘くて美味しいオレカンだよ! 今年の出来は特にいいから、食べないと損だよ!」
恰幅の良いおばちゃんが声を張り上げて呼び込みをしている。
「今朝もぎたてのアプンゴだ! 新鮮だよ! さあ、買った買った!」
それに負けじと向かいの露店のおじさんが威勢の良い声を張り上げている。
こういうのはボクたちのケスバ村では見ることのできない光景だ。
前世では朝市とか道の駅とか行ったりした時に見られた光景ではあるが、なんというか、こちらの方が迫力があるような気がする。
別の場所からは肉を焼く香ばしい匂いが漂ってきている。
今はお昼時のようだ。
そういえば、少しお腹が減ってきたかも。
忘れていたけど、この世界の地方の土地の食事の習慣は、一般的に朝、夕の2食で、都市部は3食という事だ。
そういえば、うちは山の中の一軒家なので、周りに気を使って合わせる必要がないからという事で、クリアお母さんとランスお父さんが町に住んでいた時の習慣をそのままにしているから、食事は朝、昼、晩の3食だし、前世も3食だったので、違和感がなかった。
「何か、食べたいものはある?」
サーベニアお姉ちゃんが、きょろきょろと周りを物珍しそうに見まわしているボクを見て、聞いてきた。
「サーベニア師匠、これからお昼を食べるんですから、セイルが食べられなくなってしまうので、そういうのはやめてください」
子どもの買い食いを窘められるようにサーベニアお姉ちゃんがクリアお母さんに注意されている。
「それなら、この辺でお昼にすればいいじゃない。折角なんだし、ケスバ村にはない、屋台で買って食べるというのもセイルくんにとっては良い経験よ」
「もう、もっともらしい理由を付けて」
「はっはっはっ、それもいいじゃないか」
「そうだな。冒険者ギルドに行く前に腹ごなしでもしていくか」
「はいはい、分かりましたよ」
なんやかんや言っても皆町の賑わいに少し浮かれているのにはボクと大した違いはなさそうだね。
とても活気にあふれた場所だから、仕方がないか。
こうして改めて荷馬車を降りて街中を歩いてみると賑わっているのが良く分かる。
ボクの身長じゃ、すぐ人ごみに埋もれてしまい、あっと言う間に迷子になりそうだ。
それ以前に人攫いも警戒しないといけないらしい。
なんとも難儀な世界である。
「んっ?」
なんか一段と香ばしくて良い匂いがする?
ボクは匂いの元を追って視線をめぐらせてみると。
「うわあ、大きなエビ」
「えび?」
「あっ、いや」
マズったかな。
「エビ何て言葉、良く知っていたわね」
「……えっと、エストグィーナスお姉ちゃんが見せてくれた魔物の本に載っていたの」
「そう、よく覚えていたわね」
良かった。何とかごまかせたし、一応エビで通じるみたいだ。
「あれは『デビルロブスター』ね。でも、変ね。この辺では海も近くないのに、珍しいわね」
サーベニアお姉ちゃんが、ボクに説明してくれながら何やら考え込み始めた。
「ランス、大好物でしょ」
そうしていると、隣りではクリアお母さんが、少し意地が悪い揶揄うような口調でランスお父さんに話しかけている。
「うっ、クリア、お前、あの時の事言ってるのか。いやな事を思い出させるなよな」
「あの時はランスが食べ過ぎただけでしょ」
どうやら、昔サーベニアお姉ちゃんの用事で海のある町に行った時に、遭遇したデビルロブスターを食べると美味しいという事で食べてみたら、本当に美味しかったらしく、ランスお父さんは食べ過ぎてお腹を壊してしばらく動けなくなり、滞在を延長することになったらしい。
「食い意地の張っているランスらしい話だな」
「ほっとけ!」
「ボクも食べてみたい!」
「そうね。ちょっと気になることもあるし。行ってみましょうか」
「セイル君、食べすぎちゃダメだからね」
「あいっ! クリアお母さん分かりました」
「クリア、おまえなあ」
「はっはっはっ」
わいわいとやりながらデビルロブスターの焼ける良い匂いのする屋台へと近付いていく。
「あいよ。いらっしゃい」
「串焼きを5本貰えるかしら」
そういってサーベニアお姉ちゃんは銀貨を一枚おじさんに手渡す。
「毎度!」
屋台のおじさんは威勢よく返事をすると焼いていたデビルロブスターの串焼きの中から、焼きあがった分の櫛を順に渡してくれた。
「それと、一つ聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「なんだい?」
「デビルロブスターなんて海の魔物この辺じゃお目にかからないと思うんだけど」
「ああ、それかい。それなら簡単だよ。このスロクラの町の近くに最近ダンジョンが発見されたんだ」
「えっ!」
「そいつは本当か!」
どうやらボルファスおじちゃんも知らなかったようだ。
驚いて話に入っていく。
「いつのことだ?」
「そうだなあ……」
話によると、どうやら本当に、つい2ヶ月くらい前に発見されたらしく、ボルファスおじちゃんが丁度スロクラの町で仕入れをして町を出た直後のことらしかった。
「ありがとう。おつりはいいわ」
「へへっ、美人で気前が良いとは良い女だね」
「どうも」
サーベニアお姉ちゃんは露店のおじさんの言葉を軽く流してその場を後にした。
う~ん、できる女性って感じだね。
普段は緩いのにね。
流石はAランク冒険者という所なのかな?
それにしてもダンジョンかあ。
ボクのスキルじゃ無理だけど、やっぱり夢が広がるよね。




