5 エン彦道(えんげんどう)
5 エン彦道(えんげんどう)
ボクが頭の中で《戦いはまだ始まったばかりだ!》のボタンを押すとミニゲームの画面へと無事切り替わった。
正直、続きが有って良かった。
何故か分からないけど、本当に良かったよお。
ボクはホッと胸を撫で下ろし、安堵の息を付く。
というか、何故かじゃない! 何だよこの《戦いはまだ始まったばかりだ!》って! 週刊誌マンガの10週打ち切りの様なボタンは!
思わず次画面が出ないんじゃないかと本気で不安になったじゃないか!
こっちは本気で生活が懸かってるんだぞ! って、ギャンブルに生活懸けてるってまるっきり駄目人間じゃないか。しかも赤ちゃんから……。
さて、気を取り直してミニゲームの内容はっと、
何々、
* * *
『遊び方』
赤と白のサイコロが有ります。
まず、赤いサイコロを振ります。
次に白いサイコロの出目が赤いサイコロより上か下かを予想して選んでください。
そして白いサイコロを振ります。
白いサイコロの出目が《上》を選択したのであれば、赤いサイコロより大きければ、あなたの勝ち。同じか小さければ、あなたの負け。同じく、白いサイコロの出目が《下》を選択したのであれば、赤いサイコロより小さければ、あなたの勝ち。同じか大きければ、あなたの負け。
《OK》
* * *
なるほど。
それにしてもこれ、結構楽なんじゃないか?
まあ、やってみるか。
まず、赤いサイコロを振ってと、
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ
出た目は6。
よし!
もちろん《下》を選択して、6以外ならボクの勝ち。
次に、白いサイコロを振ってと、
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ
出た目は4。
よっしゃ!
* * *
『本日の獲得ポイント』
2 ポイント
《戦いはまだ始まったばかりだ!》 《今日のところはここまでにしておいてやる!》
* * *
よしよし、ちゃんとポイント増えてるな。
それじゃあ次、行ってみようか!
ボクは《戦いはまだ始まったばかりだ!》のボタンを押した。
赤いサイコロを振ってと、
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ
出た目は3。
これは、悩むな。《下》なら1か2。《上》なら4か5か6。
単純に考えれば《上》の方が割りが良さそうだけど……よし、ここはお試しだし、ビギナーズラックで《下》を選んでみるか!
「一か八か……もとい、一から六か」
白いサイコロを振ってと、勝負!
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ
出た目は1。
どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔)
……
……
……
その後も勝ち続け、トータル5連勝した。
結果、
* * *
『本日の獲得ポイント』
32 ポイント
《戦いはまだ始まったばかりだ!》 《今日のところはここまでにしておいてやる!》
* * *
となった。
今日は初回だし、様子見だし、ボクは《今日のところはここまでにしておいてやる!》ボタンを押してゲームを終了することにした。
それにしても勝ったのに負けた気分になるボタンだなあ、これ。
まっ、兎にも角にもこれで今日の獲得ポイントは32ポイント。
なんと32日分!
前世の地球と日にち感覚が同じなら1か月分短縮できたことになる!
どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔)
と言う訳で今日は勝利の美酒……は年齢制限でアウトなので美乳……もとい美ミルクに酔いしれる事にした。
そう言えば中世ファンタジー世界と勝利の美酒で思い出したけど、地球のヨーロッパの産業革命の時代、両親共に働きに出ている為、その間乳幼児が大人しくしているようにアルコールを飲ませていたという話を聞いたことがあったっけか。その為、乳幼児の急性アルコール中毒での死亡者数がかなりの数になっていたという話らしい。
なんでも下手な水よりも低級のアルコールの方が安かった事も一因となっていたんだったっけか?
「あら、セイル、今日は機嫌が物凄く良さそうねえ」
あっ、やっぱ解ります?
◇
さて、今日も挑戦するとしますか。何せ、昨日だけで普通に貯めてたら32日掛かったポイントを一気に稼いだんだから。今日は多少無茶しても大丈夫。
* * *
『本日の獲得ポイント』
1 ポイント
《戦いはまだ始まったばかりだ!》 《今日のところはここまでにしておいてやる!》
* * *
ボクは頭の中で《戦いはまだ始まったばかりだ!》のボタンを押した。
今回の身にゲームの内容は
* * *
『遊び方』
ここにカードの山と二つのサイコロが有ります。
まず、カードを一枚引きます。
次にサイコロ二つの出目の合計がカードの数より上か下かを予想して選んでください。
そして二つのサイコロを振ります。
二つのサイコロの出目の合計が《上》を選択したのであれば、カードの数より大きければ、あなたの勝ち。同じか小さければ、あなたの負け。同じく、二つのサイコロの出目の合計が《下》を選択したのであれば、カードの数より小さければ、あなたの勝ち。同じか大きければ、あなたの負け。
《OK》
* * *
……昨日と大体同じか。
はやくもネタ切れって事はないよね。あくまでランダムなセレクトの一つだよね。
まあ、それは置いておいて、カードを引きますか。
引いたカードは9。
これは下かな。
ボクは《下》のボタンを押して、サイコロを振った。
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ
出た目は4と6。足して10。
* * *
『you LOSE!』
『本日の獲得ポイント』
0 ポイント
《今日のところはここまでにしておいてやる!》
* * *
まっ、まあ、今日は仕方ない。
別に昨日稼いでるし、まだまだ勝ち越してるしね。
それにしてもゲーム終了が解ってるんだからわざわざ《今日のところはここまでにしておいてやる!》のボタンを押させなくても《OK》で元の画面にでも戻ればいいじゃないか。
しかも、ご丁寧に右下隅には泣きながら走り去っていく薄紫髪ツインテール少女神のアニメーションが流れてるし……。
◇
……現在1勝5敗。
今日のミニゲームの種類の説明は双六ゲームだった。それにしてもサイコロを使ったゲームが多いなあ。あの薄紫髪ツインテール少女神はそんなに人にサイコロを振らせたいのだろうか?
設定は転生者の中から一つコマを選択し、サイコロを振ってマスを進み、止まったマスの指示に従い、もう一つの転生者のコマ(PC?)より先にゴールするというオーソドックスなボードゲームのスタイルの様だ。
もしかして前に「早くもネタ切れ疑い」を掛けた事が伝わっているとか? ……ないか。そんなもん伝わるくらいなら「異世界に円が無い問題」を何とかしてほしいもんだよ。
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ
……。
……。
……。
それにしても長い!
かれこれ半日近くはサイコロを振り続けている。今までのは30分も掛からなかったのに
ミニゲームじゃない! これ、全然ミニゲームじゃないよ!
まず、ボクの選んだ転生者は王宮に召喚され、ここでサイコロを振り出た目によって王様やお姫様が善人か悪人かに別れるようになっているらしくボクの出目では、王族は悪人となってしまった。
このルートだと魔王ルートもある用だけど、ボクの出目では気が付いて自ら王宮を逃げ出すルートになった。
途中イベントで路地裏で泥だらけになっている奴隷の獣人の少女を拾い仲間にして旅をすることに。
そして王宮から逃げ出し、隣国で冒険者となり、いきなりオークの群れから貴族の令嬢の馬車を救い冒険者ランクが上がった。
さらにダンジョんに潜り、階層主のデーモンを今やっと倒したところだ。
これ、話全体のどの辺だ?
まあ、赤ちゃんの身体だし、出来る事も少ないので良い暇潰しにはなると言えばなるんだけど…。
だけどこれ、日に何回もダブルアップできないよな。確か一定時間経過すると負けだったし。そこまで考慮しろって事なんだろうな。
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ
……。
……。
……。
- さらに数時間後 -
* * *
『you LOSE!』
『本日の獲得ポイント』
0 ポイント
《今日のところはここまでにしておいてやる!》
* * *
おっ、終わった。
つっ、疲れた。
特に負けたから疲労感が半端ない。
けど、途中から負けでもいいから終わりにしない? という気持ちになりかけていた。
なんか、ボーナスゲームと言うより罰ゲームの気分だよ。
昔学生の頃、友人の家に集まって麻雀をやった時、一人がマズいと噂の飲み物を買って来て最下位になったヤツが飲むって事で勝負した事があったんだけど、その場に5人いて半局ごとに一人ずつ入れ替わる形式で進めたら貫徹どころじゃなくなって、最後の方は、皆「俺が最下位でいいから、終わりにしない?」とヘロヘロ状態になっていたっけ。
やり切った達成感よりも、今、そんな気分だよ。
◇
それから日にちは流れ、
げっ、現在20連敗中。
3連勝くらいまでならいけるんだけど、5連勝辺りを狙うとなかなかうまく行かない。
きょ、今日こそは今までの負けを倍にして返してやる!
……はっ、何か、思考が子供の給食費にまで手を付けるクズおやじの様になってきたな。
前世日本であのまま生きてたらカジノ法とかでたくさん増える借金おやじの仲間入りでもしてたんだろうかボクは……危ない危ない。
まだ勝ち越しているんだし、ここはクールに行こう。
で、本日のミニゲームの内容はっと、何々、
* * *
『遊び方』
赤と白のサイコロが有ります。
まず、赤いサイコロを振ります。
次に白いサイコロの出目が赤いサイコロより上か下かを予想して選んでください。
そして白いサイコロを振ります。
白いサイコロの出目が《上》を選択したのであれば、赤いサイコロより大きければ、あなたの勝ち。同じか小さければ、あなたの負け。同じく、白いサイコロの出目が《下》を選択したのであれば、赤いサイコロより小さければ、あなたの勝ち。同じか大きければ、あなたの負け。
《OK》
* * *
これは!
一番初めにやったミニゲームだよな。
やった! これなら行ける!
……。
……。
……。
- しばらくして -
* * *
『本日の獲得ポイント』
512 ポイント
《戦いはまだ始まったばかりだ!》 《今日のところはここまでにしておいてやる!》
* * *
ふっ、クールに行けば、ザッとこんなもんさ。
一日で送料分稼ぐなんて訳ないね。
よし次。
赤いサイコロは6!
今日は付いてる!
もちろん《下》を選択!
白いサイコロを振る。
コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ
出目は6。
「……」
その時、ボクの思考が止まった。
* * *
『you LOSE!』
『本日の獲得ポイント』
0 ポイント
《今日のところはここまでにしておいてやる!》
* * *
「!×!△(ToT)□!」
ボクは声にならない叫び声を上げた。
何だそりゃあ!!! そこでそれが出るか!
ボクは泣くに泣けない状態で……実際には大泣きしてました。
「あらあら、セイルくんどうしたの? お腹がすいたのかな? それともオシメ?」
違います。
その後、クリア母さんはずっとボクを抱きかかえて揺らしながらあやしてくれていた。
一しきり泣いた後ボクはようやく落ち着きを取り戻した。
どうも、感情がこの赤ちゃんの身体に引きずられているようで情けない。
でも今日は飲まずにはやってられない。やけミルクだ!
「あらっ? セイル、今日は機嫌が悪そうねえ」
解ります? ケッ。
明日こそは倍にして……って、やっぱ駄目人間に成りかけている様な、赤ちゃんから……。