29 後始末 エン会
29 エン会
一難去った後は恒例? の、村の人達による魔物からの素材回収タイムである。
相変わらず、この世界の人達は逞しいと思う。
けが人もそれなりに出ているだろうに。
幸いなことに死者は無く、撃ち身や打撲がほとんどだったようだ。
だが、数人が手や肋骨を折っている。
ボクは当初、多少の危険はあるものの、何処か前世の映像でみたことのある害獣駆除のようなものだと思い、それ程の危険があるとは考えていなかった。
まあ、その考え自体が甘かったんだろうけど。
映像ってどこか他所事って感じが強いし、実際カメラマンが現場にいてもレンズ越しになると恐怖感が薄れるという話をしていたのを思い出す。
現にジャンさんに至っては頭にアルマジラットの体当たりをまともに受けてしまって昏倒してしまったようだが、村の医療に心得の有る人、ルーグハルトさんの話では命には別状ないそうで、しばらく安静にしていれば起き上がれるらしい。
ちなみに、この世界では治療する魔法というものもあるそうで、主にこの世界の神様方を崇める教会に属する人達や精霊と契約を結んだ者たちが使うことが出来るらしい。
クリアお母さんは系統魔術という、また別の魔法だそうで、学園で学んだり師匠となる人に師事したりして学ぶとのことで、治療系は納めていないらしい。
というか、この世界にも学園があるんだな。
てっきり、精々あっても私塾とか日本の昔の寺子屋とかみたいなものが存在するくらいかと思ってた。
まあ、学園と言っても、前世の日本みたいに一つの町に幾つもの学校がある訳でもなさそうだし、両方が両立しているといったところだろうな。
んっ、? 精霊と契約した者って? もしかして加護を受けたボクも将来的には治療魔法を使えるようになるのではないだろうか?
帰ったらエストグィーナスお姉ちゃんに聞いてみることにしよう。
閑話休題。
……この言葉、一遍使ってみたかったんだ。
意味としては「それはさておき」とか、「兎も角」とか、「さて」とか解釈されている言葉で、本題を離していて、ついつい横道にそれそうになったり、本題から完全に脱線してしまった話を本題に戻す時に使われる言葉となる。
前世でボクが病床に伏した時、ボクの妹双子姉妹たちが病室に持って来てくれていたラノベにちょくちょく出て来た言葉なんだけど、あまり馴染みはない言葉で読み進めていて、この言葉が出てくると、「作者が使いたかったのかな?」と思っていた言葉だ。
ボクも実生活では前世で保険会社に入社したての会議で年配の上司が一度だけ使ったのを聞いただけで、その時は「いきなり変な用語が入ってきた」と思ったものだ。
音の響きが、なんか印象的だったので覚えていたけど、実際の場に使う人は多分相当少ないんじゃないかな?
まあ、社会人生活もそんなに長くはなかったけど……。
閑話休題。
ボクたちは今、なんとかケスバ村の人たちだけで無事にアルマジラットを駆除することが出来たと言う事で、村を上げての「お疲れ様宴会」に突入しようとしていた。
一段落付いたところで、ちょっとした宴の準備になっていく。
簡単な労をねぎらう打ち上げみたいなものだけど、娯楽の少ない田舎の村ではこういったイベントも村を上げての大騒ぎとなる。
一応、この後も麦などの収穫を終えれば『収穫祭』というお祭りが控えてはいるが、それが終わってしまえば冬に向けての準備が始まり、春が訪れるまで村を上げてのイベントはないため、騒げる機会があれば騒いでおきたいというのが本音のようだ。
「皆、お疲れ様。今宵はアルマジラットの駆除作業の労をねぎらうのとこれからの収穫への英気を養う為に楽しんでくれ。それじゃあ乾杯!」
「「乾杯!」」
ケスバ村の村長の乾杯の音頭を皮切りに皆の乾杯の声が唱和する。
「駆除が終わったことに、乾杯!」
「小さな勇者に乾杯!」
「いやあ、いきなり大群で襲ってきた時はどうなるかとおもったけど、なんとか怪我人だけで済んでよかった」
「ジャンのヤツも少し大人しくしていれば元通りらしいし」
「さっき様子を見に行ったら、酒が飲めないのが一番つらいってぼやいてたぞ」
「「あははははっ」」
それからは思い思いの乾杯の言葉を叫んでから木杯をぶつけ、酒や食事に手を伸ばしつつ、談笑に華を咲かしている。
ボクもランスお父さんの隣で搾りたてのミルクを貰って両手に抱えて飲んでいた。
アルマジラットの肉も食べることが出来るらしく、50匹を軽く超えるアルマジラットの肉は解体して一部は今回の宴に使われることになっていた。
ボクも一つだけサイコロ型に斬って串に刺して焼いたものを食べさせてもらう。
意外に柔らかい。
と、思ったんだけど、弾力が合って2才児には噛み切り難い。
まだ、歯が全部生え揃っていないんだよ。モゴモゴ。
ボクが口の中で焼き鳥ならぬ、焼きアルマジラットに苦戦していると不意に後ろから声が掛かった。
「ねえねえ、あたち、大きくなったらあなたのおよめさんになってあげる」
振り返って見ると、そこにはさっき一緒に遊んでいた子たちの中の3才か4才くらいの女の子が目をキラキラさせてこっちを見ながら立っていた。
「あっ、わたしもなってあげる!」
それを聞き付けて、少し離れた子がパタパタと混ざってきた。
えっと、何と言うか……おませさん?
まあ、こういうのはすぐ忘れるだろうけどね。
前世の年の離れた双子妹たちもこのくらいの時にお父さんやボクに同じような事をいっていたしな。
お父さんは物凄く感激してたのをよく覚えている。
その後、小学生くらいになってお父さんがその話を持ち出したときに「覚えてない」とか「すでに時効」とか言われてショックを受けてたけど。
「流石は俺の息子だ!」
それを見ていたお酒の入った杯を片手にランスお父さんが笑う。
て言うか、こういう場面って何故か誰かしらタイミングよく見てるよな、まったく。
「俺の危惧していたことが起こったか。2才にしてすでに手遅れとは。ランス以上だな」
前世のジョッキのような大きな木製の容器を煽りボルファスさんがわざとらしい溜め息を付いて見せた。
「当然だ、なんてったって俺の息子だからな。リックも負けてられねえな」
「うるせえ! 絡み方が鬱陶しいぞ。その自慢の息子の前で醜態をさらすな」
ランスお父さんがリックさんの肩をバシバシ叩くと、その手を大袈裟な動作で振り払って文句を言った後に笑顔で杯を呷るリックさん。
うん、完全に酔っ払いが子供を酒の肴に遊んでいやがる。
女の子たちが赤ちゃんのボクの頭を撫でながらキャーキャー言っているのを横目に、クリアお母さんをみると村の奥様方に交じって世間話や亭主の愚痴を言い合っている光景が目に入って来る。
腕にボクぐらいの赤ちゃんを抱いている母親も何人かいる様だ。
昼間走り回っていた時はボクより年上の子しかいなかったけど、あまり村に来ていないから知らないだけで、同じ位の赤ちゃんも何人かいる様だ。
同じ赤ちゃんがいるとはいえ、あっちはあっちで女性の世界なので赤ちゃんと言えども下手に首を突っ込むことは避けた方がよさそうだ。
ボクは空気が読める2才児なのだよ。
少し離れた所ではカンガーゴイルのルーが微動だにせず立っていて、子供たちの良い遊具になっていた。
身体によじ登られたり、シッポに跨られたり、袋の部分に入られたり、伸ばしたままの腕にぶら下がられたりしている。
今日はちょっとだけ我慢してねとお願いしたんだけど、ルーは快く引き受けてくれた……と思う。多分。
そんな感じで、賑やかに宴は続き、夕暮れから夜になっていった。
◇
翌日。
麦畑を見回った後、自警団の数人とランスお父さんでゼバスの森のアルマジラットの巣が確認されたという場所を捜索し、数匹のアルマジラットを狩って戻ってきた。
昨日、50匹以上と今日残りのアルマジラットを駆除したことにより、一応のアルマジラットの駆除作業は終了となるそうだ。
<あとで2・3匹位は出るかもしれないけど、それくらいなら村の人達でだけでも対処することはできそうだという。
それにしてもとランスお父さんとクリアお母さんは言う。
去年あたりから魔物の数が少しずつ増えてきている気がするそうだ。
見回りしても目立った変化はない為、たまたまなのかもしれないけど、何か引っかかるみたいだ。
ここで冒険小説なら、これを予兆として、この後の展開を期待するのだろうけど、日々の生活の中、そんな急展開はまだ赤ちゃんの身体のボクとしては望みたくない物だ。
兎にも角にも、これで今回のアルマジラットの駆除作業は終わりとなり、ボクとクリアお母さんとランスお父さんはクラードの森へと帰ることとなった。




