47 エン路遥々 (えんろはるばる)
47 エン路遥々 (えんろはるばる)
ボクたち一行はスニテの村で一泊させてもらって、次の日の朝早くにはスロクラの町に向けて出発していた。
朝からボルファスおじちゃんは、昨日の思わぬ臨時収入と冒険者ギルドへのポイント稼ぎのためのお土産ができたので、かなりホクホク顔の上機嫌だ。
ただ、そう呑気なことも言ってられないようで、村の人の話ではやはりここ数年の間に魔物の出現が徐々に増えている傾向にあるようであった。
まあ、出現するのは今のところ比較的弱い魔物らしいのだけど。
ボクたちがこのスニテの村に来る途中の道でシープルフの群れが現れたのもたまたまという訳ではなさそうで、たまにそういった比較的弱い魔物はそれなりに現れるようになったそうだ。
いままでは確かに森に入れば出くわすこともあったが、人の通りのある街道沿いにはあまり現れることもなかったのに、最近は目撃数も徐々に増えているらしい。
あれかなあ?
前世でも、熊とか鹿とか猿とかが、今までは森や山の奥をテリトリーとして住処にしていたのに、食料を求めて町や村の畑に出てきて、徐々に人にも慣れてきてしまって、頻繁に現れるようになり、畑の作物や家で飼っている鶏や池の鯉などの家畜やペットに被害が出るようになるというあの流れかな。
でも、前世の動物の時でも危険だし、大騒ぎだったのに、それが魔物ともなれば、攻撃的な分、危険度は増してくるに違いない。
ボルファスおじちゃんもそのことは十分承知しているようだ。
よく考えたら、それを承知で毎回、ケスバ村のために物資を運んでくれているのだから、ボルファスおじちゃんには頭が下がる思いだよ。
「ボルファスおじちゃん、いつもいろんな品物を運んでくれていてありがとう」
「んっ、? どうしたセイル、いきなり?」
「いつもこんな魔物に襲われたりしないか心配しながら、荷物を運んでくれているんだなあと思って、お礼が言いたかったの」
「そうか。そうか。ありがとよセイル。ランス、お前の息子は小さいのに聡くて良い子だな」
そういってボルファスおじちゃんはボクの頭の上に大きな手を伸ばしてワシャワシャと撫でてくれた。
とは言っても荷馬車の上で不安定だし、ボルファスおじちゃんの力も強いので頭がグワングワン揺れる。
嬉しいけど、ちょっと気持ち悪くなりそうだ。
「そうだろ。なんていったって俺の息子だからな」
手綱を握りながらランスお父さんが自慢げに言う。
「セイル、せっかく母親似なんだから、そのまま育てよ」
「おい、ちょっと待て、そりゃあどういう意味だ」
ランスお父さんが振り返って抗議する。
暇潰しなのか、ここ数日恒例、ボルファスおじちゃんのランスお父さんいじりが始まった。
ランスお父さん、余所見運転禁止。
「セイル、覚えておけ。こういう旅路で魔物よりも怖いのは、野盗なんかの人間だ。この辺りは魔物が出るようになってから野盗連中はいなくなったみたいだが、直接的に襲ってくる魔物より、待ち伏せしたり、罠を貼ったり、変装して騙そうとする人間の方が旅路では遥かに質が悪い」
「ふ~ん、分かった!」
「よしよし、素直で良い子だ」
そんな感じでしばらくいつものようにのんびりと進んでいく。
「セイル、そろそろスロクラの町が見えてくるころだぞ」
ボルファスおじちゃんの声にボクは荷台の前方を見やる。
道の先が緩やかな上りになっているようで、道の左右の木々と合わせてまだ何も見えてはいない。
しばらく、前方を眺めていると、徐々に町らしきものが見えてきた。
「おおっ! うわあああっ!」
徐々に頭の上から見えてくるような感じで現れた町は町をぐるりと石の城壁に囲まれた、何ていったらいいんだろう、重厚感のある町だ。
その周りは開けていて畑になっているので見通しはすごく良い。
「すごい!」
城壁に囲まれている町なんて、前世じゃまず見ることがないし、この光景はなかなかに圧巻だ。
その一角、まっすぐ行った道の先に大きな門があり、その前には町に入るための検問待ちか、そこそこ馬車や人の列ができている。
もしかしたらこの世界では一般的で、それなりに大きな町は皆、こんな感じのちょっとした城塞都市のような感じになっているのかもしれないけれど。
(まさにファンタジー!)
「こりゃあ、かなり待ちそうだな。セイル、降りても良いが、あまりウロチョロするなよ。人攫いがいないわけじゃないからな」
「あい!」
いるのか人攫い!
まあ、前世だって、大都市でもいないわけじゃなかったからな。
前世、テレビで外国の大都市の街にあった横断歩道の信号待ちをしている母子の前に突然男が現れて小さな子供の手を引っ張り連れ去ろうとした映像を見た時はこんな街中で起こるんだと衝撃を受けたものだ。幸い、その時の親子は母親が抵抗したため、男が逃げ出して難を逃れていたが、しばらく妹たちの心配をしていた思い出がある。
防犯カメラがあってもあれだもんな。
それにしてもいろいろな人がいるな。
ボクたちと同じように荷馬車に荷物を載せている商人風のおじさんや何人かのグループで弓や剣を背負っていたり、大きな杖を持っていたりする男女の集団。
あれが、話に読んだ冒険者かな?
ほかにも一人で荷物を背負っている年配の女性やボクよりは大きいけど、子ども連れの親子なんかもいる。
そうやって、ボクが辺りを見渡していると前方で何やら人だかりができていた。
「んっ? あれっ? なんか列の前の方が騒がしいな」
ボクは興味を魅かれるまま、人だかりの方へと近づいていった。




