12 エン因
12 エン因
村に買い出しに行って、そこでいきなりオークの群れが村に押し寄せて来るという場面に遭遇してしまった。
その時知ったんだけど、Bランク冒険者のランスお父さんとクリアお母さんの活躍で、村に大した被害も出さずにオークの群れを退治することができた。
そうして何とか買い出しも無事に終え、我が家のあるクラードの森に帰ってきた。
ちなみに後から聞いた話だとあの村はケスバ村というそうだ。
それにしても、うん、自分で言ってて何だけど、村に魔物が群れで襲ってくるとは何て物騒な世界なんだここは。
前世日本じゃ猿が数匹とかか、更に脅威な動物で熊が単体で民家に現れるというのがニュースで報じられることはあるけど、明確に人を襲うことが目的での出現ではない。
でも、この世界は違う。
わざわざ人間を狙って襲ってくる生物が複数存在するんだ。
この世界では人間は生態系の頂点近くには位置しているだろうけど、一方的な捕食者側ではないという事。
それにもかかわらず、この世界の人々はこの環境に適応して当たり前のように日々の生活を送っている。
捕食者側と言えば、
オークの肉って食べられるんだ。
クリアお母さんがボルファスさんから分けてもらっていたオークの肉が今日の晩御飯のメインだった。
正直、意外と美味しかった。
まだ自分には早いんじゃないかというクリアお母さんとランスお父さんの言葉を押し切りねだってちょっとだけ食べさせてもらいました。
何というか、有名ブランド肉の宣伝文句の「放し飼いで十分な運動をさせて自然に育てました」の意味がよく分かった気がする。
けど、なあ……。
やはり今日の事が頭に蘇ってしまう。
クリアお母さんが魔法を出し惜しみなくつかっていたのは恐らく、あの時の村の戦力じゃオークの群れに太刀打ちできないと判断したため、一気に片を付けるつもりだったのだろう。
結果的に村の被害は殆ど無く、怪我人が数名と多少麦畑が荒れてしまった程度で済んだようだが、本来なら村そのものが崩壊していてもおかしくない状況だったらしい。
そんな中、自分は何もできなかった。
一才児だから仕方がないと言えば仕方がないのも理解している。
けど、なまじ自我がある上、前世の記憶が残っており、ラノベなんかで小さい時から活躍しているような話を読んでいたため、自分にもそれが出来るんじゃないかと思ってしまった。
実際は、魔法は撃てず、身体は動き回るには適さず、判断も反応もまともにはできてはいなかった。
つまりは見ているだけしかできなかった。
オークがクリアお母さんに向かって棍棒を振り上げた瞬間。
あの時の光景が今でも目に焼き付いている。
結果的にはランスお父さんとクリアお母さんの信頼関係からきた余裕だったのだが、そんな事知る由も無かったボクにとってみれば、心臓が止まる思いだった。
もうあんな思いはしたくない。
せめて家族を守れるくらいの力が欲しい。
そう思った。
疎かにするわけじゃないけど、今使えないネットスーパーの能力よりも、普通よりかは高くこの先伸びるであろう各身体能力や魔力を鍛えて行こうと強く思った。
夕食後。
食事の片づけが終わり、二人はコップにお茶らしき、正確には森で取れた薬草を煎じたものだから薬湯を飲みながらくつろいでいた。
「クリアお母さん、このハコなあに?」
ぼくは今日、村のボルファスさんのお店で渡された箱を不思議そうに眺めながらコテンと首を傾げて訪ねてみる。
遠くの国にいるクリアお母さんの師匠でもあり二人の冒険者仲間でもあったエルフで美人(ランスお父さん談)のサーベニアさんから送られて来た物だとのことだ。
「あっ、それ、いじっちゃダメよ。危ないかもしれないからね」
クリアお母さんが慌てたように注意してくる。
「あぶないの?」
「う~ん、開けてみないと解らないわね」
クリアお母さんが昼間ボルファスさんの店で見せた複雑そうな表情を浮かべて答えてくれる。
「あけていい?」
再度尋ねてみる。
「だから、ダメね」
何かやっぱり妙に開けたくなさそうな表情をするクリアお母さん。
ランスお父さんを見れば、いつもならやや軽めの調子なのに、やはり同じように複雑そうな表情を浮かべている。
一体何なんだろう?
師匠で仲間ならそんな危ない物を送り付けるなんてしないと思うんだけどな。
俄然中身に興味が湧いてくる。
「何入っているの?」
「う~ん、前回は体力が回復するけどその後お腹を壊してゲッソリするポーションだったのよね」
「その前は呪われた剣で血を吸うとケラケラと笑い出す剣だったしな。切れ味は悪くないんだが、あんなの人前で使ったら戦場でも魔物退治でも凶人扱いされちまう。まあ、人によっては好みそうな奴もいるかもしれないけどな」
「警戒用魔道具だっていって送って来たのなんて、使えるかもって発動してみたら、物凄いけたたましい音が鳴り続けて止まらなくて、真夜中に家から森の中へと避難して一昼夜寒空の下過ごすことになったのよ。あの時はまだセイルくんはお腹の中で、ほんと大変だったんだから」
「ああ、あれな。この家が森の中の一軒家でよかったが、あんなの村や町の中で鳴らしたら、近所迷惑どころの話じゃなかったな。即、警備兵が飛んできて大事になっていたところだぜ。まあ、それを見越してここで管理するために送って来たんだろうけどな」
危ない物ではなかったけどはた迷惑な物だった。か
そういうのを集めるのが趣味なんだろうか?
だからわざわざ森の中に家を建ててそこで保管し、弟子であるクリアお母さんがお願いされて管理をしているわけか。
でも結構面白そうな物が入っていそうだな。
「中見たい!」
なんだろうか。
微妙に何に使えるのかわからない道具って、妙に興味が引かれることがあるんだよね。
電気街の路地裏の店とか、路上対面販売のパフォーマンスとか、ついつい立ち寄って見入っちゃうよね。ねっ。
「はあ、セイルくんは何でも興味持つんだから」
「小さい子ってそんなもんだろ。俺なんかよく親にいじっちゃいけない物をいじって怒られたもんだぜ」
「威張って言わないの、もう。じゃあ、このセイルくんの好奇心はランスに似たのね」
「何言ってるんだよ。魔法使いっていうのは好奇心の塊みたいな存在だろ。クリアだって俺の事は言えないと思うぞ」
「ふふっ、つまり、二人に似たって事ね」
「そうだな」
急に見つめあって良い雰囲気になる二人。
「ねえ、あけていい?」
はいはい、ごちそうさまでした。
仲が良いのは知ってるから、それよりこの箱の中だよ。
「しょうがないわね。いつまでもこのままにしておくわけにもいかないから開けてみましょうか」
「そうだな。取り敢えずセイルは俺達の後ろにおいで」
「あい!」
ここは素直に従っておこう。
ぼくが二人の後ろに移動したのを確認したクリアお母さんが、机の上の荷物を慎重に紐を解き木の箱を開けて行く。
そして箱の中に入っていたのは、
「手紙が入っているわね。どれどれ」
クリアお母さんが何かくすんだ紙のようなものを取り出して広げる。
この世界では紙の製法はまだまだ遅れていて紙質はあまり良くないように見える。
おそらく羊皮紙とかパピルスとかいったものなのだろう。
クリアお母さんが広げた手紙に目を走らせ、その内容を読み上げてくれた。
- - -
クリアちゃん、ランス君、元気で過ごしていますか?
セイルくんはもう歩けるようになったかな?
直接会ってだっこしてあげられないのが、とても残念です。
私は相変わらず珍しい魔道具を探して過ごしています。
それでつい最近ある貴族のお屋敷の倉庫で見つけた珍しいブレスレットを手に入れたのでまた、クリアちゃんの所で保管しておいてね。
ブレスレットの効果は以下の通りね。
アンラッキーチャンスメーカー
装備した人の幸運度が有る程度上がる代わりに周囲でトラブルを呼び込みやすくなるという呪われたアイテム。平凡な森の生活の日々に飽き飽きしている方是非どうぞ!
クリアちゃん、ランス君、使ってもいいよ♪
ではまた、手紙するね。
サーベニア
- - -
(使ってもいいよ♪ って……)
「使ってもいいよ♪って……」
ぼくの心の声とランスお父さんの呟きが見事にシンクロする。
なんだろうか。
ぼくの中のエルフのイメージだと、クールビューティーで人付き合いを避け、人を下に見ている感じなんだけど、この文面からは微塵もそんな印象を受けないんだけどな。
ランスお父さんが中に入っていたブレスレットをつまみあげマジマジと見つめている。
確かにこれもはた迷惑そうなアイテムだな。
思いっきり『呪われたアイテム』なんて言いきってるし。
幸運度が上がってもトラブルを招く度合いが増しては意味が無い。
んっ? 幸運度が増す?
これって……。
「どうする、これ?」
「……即、倉庫にしまい込みましょう」
「……そうだな」
ぼくが考えていると、二人はブレスレットをそっと箱に戻し蓋をしはじめた。




