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18 エン柱祭・壇

18 エン()柱祭・壇


「う~ん、いろいろ物が置いてあって危ないから。ねっ、分かった?」

 クリアお母さんの言葉が頭を過る。

 が、

 これ、意味が違うだろ!

 いろいろ物が置いてあるからとは言っていたけど、即死コース一直線のトラップが置いてあるなんて、なんか違うだろ!?

 それとも、剣と魔法のファンタジー世界の物置って、どこの世界もみんなこんななのか!

 って、絶対違うよな。

 少なくとも地球の中世から近世にかけてのヨーロッパでこんなのが一家に一台流行っていたなんて話は残ってないはずだ。

 いくらなんでもこんなの一家に一台なんてノリであったら物騒過ぎる。

 はあ、はあ、はあ。

 一気に言い切った。

 少し冷静になったところで、 

 どっちにしろ、前に進むしかない訳で。

 ボクは元に戻った床を恐る恐る片足でツンツンとつついてみる。

 取りあえず、反応はない。

 次に、重心は残しつつ、片足で戻った床に少しずつ体重を掛けていく。

 変化はなかった。

 どうやら手前で横合いから飛び出す石柱の罠に連動しているみたいだ。

 ボクは恐る恐るではあるけれど、兎に角前に進む。

 また、しばらくトボトボと歩いていると、


 ゴゴゴゴゴー


「うわっ!」

 右壁の下部の石壁が勢い良く飛び出してきた。

 今度は柱じゃない。

 結構幅がある。

 僕はそれを咄嗟とっさに跳び上がって躱す。

 同時に反対側の壁の上部が飛び出て来ていてボクに迫る。


 ゴゴゴゴゴー


「ひっ!」

 ボクは少し早めにせりだして来た石壁を蹴って、前方へと伏せる形でスライディングよろしく突っ伏した。

 思わず目をギュッと瞑る。


 ゴゴゴゴゴー ガゴンッ!


 その直後に背中で石壁が通り過ぎた気配がして右側から大きな音がする。

 恐る恐る目を開ける。

 すると

 床と天井の高さが低い。

 ボクが寝そべっててようやくと言ったくらいに。

 あっ、危なかった。

 どうやらボクはせりだして来た下部の石の上に飛び乗っていて上部の飛び出た石との隙間にうまく入っているみたいだ。

 たっ、助かった。

 でもこれって、大人だったらよっぽどスリムな人じゃない限り引っかかって、まず潰されてるよな。

 鎧とか着ていたら完全に引っかかってる。

 またも小さい事に救われた。

 ボクはハイハイよろしく匍匐前進で先に進む。

 こういうのは最近までやってたので得意だ。

 ……。

 とても今はドヤ顔する気には流石になれないけど。

 やっとこさ這い出すと通路が左右に分かれている。

 這い出している途中で、ボクが唱えたライトボールの魔法の継続時間は過ぎて明かりは消えてしまった。

 また、通路が薄暗い状態に戻る。

 これで魔力は殆ど残ってない。

 まあ、赤ちゃんだし、こんなもんだよな。

 これでも上出来な部類だぞ!

 って、ボクは誰に言い訳してるんだ?

 こういう状況になると独り言が増えるよなあ。

 さて、じゃあ気を取り直して、どっちだろうか?

 何て考えていると、

「ちょっ!」

 今度は頭上から石柱が落ちてきた。

 ボクは右斜め前に飛びのく。

 すると、後ろでガゴンと地面に石柱が打ち付けられた音がして、同時に振動と衝撃が身体に伝わってくる。

「ふう、危なかった」

 安堵もつかの間。

「!」

 またも頭上から石柱が堕ちてくる。


 ガキン!


「どわっ!」

 これ、大人だったら反応しきれずに脳天に直撃を喰らうことになる訳だよな。

 身長が低かったおかげで、ほんの少しだけだけど、かろうじて避ける時間が出来た訳か。

 反射的に右に避けたので、そのまま右の通路へと走っていく。

「ちょっと、道選ぶ時間ぐらい待って!」

 ボクの叫びは空しく響き、その代わりでもないだろうが、頭上から次々と石柱がボクを狙って落ちてくる。


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 右! ガキン!

 左! ガキン!

 左! ガキン!

 右! ガキン!

 左! ガキン!

 右! ガキン!

 前! ガキン!

 後ろ! ガキン!

 ゲームのコマンド入力じゃないぞ!

 ……。

 ボクは心の中で悪態をつきつつ、上から伸び落ちてくる石柱を躱していく。


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 目の前にまた左右に別れる道がある。

 どっちに行く?

 走りながらだと考えている余裕がない。

 ええい、ままよ! って、そのクリアお母さんを探してるんだけど、何でこんな目に!

 ボクは左の通路に駆け込んだ。


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 それでも石柱は僕をめがけて落ちてくる。

 それからも何度か通路を曲がり走り込んだ。


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 左!


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 右!


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 左!


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 右!


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 真ん中!

 って、だから、コマンド入力か!

 相変わらず、頭上からの石柱は、ボクを狙って落ちてくる。

 いい加減しつこい!

「わっ!」

 ふと、後ろに飛んで避けた時、足がふらついた。

 尻もちをつく。

 まずい!

 そう思ってギュッと目を瞑る。


 ガキン! ガキン! ガキン! ……。


 あれ!?

 相変わらず、石柱が落ちてきている音はするけど、音と振動が遠ざかって行っているような……。

 ボクは恐る恐る目を開いてみる。

 目の前には直前にボクがかわした石柱が立っている。

 ボクは思わずゴクリと息を飲んだ。

 前略、本気で漏らしそうです。

 ボクはゆっくりと立ち上がりそろりそろりと石柱の影から前方を覗き込んでみる。

 あれ?

 いつの間にか、石柱の伸び落ちる音と振動が止んでいる。

 取り敢えず、助かったみたいだけど。

 ……。

 ボクはあることに気が付いてしまった。

 それは

 ここ、何処?

 ……これ、一応家の中だよね。

 やっ、べっ。

 家の中で迷子だ!

 石柱から逃れるために滅茶苦茶に走ったからな。

 そうだ!

 柱が伸びてる方に戻れば……。

 ボクが後ろを振り向くと

「えっ、ウソ!」

 後ろ側は壁のように柱が伸び落ちていて、ボクの身体の小ささでもとても通り抜ける隙間が見当たらなかった。

 いつの間に!?

 これはどうやっても、前へ進むしかないようだな。

 半ばあきらめ気味にため息をつくと、こんどは走らず慎重に辺りを警戒しつつ歩き始めた。

 さっきまで石柱が伸び落ちて床とぶつかる音で凄かったのに、今度はまた静寂が支配する空間になっている。

「んっ?」

 幾つかの角を曲がった辺りで、前方が少し明るくなっているのに気づいた。

 これはもしかして!

「クリアお母さん!」

 ボクは明かりのある方へ向かって走り出す。

 不用意な行動だったけど、幸い頭上からも左右の横壁からも柱が伸びてくることはなく、ボクは石柱の間を縫うようにして明かりの方へと向かっていった。

 間もなく、ちょっとだけ通路より明るい場所に出た。

 ボクは部屋に入ると辺りをぐるりと見渡す。

 とても広い部屋。

 見上げれば天井が高いし。

 奥行きもかなりある。

 そこには左右両側に、等間隔に立ち並んだ柱が存在している。

 柱は中央部分が少し膨らんでいる感じの白っぽい柱だ。

「はああ……なんか、古代の神殿っぽい!」

 あとは、以前に前世、何かで見た大雨が起きた際、川の決壊を防いだり低い土地の浸水を防いだりするために、雨水を地下に逃して貯蔵する施設が内部公開された時の映像がこんな感じだったと思う。確か見学ツアーとかもやってたっけ……行ってみたかったなあ。

広間に入り、ボクは左右を見上げ、柱の立派さに圧倒されながら真ん中を歩いて行く。

 ほんと、なんかファンタジー系ゲームのボスステージみたいな場所だな。

 ……。

 流石に、まさか、ね。

 いくらなんでもとボクが肩をすくめたと同時に。

 突然、前方の祭壇みたいになっている台座の床から、湧き出るように何かが上がって来る。

 例えるならば、夏の海辺で造られたりする砂の彫刻が崩れていく映像を巻き戻して見ているようなイメージだろうか。

 そして徐々に形になっていく。

 それは、

 四足歩行の獣っぽい何か。

 トカゲの様な胴。

 鋭い鉤爪。

 蝙蝠のような背中の翼。

 少し長めの首に、胴と同じくトカゲのような顔。

 そこから伸びる鋭い牙と角。

「ドラゴン!」

 思わず叫んでしまってから息を飲む。

 ドラゴンの石像はボクの声に反応したのか、僕の方へとゆっくりと顔を巡らした。

 ボクと目が合う。

 その石造りのドラゴンは、ボクを見ると、正に獲物を見つけた獣のように赤い目を光らせた。

「ひっ!」

 そして、石像で表情なんてないはずなのに、ニヤリと笑ったように見えた。

(うそ! ボスステージみたいじゃなくて、いきなりラスボスかよ!)

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