48 エン繋ぎ
48 エン繋ぎ
ようやく着いたスロクラの町。
と言っても、まだ町の外壁、入り口の門の前なんだけどさ。
スロクラの町に入るために、ボクたちは町の門の前の検問?、の列に並んで順番が来るのを待っていた。
けど、これが結構多そうで長い列ができている。
それだけ町の中が賑わっているという証拠なのだろうか?
ともあれ時間がかかりそうなのは確かだ。
ボクはボルファスさんの荷馬車からあまり離れない程度でウロウロしながら、この世界の人達のボクにとっては新鮮で珍しい衣装を眺めて歩いていた。
そんな時、前方の方に人だかりができていて、何やら騒いでいる様子が目に入ってくる。
暇だったし、興味本位で人だかりの方へ近づいていくと、どうやら言い争いをしているようであった。
人だかりができていたのは巻き込まれないように、少し距離を取って遠巻きに見ていたかららしい。
ボクは体の小ささを活かして、人垣の中をうまく足の間をすり抜けて、前の方へと出る。
すると、
「てめぇ、何ぬかそうとしてやがるんだよ!
「ああ? ボケッとしてるからよ。てっきり町に入る気がねえんじゃないかと思ってよ」
「列に並んでて、んなわけあるわけねえだろが!
「うるせえな。こっちは急いでるんだよ」
「早く町に入りたいのはこっちだって同じなんだよ!」
はあ、何事かと思えば、列の順番待ちで言い争いかよ。
まったく、こういうのは前世きちんと列を守る日本人気質のボクとしては呆れるしかないね。
こういう列っていうのはね、我先にとか争う方が早く思うかもしれないけれど、理路整然としている方がスムーズに事が運ぶんだ。
揉めたりしている方が効率が悪くなって、結局遅くなる原因になるんだよ。
ただでさえ、こういう所の検問? なんていうものは時間がかかるのに、こんなくだらない騒ぎで門番の人が出てきて人手を取られることになったら、そっちに手間が取られて、ますます時間がかかるだけじゃん。
前世の大学時代のバイトでもあったけど、レジ待ちの列で一人ろくでもないクレームで絡んでくるヤツがいて時間が取られて、その後ろに更に列ができてしまって、他のバイトとかも出てくる羽目になった割にますます無駄な時間がかかってしまったケースが何度かあったっけ。
そういう時に限って、他のレジが故障してたりしてレジが一つしか開いていなかった時には、もう最悪。
なんて、昔……前世の思い出に浸ってみたけど……しょうもない。
はあ、まったく、やれやれ。
「おじちゃん達、ストーップ!」
ボクはため息を一つ付いてから、もめている大人二人の間に割って入った。
真ん中で両手を広げて二人を制する。
一人は槍を持ち、痩せ気味だがしっかりと筋肉の突いた30くらいの人と、もう一人は少し大柄でガタイのよい、背中に大剣を背負った30半ばといった感じの人だ。
突然、幼児が割って入ってくるとは夢にも思わなかったのだろう。
言い争いをしていた二人が、ぼけたような顔をして、その場で固まってしまった。
こういう対応は前世、保険会社の入社時に新人研修で少しやったことがある。
まずはお互いの距離を取らせて、頭を冷やさせることだ。
「なんだ? このチビは? おめえの子か?」
「んなわけあるか。そういうお前の子じゃないのかよ?」
うん。一応は成功だけど、ドラマやアニメで、突然現れた子どもに「お父さん」って呼ばれて、困惑してお互いに押し付け合っているようなシーンのシチュエーションの会話になっている。
「列で待たされててイライラするのは分かるけど、そんなんでケンカしちゃメッ!」
「「……」」
どうよ。
幼児に怒られる大の大人の心境は?
「みんなガマンしてまっているんだから、おじちゃんたちだってできるでしょ? だってふたりとも強そうだもん」
「そっ、そりゃあまあ」
「あっ、ああ」
よしよし、何とか毒気は抜けて、怒気も収まってきたかな?
「幼児に怒られてやがる!」
「くくっ、かっこ悪い」
まわりもケンカの観戦ムードから、良い感じに雰囲気が変わったみたいだ。
「ちっ、このおチビの顔を立ててやるよ。それでいいな」
「あっ、ああ、しかたねえな」
「ふたりともいい子」
「「……」」
二人共、頭を撫でてあげようと思ったけど、ボクの背丈じゃ届かないし、しゃがんでくれそうにないので頭を撫でるポーズだけをその場でして見せる。
「「……」」
ふふっ、二人とも何とも言えないような顔をしているね。
「勇気のある坊やだな」
「幼いが故に、まだ怖い物知らずなんだろ」
周りも空気が緩んだような会話になっている。
こんな状況になっては言い争いを続けられる雰囲気には戻せないだろう。
そうこうしていると、列の後ろから、聞き覚えのある声がかかってきた。
「あっ、セイル! こんなところで遊んでちゃダメでしょ」
見れば、クリアお母さんが慌てたような態度で小走りに駆け寄ってくるところだった。
「すみません。うちの子がご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「あっ、いや……その……」
「べっ、別に……」
おおっ、二人ともうちのクリアお母さんの顔を見て赤くなっている。
ウチのクリアお母さん、なかなか可愛いでしょ?
「そうですか。すみませんでした。ほら、セイルみんなの所に戻りましょう」
「あい!」
クリアお母さんは二人に一礼するとボクを抱きかかえて、列の後ろの方へと戻っていく。
僕は抱きかかえられた体勢で、クリアお母さんの肩越しから二人のおじちゃんに手を振った。
「「……」」
おおっ、ぎこちないながらも二人とも手を振り返してくれたぞ。
まあ、あれなら大丈夫だろう。
この後も続けて言い争いをする雰囲気じゃなくなったはずだ。




