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24 エン続き

24 エン()続き


 エストグィーナスお姉ちゃんが、ボクが乗るために作り出してくれた石像はカンガーゴイルのルーという、ボクが前世で良く見知っていた形の動物だった。

『カンガーゴイルのルーじゃ。ここに袋のような場所があってな。本物なら子供を入れて移動するのじゃが。どうじゃ、これならセイルを乗せても安心じゃろ』

 そこは丁度ボクくらいの赤ちゃんがスッポリ入るくらいの隙間があって、ボクはその中に降ろされた。

 うん、知ってる。前世でオーストラリアに生息している有袋類ゆうたいるいのカンガルーにそっくりだ。動物園で妹達と見に行ったことがあったし。

 って、ことは、いるんだ。この世界。カンガルーが。

 それはさておき、

「凄いね、エストグィーナスお姉ちゃん!」

『そうじゃろう、そうじゃろう』

 この地面から盛り上がってきて土で形作られる光景はいかにも魔法って感じで、何度見てもワクワクする。

 自分でも密かにコツコツと魔法の勉強を続けていたんだけど、魔力量が多くなるとか、魔法の威力が上がるとか、魔法の継続時間が伸びるとか、なかなか上達しないもんだ。

 まあ、当たり前で、日ごろの努力が大切なのも良く分かってる。

 それは兎も角、なんと! 現在ボクは土の精霊魔法を少しだけど使うことが出来るようになっている!

エストグィーナスお姉ちゃんに土の上位精霊の加護を貰ってからしばらくして、ボクが魔法が上手に使えるようになるにはどうしたらいいか聞いてみた所、

『んっ? セイルはすでに土の精霊魔法なら多少は使えるようになっておるぞ』

 と、あっさりした答えが返って来た。

 思わず、エストグィーナスお姉ちゃんを見上げて「えっ!?」って、疑問を投げかける様な間抜けな叫びを返すと、

われの加護を授けたと言ったじゃろ。加護には守りの他にもその属性の魔法の適正付与や向上、それによる多少じゃが全体的な運気の上昇などさまざまな恩恵を与えることができるのじゃ』

 と、エストグィーナスお姉ちゃんが胸を張ってどや顔を返して来た。

『そういえばセイルはここに始めて来た時に属性魔法のライトボールを使っておったな』

「あい」

『大したものじゃ。その年で魔法の補助具もなしに、人の子が短いながらも初級の魔法を使えるとは。セイルは今から学べば将来、大魔導士になるのも夢では無いやもしれんのう』

 流石にそれは言い過ぎかと思うけど、なんかボクの周りって親バカ……姉バカばかりな気がする。

 とは言え、今から学べばかあ。

「エストグィーナスお姉ちゃん、ボクに魔法を教えて」

 うるうるした目でお願いしてみる。

 これは前世のうちの双子妹たちの必殺技……通常技であった。

『う~ん、そうかそうか、セイルは魔法が上手に使えるようになりたいのか』

「あい!」

『よしよし、属性魔法はクリアに習うとして、精霊魔法を教えるとしようか。きっと、属性魔法にも役に立つはずじゃ』

「あい! ありがとうエストグィーナスお姉ちゃん!」

 こうしてボクはエストグィーナスお姉ちゃんから精霊魔法の手ほどきを受けられる事になった。

 それから数か月経っている。

 ってなわけで、今の「凄い」はエストグィーナスお姉ちゃんが魔法が使えることへのあこがれではなくて、高度な魔法を簡単に使いこなせるエストグィーナスお姉ちゃんへの尊敬の「凄い」である。

「ガーゴイルって魔物?」

 現れたカンガーゴイルのルーの袋の中から、ルーを見上げながらエストグィーナスお姉ちゃんに疑問に思った事を聞いてみる。

『うむ、難しいところじゃの。大部分のガーゴイルやゴーレムと呼ばれる物はその内に魔核が埋め込まれて、それを中心として作られておる。じゃが、そうでない物もおる』

「ガーゴンみたいの?」

『そうじゃ。ガーゴンは中級に成りたての精霊を、われの力で具現化した存在じゃ。精霊は本来、通常では人には見えぬでな。われのこの姿も自分で具現化したものなのじゃ』

「ルーも?」

『そうじゃ』

 精霊って改めて凄い存在なんだな。

『もともとガーゴイルは遺跡や建物にあって、外敵を外へと吐き出すために神や魔が作り出した。ゴーレムも似たようなもので雑用をさせるために作り出したようじゃ。場所によって呼ばれ方や元の素材も様々じゃがのう』

「へえ」

 そういえば、ガーゴイルは石像しかイメージがないけど、前世、妹たちが持って来てくれた小説やゲームの中に出てくるゴーレムって、石だけじゃなく、木でできたウッドゴーレムや死体で作られたフレッシュゴーレム……うげっ、なんかもあったっけ。

『ルーよ。セイルを載せてその辺を走ってみるのじゃ』

 ボクを袋に乗せたまま、エストグィーナスお姉ちゃんの命令でカンガーゴイルのルーが少し跳ねるように動き出した。

 慌ててボクはカンガーゴイルのルーの袋の部分のへりつかむ。

 おおっ! すごい!

 何て言うか、男の子の憧れ、ちょっとしたロボットの操縦席に乗っている気分だ!

 なんとなく、幼い頃にゲームコーナーのバスや動物の乗り物に乗った時の間隔を思い出す。

 大枠では間違えていないのかもしれないけれど。


 ドスン! ドスン! ドスン!


 ガコンガコンとゆっくりとしたスピードで、広い神殿風の室内を一周してエストグィーナスお姉ちゃんの元へと戻って来た。

『こんどはセイルがルーを動かしてみるのじゃ』

「あい!」

 っと、思わずテンションが上がって、元気よく返事をしたのはいいけれど、エストグィーナスお姉ちゃんが出したこれをどうやって動かせばいいんだろう?

 操縦するところも無いみたいだし。

「どうすればいいの?」

『んっ、ガーゴンと同じじゃぞ。成りたてとはいえ、中級精霊じゃからな。話掛ければ良い。セイルの言う事は聞くように言ってあるからのう』

「ボクにできるかなあ?」

『セイルはすでに精霊と心を通わせておるぞ。じゃから、ガーゴンに話しかけるように自然に話せばよい』

 普通にガーゴンに話掛けていただけだけど、これって心を通わせていないと無理だったのか。

『人間が精霊と心を通わせられるようになるには才や加護、それを得られたり出会えたりする運などが無ければ無理じゃの』

「へえ、大変なんだね」

『土の精霊に関してはセイルは別じゃ。我の加護を授けてあるからのう。学べば精霊魔法も使えるようになるじゃろう。セイルは賢いからのう』

 そういってボクの頭を撫でてくれる。

「じゃあ、ランスお父さんとクリアお母さんの子供でエストグィーナスお姉ちゃんに出会えたボクは運が良かったんだね」

『それだけではないぞ。われの加護があるからのう。少しは運気が上がって、多少他の精霊とも出会いやすくなるかもしれん』

 エストグィーナスお姉ちゃんが少し顔を赤らめる。

 運気が少し上がってる? それって!

 もしかして、最近、ネットスーパーの能力で、ダブルアップのゲームが3連勝しやすくなっているのはひょっとして、加護で運気が上がったおかげ?

 それなら、5連勝ぐらいならいけるかな?

 そしたら、目標額の送料無料になる5000円以上(購入金額+消費税)に到達する日数が大幅に短縮することが出来る。

 今日はもうやっちゃったから、これは後で検証しなければ!

『ほら、セイル、やってみるのじゃ』

「うん、分かった。じゃあやってみるよ。ルー、もう一度この部屋を一周して。さっきより少しだけ速く走ってみて!」

 ボクがそうルーにお願いし、袋の端にあたる部分をしっかり掴むと、ルーは最初はゆっくりと軽く跳ねるように動き出した。

 そして、徐々に速度が上がっていく。

 うおおっ、跳ねる! 跳ねる!

『どうじゃ、セイル。楽しいか?』

 楽しいは楽しいんだけど、揺れが凄いな。

 カンガルーと同じ似たような生き物が原型なのだろうから、跳ねるのは当然なんだけどさ。

 慣れるまでが大変そうだ。

 ボクが純粋な2才児だと、無邪気に喜べるのかなコレ?

 でも、やっぱりこういうのは純粋に楽しい。

「ルー、もっと早く走って!」

 すると、ルーは一段階スピードを上げ、跳ね始めた。

 ……

 ……

 ……

「ううぅ~っ」

 で、調子に乗って何周もしていたら、当然の如く酔いました。

『セイル大丈夫かのう?』

「あい」

 ボクを覗き込んでくるエストグィーナスお姉ちゃんにボクは力なく答える。

 ボクは今、エストグィーナスお姉ちゃんに膝枕をされて、頭を優しく撫でられています。

 おでこに置かれたときの手の冷たさが心地いい。

 でも、しばらく動きたくないかな。

 まあ、あれだよ。

 大人だって、遊園地の乗り物のコーヒーカップではしゃいで調子に乗って、思いっきりハンドル回して回転させて気持ち悪くなってベンチでへばってるヤツいるだろ。

 あれだよあれ。

 分かってくれるよね。

 ねっ。

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