40 エン曲
40 エン曲 (えんきょく)
「ギルドって強い?」
子どもっぽく言ってみる。
こうやって抽象的な表現をしてると、大人は結構丁寧に教えてくれたりすることがある。
クリアお母さんもランスお父さんもケスバ村のボルファスのおじちゃんもそういうタイプだった。
サーベニアさ……お姉ちゃんも同じ匂いがする。
「う~ん、ギルドは人の名前じゃなくてね、たくさんの人が集まる所で、そこでお仕事を探す場所なのよ」
ふむふむ、まあ、大雑把な言い方だけど、小さい子供向けならこんなもんだよね。
でも、もう少し詳しい話が聞きたいところではある。
「何て言ったらいいのかしら……」
サーベニアお姉ちゃんは幼児にどうやって教えたらわかりやすいかを思案しているようで、自分の唇に人差し指を当てながら考えている。
美人だけど、仕草がとても自然で可愛らしい。
『サーベニアよ、セイルは小さくても聡い子じゃ。喋り方は子どもっぽくとも、普通に話をしても、よほど難しくなければ理解できるはずじゃ』
そこに葛藤していたはずのエストグィーナスお姉ちゃんが戻って来たらしく、ボクの後押しをしてくれる。
エストグィーナスお姉ちゃん、ナイスアシスト!
「えっ、そうなの」
サーベニアお姉ちゃんが、少し驚いたようにクリアお母さんとランスお父さんを見やった。
「ええ、大丈夫ですよ」
「うちの子は賢いからな」
二人ともニコニコしながら答える。
って言うか、その反応は唯の親バカだよ。
「じゃあ……クリアちゃんとランスくんは別の国のギルドに入っていてね、そこからこの国のギルドに移らせてほしいとお願いされたの。そうしないと何処に誰がいるか分からなくなって困るでしょ?」
それでも半信半疑なのだろう、微妙にさっきの話を噛み砕いたような言い回しで話を続けてくれた。
「あい!」
「サーベニア、ランス君はセイルの前ではちょっと」
ランスお父さんが、口元に拳を当てて苦笑交じりに言う。
まあ、気持ちは分からないでもない。
ぼくも前世、妹たちの前で子ども扱いされると恥ずかしかったし、それが我が子の前だと余計だろうな。
「じゃあさ、サーベニアお姉ちゃん、ビーって強い?」
続けて質問していこう。
「ビー? ああ、Bランクのことね」
サーベニアお姉ちゃんは一瞬何のことだか分からないような顔をしてから理解したようで確認してくる。
「うん、ランスお父さんとクリアお母さんはBなんだって!」
「そうね。強いわよ。上から数えて2番目だもの」
んっ? 2番目?
普通、ファンタジー系ラノベ小説だと「A」の上に「S」があるのがお決まりだから、上から数えて3番目だと思ってたけど、そうじゃないのかな?
「S」の意味は気にしてなかったけど、多分「特別な(SPECIAL)」や「最高の・一流の(SUPER)」あたりの頭文字「S」だとおもうんだけど、まさか「すごい」の「S」じゃないよね。
単語のスペルは多少違うにしても、この世界にも似たような単語はあるし。
なんて考えてないで確認してみようか。
「じゃあ、エスってつよい?」
「エス? Sね。えっと。文字を覚えてる途中なのね? ランクはAからGまでなの。Sははじめから数えて20番目くらい……ずっと後でしょ?」
「あい!」
ほほう、Sはないのか。
『んっ? セイルは文字を全部覚えているはずじゃろ。どうしたのじゃ?』
あわわ、まずいかな?
とりあえず誤魔化そう。
「じゃあ、ランスお父さんとクリアお母さんはものすごくつよいんだ!」
「そうね、う~ん、細かく言うと、AとBの中にはAが二つとか、Bが三つとかあってね」
「サーベニア師匠、それはギルドの内々のことで」
クリアお母さんが少し慌てたように話を止めようとする。
「いいじゃない、特にギルドだって隠しているわけでもないし。あっ、でもセイルくん、一応内緒ね」
ボクに向かって悪戯っぽく唇に人差し指を立ててからその指をボクの唇に当てて言うサーベニアお姉ちゃん。
なるほどね。
この世界のランクの格付けは保険会社の信用格付けに似ているのか。
BBとか、AAAとか。
ボクにとっては馴染みがある分しっくりくるな。
Sって言い方ボクにとっては何となく違和感があったんだよね。
文字順にランクを決めているのに、それより上にSが来るのって、ちゃんとした評価ができていないようで。
それまでの評価を超えるのであれば、範囲内でAならAが増えるとか、+になるとかの方が、読んでいて良い気がしてたんだ。
まあ、これに関しては人それぞれの考えなんだろうけど。
「ボクもランスお父さんやクリアお母さんみたいなぼうけんしゃになる!」
「おおっ、流石俺の息子!」
ボクは右手を天に高く突き上げ言う。
「うんうん、15歳になったらね」
「15さい?」
「そう、基本は15歳から冒険者になれるのよ」
「ボク、大きくなったらぼうけんしゃになる!」
サーベニアお姉ちゃんたちが温かい眼差しでボクを見つめていた。
「それで、行くのは構いませんよ。ただし、あくまで移動の報告の登録だけですからね」
それから子供の話が落ち着いたと見たのか、クリアお母さんは話を本題に戻し、こちらの国、クィータ王国での登録に関して気にした様子もないようで登録の話をあっさり了承した。
「ほんと、良かった!」
サーベニアお姉ちゃんは嬉しそうにボクをギュッと抱きしめる。
うん、ちょっと苦しいけど柔らかい。
「で、サーベニア師匠」
不意にクリアお母さんの雰囲気が変わった。
「セイル君に何処に誰がいるか分からないと困るって言いましたよね」
「えっ、ええ」
その雰囲気に圧されてなのか、サーベニアお姉ちゃんが息を飲む。
「それじゃあ、もちろん、倉庫の整理もしないと、何処に何があるのか分からなくて困りますよね」
ニッコリとした笑顔。
にも拘らず、何とも言えない迫力がある。
ちょいちょい愚痴ってたもんね。
「そっ、そうね」
「ここにいる間に倉庫のお片づけをしましょうね」
うん、これは、逆らい難いお母さんの笑顔だ。
「……登録から帰ってきてから、間をみて整理するので良いかな」
サーベニアお姉ちゃんが口をひくつかせながら答えた。
子どもか。
やっぱり、クリアお母さん最強だな。
それにしても。
おっ、これは!
もしかして近いうちにケスバ村以外の町に行けるかもしれないということか?




