34 幼き深慮エン謀 (しんりょえんぼう)
34 幼き深慮エン謀 (しんりょえんぼう)
自分の能力『ネットスーパー』のコーナー? 一つの能力? の《教えて! パスティエルちゃん》の中に『福引き』という項目が現れた。
そのままではいつもの文字通り指を咥えて見ているだけでどうにもやりようがないイベント告知に過ぎなかったが、今回は福引き券を3回分つけてくれていた。
いやあ実際、ちょっと前までは本当に指を咥えてみてたんだけどさ。
……今はしてないからね。
ほんとだよ。
しゃぶる程度で……。
仕方ないじゃないか!
よく前世で、妹双子たちが病室に持ってきてくれていたラノベ小説に「前世の年齢+今の年齢だから」という記述があったけど、確かに経験の蓄積という面でいうならその通りだと思う。
だけど、今の転生したこの身体にはこの身体の形成というものがある。
ゆえにまだ身体の精神の構築がなされているわけじゃないんだから、自然とこの身体の年齢的な感覚に引っ張られてしまう。
そりゃあ、ラノベ小説に書いてあったように、多少は前世の記憶を引き継ぐため、精神構造にも影響を及ぼしているんだろうけれども、基礎の部分はこの新しく生まれ変わった身体なんだから、行動や言動に幼さが出るのは仕方がないと思うんだ。
……。
えっと、なんか言い訳っぽかったけど、一応は救済してくれる気がありそうだな、あの薄紫髪ツインテール少女神。
神の救済、福引券3枚……。
もう少し、救いの手を!
って、心で叫んでみても、異世界だし、見てはいないんだろうけどさ。
その割には時折妙なタイミングの良さを感じるんだけれども。
っと、いけない。
気を取り直して。
では、早速チャレンジ!
結果は。
6等賞のポケットティッシュ2つに5等賞のトラベルグッズセットが一つ。
まあ、土の上位精霊であるエストグィーナスお姉ちゃんの加護のおかげで少し運が上がっているとはいえ、分野が違うわけだし、ボクのクジ運なんてこんなものでしょ。
前世もくじ引きに関しては年の離れた双子妹たちに任せてたし。
自分で引いてもポケットティッシュや駄菓子ばかりだもんな。
保険会社に入社した時の初めの忘年会ではお客様まわりで引いてもらうハズレ(無し)のクジの粗品用ボールペンだったし。
あっ、駅前で女の子が配っているクジで携帯端末が当たったことがあったっけ。あと、ケーブルテレビの受信器も……通信や受信の契約が主目的だったので、丁重に辞退したけど。
さて。
これらをどうするか。
とりあえず、持ちやすいように一つにまとめるため、ポケットティッシュ2つもトラベルグッズセットの入っているビニールポーチに入れることにした。
それから僕はビニールポーチを抱えたまま、暫し呆然と立ち尽くす。
以前の完全なる赤ちゃんの時に前世地球の品物が出てきたらどうする事も出来なかったのでどうしようかと思ったが、今は一応持って移動することが出来る。
あの時の砂糖一袋1kgが購入できていた場合だと、今のボクでも持ち上げて移動するのは大変かもしれなかったけど……身体能力は高めにしてくれているみたいだし、意外といけたか? 流石に米一袋10kgは無理だけどね。
うーん、隠すにしても、子どもの子の身体からするとそれなりに大きいので何処に隠しておくべきか?
ボクの部屋に隠しておいてもすぐにクリアお母さんに見つけられてしまうだろうし。
ベットの下は前世で年の離れた双子妹たちに見つかっているしダメだな。
大学生の頃の百科事典のケースや専門書のブックカバーの架け替え、Dドライブのレポート用フォルダも、あっさり見破られたし……。
いくらこの家がそこそこ広いとはいえ、まだ背の小っちゃいボクの手に届く範囲はそれ程広くはない。
良い隠し場所わないか、もう少し考える時間が欲しい所かな。
とはいえそんなにいつまでもここに置いていることもできないし。
あまり深く考えて来なかったけど、いざ、手に入ると、妙に現実感が増してきて、それに伴って問題点や不安要素が次々と浮かんでくる。
まあ、そんなもんか。
プロジェクトが進んで行き、皆で考え抜いたにも関わらず、いざ本番運用になると思わぬトラブルが持ち上がってくるなんて言うことはよくある話だ。
ボクは辺りをキョロキョロと見まわしてみる。
今、リビングのお気に入りの場所にはボクだけ。
これを持って移動するにも、どこかに隠しておくにしても、このままでは目立ってしまう。
見つからないようにするには……。
一先ずはこれを入れておくための何か空き箱を手に入れよう。
空き箱、空き箱っと。
ボクは一旦トラベルグッズセットのビニールポーチを棚の隙間に隠して空き箱を探し始めた。
「クリアお母さん、空いているハコある?」
ボクはキッチンへとトコトコと駆けていき、キッチンで野菜を切っていたクリアお母さんに何か空いている箱がないか尋ねてみる。
「セイルくん、空き箱? あるけど」
クリアお母さんは野菜を切る手を止め、手を拭いてからボクの方へ向き直った。
「一つちょうだい」
「いいけど。どのくらいの大きさが良いの?」
「うんとね、このくらい」
ボクは腕を大体の大きさに広げて見せた。
「何いれるの?」
それを見てクリアお母さんはニコニコしながら手ごろな箱がないか探し始めてくれる。
「な~いしょ」
「ええ、お母さん、知りたいなあ」
そういいながら戸棚の上からボクでも持てそうな手ごろな木箱を取ってくれた。
「ダメ、ないしょ」
「ふふっ、ざ~んねん。はい、これ」
ちょっと残念そうにしながら同時に笑顔で空の木箱をボクの目線の高さにしゃがんで渡してくれる。
その優しい笑顔を正面から向けられると、隠し事をしていることに、ちょっと罪悪感を覚えてしまう。
この先、ランスお父さんとクリアお母さんに内緒にするかどうかは考えないといけない。
ただ、今クリアお母さんとランスお父さんに見せる訳にはいかないけれど。
一応それなりに日持ちはするから、一旦は隠しておいて、何れはタイミングを見計らってボクの能力に付いての件も含めて話すかどうか考えないとな。
特にあの薄紫髪ツインテール少女女神のパスティエルからも『転生のしおり』にも自分が転生者であることや特殊な能力持ちであることを周囲に言ってはいけないとは注意はなかった。
ただ、前世の入院生活中に双子妹たちが持ってきてくれたラノベ小説には前世の記憶があることや特殊過ぎる能力があることで、目立つことになりトラブルに巻き込まれる話が多かった。
確かにあれは架空の創造話かもしれないけど、向こうの世界でだって「前世の記憶があります」とか「特殊な力を持っています」なんて言ったら正気を疑われるだろう。
前世とは違い、魔法があるとはいえ、この世界だって同じ事だろうとは容易に想像が付く。
やはり、慎重になるべきかもしれない。
この先できるだけ目立たないようにしていこう。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ手遅れな気がするけど、この前のアルマジラットの件はノーカウントということで……。
「ありがとうクリアお母さん!」
「持ったまま走ると転ぶわよ」
「あい、大丈夫」
早速リビングに戻り、クリアお母さんが付いてきていないことを確認してから、隠してあったビニールポーチを空の木箱の中にしまい込む。
ネットスーパーで正式に購入した物ではないにしても、なんやかんや言って、初めての前世日本の品物だし、感慨深いものはあるな。
それが、前世では何ら大したことのないポケットティッシュや洗面セットだとしても……。
それが、ティッシュの袋に、デカデカと『残念賞』と書かれているとしても……。
んっ、あれっ?
そう考えると、さっきのクリアお母さんとのやりとりって。
なんか双子妹たちの行動で思い当たることが。
あっ!
あれは小さい子が、石ころとか木の実とかを拾ってきて自分だけの宝物をしまい込む行動を温かく見守る母親の図ではないだろうか?
……。
ああああっ!
気付いてしまうと、ちょっと恥ずかしい。
この身体に精神が引きずられているとはいえ、床に寝転がってバタバタと転げまわりたい衝動に駆られる。
とっ、とにかくだ。
何かいたたまれない気持ちになるので、一刻も早くここから離れよう。
「エストグィーナスお姉ちゃんのところに行ってくるね!」
「夕食までには上がって来てね」
「あい!」
ボクはキッチンにいるクリアお母さんに声だけかけて、そそくさと地下へと向かうのだった。




