23 エン然 (えんぜん)
23 エン然 (えんぜん)
エストグィーナスお姉ちゃんと家の地下室? で、出会ってから、約半年たった。
ボク、2歳になりました。
それから、ボクはちょくちょくここに遊びに来て、エストグィーナスお姉ちゃんに文字を教えてもらったり、ドラゴン型のガーゴイル、ドラゴイルのガーゴンと遊んで貰ったりして過ごしている。
家の周りの森は一人では出歩けないので、行動範囲が広がるのは物凄く助かる。
流石に家の中だけだと、自我が確立している分、段々飽きてくるんだよね。
折角、今世では元気に身体を動かせるようになったんだし、いろいろ歩き回りたくなるのは仕方がないと思うんだ。
クリアお母さんは「あんまり走り回ると危ないわよ」っていうけど、どうしてもうずうずしてしまう。
そう言えば、ボクも前世、両親の代わりに年の離れた双子妹の面倒を見ていた時、同じようなことを妹たちに言っていたような気がする。
あの時は二人が別々の方向に走り回っていたから、追いかけるのに大変だったっけ……。
今また自分が小さくなって改めて自覚してしまうと、思わず苦笑してしまう。
解ってはいるんだけど、どうしても走り出さずにはいられなくなるんだ。
このウロチョロと走り回りたくなるのはきっと、赤ちゃんの衝動なんだろうな。
頭と体の重心のバランスが悪くて走りづらいのが難点だけどね。
何れ大きくなったら、この世ではいろいろな所を歩き回って見てみたいな。
で、話は変わるけど、現在のネットスーパーの獲得ポイントはと言うと。
* * *
『現在の獲得ポイント』
1254 ポイント
《OK》
* * *
まだまだ先は長そうだ。
だけど、何と無くこの頃3連勝出来る時が増えている気がする。
気のせいかな?
◇
とある日のお昼過ぎ。
ボクは最近、時々この地下遺跡でエストグィーナスお姉ちゃんとおやつを取っていた。
2歳になって、ちょっとずつだけど、普通の食べ物も食べられるようになってきている。
この世界の一般的かどうか、よそ様はどうか知らないけど、うちは一日朝夕二食で、昼にオヤツを昼食代わりに取っている。
今日は噴水の様な場所がある小学校の体育館ぐらいある部屋で食べることになった。
それにしても、この地下遺跡……住んでるんだから遺跡は変か? じゃあ、地下室は、一体どれくらいの広さがあるんだろうか?
通常遊んだり、昼寝したり、お勉強をしたりする部屋しか見ていないから、他は全然見ていないので予想が付かない。
エストグィーナスお姉ちゃんに聞けば教えてくれるだろうけど、何と無くこういう場所は自分で見てみたいと思う。これも冒険心ってやつかな?
『セイルよ、こっちにおいで』
エストグィーナスお姉ちゃんがボクを手招きする。
「あい!」
ボクは元気よく返事を返す。
「なに? エストグィーナスお姉ちゃん?」
ボクはパタパタとエストグィーナスお姉ちゃんの元に走り寄っていった。
『う~ん、お姉ちゃん……いつ聞いても良い響きじゃのう』
なんか、毎回だけど、エストグィーナスお姉ちゃんはボクの言葉を噛みしめながら頬を赤らめている。
そんなに感動する事だろうか?
自分が兄のときは……まあ、このくらいの歳の妹達から「お兄ちゃん」と言われるとやっぱり嬉しいか。
二人が、大きくなって途中から、何かねだられるときに言われることが増えて微妙だったけど。
「セイルよ、我の膝の上に座るのじゃ」
そういうとエストグィーナスお姉ちゃんはポンポンと自分の太腿を叩いて主張する。
「は~い、エストグィーナスお姉ちゃん」
ボクがエストグィーナスお姉ちゃんの所までいき、膝の上に乗るため太腿によじ登ろうとすると、エストグィーナスお姉ちゃんはボクの両脇に腕を入れてヒョイっと持ち上げてくれた。
「うんうん、セイルは可愛いのう」
エストグィーナスお姉ちゃんが、膝の上に座ったボクの頭をニコニコしながら、ゆっくり優しく撫でてくれる。
ちょっとくすぐったい。
それから、クリアお母さんが作ってくれた昼食をエストグィーナスお姉ちゃんと一緒に食べる。
今日のおやつはヨーグルトっぽいものだ。
最近、少しずつ食べられる物が増えてきた。
けどやっぱり、この世界の食べ物はちょっと微妙な感じ。酸味がちょっと強すぎるんだけど、味があまり感じられないというか、甘味が足らないというか。
エストグィーナスお姉ちゃんは食べても食べなくても良いらしいが、ボクが食べる時は一緒に食べてくれる。主にボクにスプーンで食べさせるのがお気に入りらしい。なんとなく気恥ずかしい。
……そのうち慣れるんだろうな。
「ほれ、セイル、食べ終わったらうがいじゃ。ガーゴンと一緒にやってみるとよい」
オヤツの後、土の高位精霊であるエストグィーナスお姉ちゃんがドラゴイルのガーゴンを床から作り出し、ボクの隣に立たせる。
今は身長1mくらいの大きさの二足歩行型のドラゴンである。
一番最初にガーゴンを見た時はボクの感覚で2~3メートルはあったと思うんだけど。
とても不思議な事だが、どうやらエストグィーナスお姉ちゃんが込める精霊力によって大きさや姿をある程度変化させることが出来るみたいだ。
流石は土の高位精霊。
ガラガラガラガラ
ペッ
隣でガーゴンも一緒になって口から水を吐き出す。
ガーゴイルって、水を吐き出せたのか!?
何て高性能? なんだろう。
……あっ、そう言えば、前世、ヨーロッパにあったガーゴイルの装飾は建物についている雨樋のような機構からたまった水を外に排出する為の排出口に施された飾りだったっけか? なんでも、家の中から外に悪い物を吐き出させるとかなんとか……。
そういった感覚が、お互いの世界に干渉しあって何らかの影響を残しているのかな?
確か、シンクロニシティーって言ったっけ?
「上手じゃ。上手じゃ。良く出来たのう」
エストグィーナスお姉ちゃんが、またニコニコとボクの頭を撫でて褒めてくれる。 やっぱり、なんとなく恥ずかしくなる。
そりゃあ、そうでしょ。
前世成人過ぎまで生きて、少しの期間だったけど社会人も経験した人間が、精霊様とはいえ、前世の妹たちくらいの少女のすがたをした子に赤ちゃん扱いされて嗽が出来たことを褒められているんだから。
いや、実際に今は赤ちゃんなんだけど。
こういう感覚は転生して半年くらい経ってから自我の意識を取り戻してクリアお母さんにあやされた時以来だな。
……多分、そのうちこれも慣れるんだろうな。
しみじみ、人間慣れってスゴいと思う。
◇
「ガーゴンに乗れたら楽しそうだなあ」
昼食後、図書室? に行って、ボクが竜騎士の英雄譚の本をエストグィーナスお姉ちゃんに読み聞かせしてもらっていた時、そこに書いてある絵を見ながら何気なく言ったボクの言葉に、エストグィーナスお姉ちゃんが反応した。
『そうか、たのしそうか! ……』
エストグィーナスお姉ちゃんが何やら考え始めた。
その隣でドラゴイルのガーゴンが「乗る?」と言うような感じでこちらを見ている。
「う~ん、もう少し大きくなったら乗れそうだけど、今のボクだと、ずっとつかまっているのは大変かなあ」
ボクがそういうと、
言葉が解るのか、何処と無くガーゴンが悲しそうな雰囲気を醸し出している。
あっ、なんとなく悪い事をしてしまった。
「ガーゴン、もう少しボクが大きくなったら乗せてよね。ねっ
ぼくが慌ててフォローをいれると、
ぶんぶん首を縦に振って応えてくれるガーゴン。
何処と無くシッポも嬉しそうに揺れている。石像のしっぽなのであれに当たったら物凄く痛そうだけど。
取り敢えず良かった。
機嫌が良くなったみたいだ。
機嫌、あるのかな?
『うむ、そうじゃなあ……』
その間もエストグィーナスお姉ちゃんは右手人差し指を右頬に添わせて考え込んでいる。
その仕草は高位の土の精霊様というよりは素直に可愛らしい少女の姿で、微笑ましく見えてしまう。
『セイルの乗れるようなガーゴイルか……おおっ! 良いのがおるぞ。!』
ボクがそんなエストグィーナスお姉ちゃんを眺めていると突然パッと表情が明るく輝くように変わった。
『よし! 祭壇の間に行こうか、あそこの方が広いしのう』
エストグィーナスお姉ちゃんは早速とばかりにボクを抱っこして、祭壇の間……始めて来た時に入った大きなギリシア神殿風の広間にやって来た。
一応、一人で歩ける距離なんだけど、エストグィーナスお姉ちゃんはボクを抱っこするのが好きみたいで、部屋を移動するときはよく抱っこされている。
やっぱりちょっと気恥ずかしい。
まあ、フカフカだからいいけど。
当然、ドラゴイルのガーゴンも後からついて来る。
ガーゴンが歩く時、石床と石像だから物凄い音がするかと思っていたけど、音はするにはするが、それ程大きな音でもないし、不快でもない。不思議だ。
』セイルよ、ちょっと待っておれ。今出して見せるからのう』
ボクを床に降ろし、祭壇の間の中央辺りまでいくと、エストグィーナスお姉ちゃんは手を地面に翳した。
ガーゴンと同じ様に床から砂の様なものが盛り上がってきて、やがてそれが徐々に形を成してくる。
そして、出来上がった形は……。
これって。
前世でも見覚えがある。
カンガルーだった。




