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36 エン方より来る

36 エン()方よりきた


 倉庫にネットスーパーの福引で手に入れた商品を置きに行って、誤ってそこに置いてあった荷物を崩してしまい、一応中身が壊れていないか一通り崩れた荷物を確認しながら元に積み上げていく。

 幸い、そんなにたくさんじゃなかったし、中身も壊れた様子はなかったのでホッとする。

 まあ、ほとんどが何に使えるのかが分からない品物ばかりだったけれどね。

 今度、クリアお母さんと一緒に聞きながら片づけをして調べてみたいものである。

 さてと、用事は済んだし、そろそろルーたちの手合わせも終わっている頃だろうから、ルーと一緒に森で遊ぼうかな。


   ◇


 ボクとルーは森に出てけまわって遊んでいる。

 この前のアルマジラットの群れの襲撃以降、ルーはボクの呼びかけで地上に姿を現わしてくれるようになった。

 ただ、ボクみたいな幼児が精霊と深く関りがあると知れると、あまり良くないらしく、村中でルーを呼ぶのは控えるようにクリアお母さんとランスお父さんには言われている。

 村の人たちがどうのというのではなくて、その噂が広まって、悪い人たちがボクをさらいに来るかもしれないということだった。

 人の口に戸は立てられぬということなのだろう。

 クリアお母さんは小さい子に分かりやすく言ってくれてたけど、まあ、ある程度は想像ができる。

 前世で入院中に、双子妹たちが病室に持ってきてくれていたラノベにも、そういった話はいくつかあった。 

貴族とか、商人とか、闇組織とか。

 そのため、この間のアルマジラットの群れの襲撃の時のことはボクのお守りにクリアお母さんがエストグィーナスお姉ちゃんに頼んで呼んでおいてくれたことになっている。

「もしかしてセイルくん!?」

「へっ?」

 クラードの森の中。

 カンガーゴイルのルーと遊んでいたら、急に頭の上の方から声がした。

 ふと、振り返って見上げてみると、太い木の上にベージュ色のフード付きの外套がいとうを来た人が立っている。

 光の関係でフードが影になって顔ははっきりとは見えないけど、声の感じと、外套がいとうの開いた前から見える緑系統の短めのスカートのような服装から、若い女性であることが推測できる。

 誰? まさか、人さらい!?

 今、考えていたばかりだから、全身に緊張きんちょうが走る。

 それにしても、そのスカートのたけで木の上に立つのはやめた方が良いと思うんだけど。

 我ながら緊張している割には相変わらず緊張感のないことを考えているなあと思っていると。

「うわあ、やっぱりそうよね!」

 ボクが振り返ったのを見て、次の瞬間には大きな歓声を上げて、木の上から軽やかに飛び降りてボクの元へと走り寄ってきた。

 はっ、速い!

 そんな感想が頭の中に浮かんでいる間に、ひょいッと持ち上げられ、抱きかかえられてしまった。

「可愛い! 可愛い!」

 えっ! えっ!

 僕は呆気にとられ目を丸くしたまま女の人に抱きかかえられて、なすがままの状態になって硬直してしまっていた。

 ギュッと抱きしめられ、頬をスリスリされて、あったかくてやわらかくて汗の中にも落ち着く香りがするのだけれども、絶賛、訳が分からず混乱中です。

『下ろしてやらぬか、セイルが驚いて目を丸くしているではないか。まあ、その表情が可愛いのは認めるがのう』

 聞きれた声。

 エストグィーナスお姉ちゃんの声だ。

 地面の辺りから声がした後、突然砂が盛り上がり、まるで映像が逆再生していくかのように人の姿が形作られていく。

 ……エストグィーナスお姉ちゃん、表に出られたんだ!

 てっきり引きこもりかと思ってたけど。

「あら、エストグィーナス、久しぶり! ただいま。それにしても、地上に出てくるなんて珍しいわね。百年ぶりくらいかしら?」

 ボクと同じような感想を持ったのか、この女の人も似たようなことを言っている。

 んっ?

 久しぶり?

 ただいま?

 もしかして知り合い?

 それにしても百年ぶりくらいって。

『別に引きこもっていたわけではない。出る必要がなかったから出なかっただけじゃ。それより、いい加減フードを外して顔を見せて挨拶したらどうだ? セイルが驚いて固まったままじゃぞ』

「あらっ?」

 エストグィーナスお姉ちゃんの言葉に、やっと気が付いてくれたのか、抱っこしていたボクを持ち直し片手で抱えると、かぶっていたフードを後ろに跳ね上げた。

 その中から出てきたのは緑色の綺麗な長い髪と、よく前世の小説で笹耳ささみみしょうされていた長い耳だった。

 エルフだ!

「初めましてセイルちゃん。わたし、サーベニア。よろしくね」

 初めて見るエルフだ。

 この人が、クリアお母さんとランスお父さんの冒険者仲間で、クリアお母さんの魔法の師匠で、尚且なおかつボクたち家族が管理している家の持ち主のサーベニアさん!

 確かにランスお父さんが言っていた通り、物凄い美人だ。

 けど、ボクが持っていたエルフのクールな感じの美しさではなく、芸術的な美しさの中にもどこか親しみやすい印象を与える雰囲気を持っている。

 とにかく、なるほど、第一印象から魅力的な人だと思う。

「エストグィーナスはセイルちゃんと顔合わせしてたのね」

 ボクがそんな感想を思い浮かべている間も話は続いていたようだ。

『うむ、少し前にのう』

 いや、少し前って。

 もう2年くらい前になると思うんだけれども。

 エストグィーナスお姉ちゃんにとってみれば、2年前くらいならつい最近なんだろうな。

 こういう所々にしばしば人と精霊の感覚の違いっていうものが出てくるんだなあとしみじみ思う。

「そっか、それもそうよね。それじゃあ、いつまでもこんな所で立ち話もなんだから、家に行きましょうか」

 そう言うと、サーベニアさんはボクたちの家へと歩き出した。

 ……ボクを抱っこしたまま。

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