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50 エン道 (えんどう)

50 エン(沿)道 (えんどう)

「ようこそだ、ボウズ。スロクラの町へ」

 門番のおじさんがボクの頭を撫でて歓迎の意をしめして、門を通してくれた。

「ありがとう」

 ボクもお礼を言って馬車に乗ったまま手を振る。

 そうして振り返って目に飛び込んできたものは、まさにファンタジー!

「うわあぁ! すごいっ! すごいっ! すごいっ! 本物だ!」

 ヨーロッパの中世とか近世とか言われる時代の街並みが広がる、お伽噺とぎばなしから飛び出したような街並みさながらの建物が立ち並び続く世界だった。

 今までもケスバ村は見ていたけど、やっぱり大きな町を見ると、断然インパクトが違うよね。

 余りのはしゃぎように気が付かなかったけど、ちょっと落ち着いて周りを見渡せば、周りの人達が微笑ほほえましいものを見るようにボクの方を見ていた。

 ちょっとずかしい。

 っていうか、コレ、完全に田舎いなかから都会に出てきたばかりの行動丸出しだよ。

 でもさあ、仕方ないじゃん。

 ゲームとかアニメとか映画とかでしか見たことがないような建物や格好の人達がたくさんいるんだよ。

 まるでテーマパークのゲートを通った直後のような気持ちの高揚感こうようかんがあるのは仕方がないと思うんだよね。

「まずは商人ギルドに行って、荷物を下ろして荷馬車を預かってもらおう。全てはその後だ」

 そう言うとボルファスさんは迷いなく手綱を操作して再び走りだす。

 商人ギルドに向かいながら、荷馬車の荷台から街並みを眺めている。

 やっぱりすごいよ。

 両側に石造りの建物やレンガ造りの建物が並び、大通りのためか、それぞれに商売をする人たちの活気のある声が聞こえてくる。

 建物も町の人たちの服装も、結構思っていたよりもカラフルで華やかだ。

 まあ、表通りの大通りだからかもしれないけれど。

 しばらく進むと、一際大きな門構えの建物の前に到着した。

「コバルド商人ギルド」

 大きく掲げられた看板にはそう書かれていた。

 とりあえずの目的地に到着したようだ。

 意外と町に入ってから早かったな。

 多分だけど、門に近いのは町の外から品物を仕入れをしたり、町の外へ荷物を運び出すのに都合がいいからなのだろう。

「良く読めたわね。えらいえらい」

 そう言ってクリアお母さんとサーベニアお姉ちゃんが頭をなでてくれた。

 なんかくすぐったい。

 門の前には守衛のような人が2人いて、ボルファスさんはそのうちの一人に挨拶あいさつをしてから書類らしきものを見せている。

 もう一人の守衛の人は荷台のボクたちの方を確認するように見据えている。

 若干、クリアお母さんとサーベニアお姉ちゃんを長々と見ていたのはたぶん、気のせいだよね。

 さしたる時間もかからずに、門は通してもらえた。

 中では荷物を下ろしたり、その荷物をどこかに運んだり、何か商談のような言い争いのような怒鳴り合いをしている光景があちらこちらで繰り広げられていて、町中とは、また違った活気に満ちていた。

 子どもも働いている。

 十代前半くらいの子供も、幾人か見受けられた。

 男の子も女の子もいる。

 この世界、10歳くらいになると大体の子が家の手伝いや働き口を探したりするようだ。

 学校もあるにはあるが、一部の裕福な家庭か、貴族や文官の子どもたちが通うようなものらしい。

 その他の子は、10歳になる前までに各地にある教会やその村の有識者や長老にある程度の読み書きを教わったり、その土地のルールを学んだりする程度なもののようなそうだ。

 前世の世界なら、どっかの団体が大騒ぎしていそうだけど、この世界では極当たり前の光景で、町でも村でもあまり変わらないらしい。

 ケスバ村の子たちも10歳くらいになれば、皆家の手伝いなどをしていた。

 そんなことを考えながら、ボーッと働いている子供たちを見ていると、やがて決まった場所なのか、ボルファスさんが荷馬車を止めた。

 そうしたら、早速とばかりにクリアお母さんが荷馬車を降り、両手を組んで頭の上にし背伸びをする。

「う~ん、やっと着いたって感じね」

 ボクも隣りで真似をしてみる。

「長旅、お疲れさん」

「久しぶりに来たけど、にぎやかさは相変わらずね」

「前回来たのはクリアが妊娠にんしんしている時だったから、俺達はそんなに見てないけどな」

「もう3年前くらいになるのかしらね」

「今回は少しはゆっくり見れそうね」

「まあ、俺が品物を調達している間、ゆっくり見物でもしてるといいさ」

「悪いなボルファス」

「ランスは積み込み作業の力仕事、手伝ってくれてもいいんだぞ」

「えっ、遠慮しとくよ。ほっ、ほら、男同士、セイルを見てなきゃいけないし」

「あら、セイルくんなら、わたしが見てて上げてもいいわよ。ねえ、セイルくん、私と見て回る方が楽しいわよねえ?」

「あい!」

 即答。

 子供というのは素直で残酷なもので、そりゃあ、父親と綺麗きれいなお姉ちゃんなら、綺麗きれいなお姉ちゃんに軍配ぐんばいが上がるのは子どもとして当然のことだと思うんだよ。

 ねっ?

「まったく、誰に似たんだか」

 ランスお父さんが少し不貞腐れたように言う。

「ランスに決まってるじゃないの。でもねセイルくん、あまりランスに似ちゃダメだからね」

「あいっ!」

「セイル、そこで元気よく返事するなよな」

 他のみんなから笑いが起こる。

「さてと、それじゃあ、ゆっくりスロクラ見物するためにも、まずは要件を済ませてしまいましょうか」

「さんせーい!」

 ボクが勢い良く手を上げて言うと、皆笑顔で冒険者ギルドに向かって歩き出した。

 ボクは道、知らないけど。

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