表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/75

1 エンもゆかりもない世界へ

1 エン()もゆかりもない世界へ


「おめでとうございます! あなたはお亡くなりになりましたが特別に異世界転生の権利を獲得されました!」

 何か、めでたそうにめでたくないことを交えながら笑顔で話してくる薄紫色の髪をツインテールにまとめた高校生くらいの少女が目の前にいる。

 (……死んだ?ボクが?……えっと、ボクは病気で、ずっと入院してて、それから……それから……そのまま、ボクは本当に死んだのか?)

 ボクは端から見ても平穏な家庭に生まれたと思う。総合商社と言う、何でもやっているが具体的に何をやっているかよくわからない会社に勤めるサラリーマンの父親。パートとサークル活動に忙しく動き回る母親。そして、普段は微妙な距離感だが誕生日とクリスマス前になると纏わりついてくる8つ下の双子姉妹。そんな過程で中学・高校・地元大学と順調に進み地元の保険会社に無事入社。忙しくもそれなりに充実した毎日を過ごしていた。

 でも二年前、突然職場で倒れ入院。そこから闘病生活が始まった。徐々に体の自由が効かなくなり、最近では、双子姉妹が代わる代わるボクの世話に来ている状態だった。父親と母親は生活費と双子姉妹の学費を稼ぐので、なかなか来れない代わりらしい。それでもちゃんと来てくれて身体を拭いたり、食事の手伝いをしてくれるのは恥ずかしいがうれしく思う。不幸中の幸いか、保険会社に入社した時、親切な先輩が教えてくれた医療保険に入っていたことと職場で倒れた時怪我したので労災認定されたので治療費の心配はあまりしなくて済んだ。

 そうか、最近じゃ意識が朦朧とすることが多くなってきてはいたけど……。

 周りは一面白い世界。距離感がつかめない。何処までも続いているようなのに、それでいて不安にならず、むしろ落ち着く。夢? ……違うかな?

「……とても神秘的で不思議な所」

「お気に召してもらえた様でここを選んで良かったです。今回は『特別』なのでこの場所を用意してみました。他にも雲の上とか、神殿とかありますよ。まぁ、言ってみれば背景セットだと思って下さい」 

 ポツリと漏れた一言に神? 天使? の女の子が答えてくれた。

 背景セットって……只の演出かよ!

 西洋風女神っぽいコスプレと背中に天使の翼っぽいものを背負ってるけど、これも演出かな。あの薄紫色の髪のウィッグと合わせてネットで10000円くらいかな?

「何か失礼な事を考えてませんか?」

「その髪はオシャ」

「自・毛・で・す」

 いきなり何処からともなく金色の弓矢が出てきてこちらに向かって構えた。

 細めた目が怖い。

 ボクは慌てて両手を上げて大きく首を縦に二度振った。

「ちなみに普段はあなたのいた日本の役所の受付みたいな所で手続きしてますよ」

「何か知りたくなかったかも」

 弓矢を消しながら台無しな話をする薄紫髪ツインテール少女神(?)

「申し遅れました。わたくし転生課転出入係人間班のパスティエルと申します!」

 改まって笑顔で自己紹介してくれた神? 天使? ……もう神でいいか。それにしても『転生課』って、周りの雰囲気台無しだよ。ボクの最初の呟きを返せ!

「名刺をあいにく切らしてまして申し訳ありません」

「いらないよ!いや、ちょっと欲しいかもしれないけど、今はそこじゃないよ!」

 折角、演出(?)までしてくれているはずなのに、いろいろ台無しにしてくれる娘だな。

「あなたはこれからしかるべき手続きの後、異世界に転生することになりますが、何か希望はありますか? もちろん、叶えられる事と叶えられない事がありますが、一応お聞きします。ちなみに、あなたの転生先は魔法のある世界ですよ」

「希望ですか?」

 目を閉じて考えてみる。

 そう言えば、まだ比較的起き上がれるとき、妹達が自分達が読んでいたラノベ小説を置いていったのを読んでいたことがある。それによると、こういう場合変わった凄い能力を貰えることがお決まりだったっけ。

 自分ならどんな能力が欲しい?

 今まで何に困っていた?

 妹達がいろいろ世話をしてくれてはいたし、これに関しては、ラノベとかで言うところの世の妹属性だっけ(?)が羨ましがるだろうけど、やはり欲しい物が自分で自由に選べなくなったのはつまらないと感じていた。そんな時、後の祭りだがネットスーパーのことを思い出していた。倒れる前を含めて今までは家族の誰かが何時の間にか買ってきていたので、あまり必要性をかんじていなかったので、知ってはいたが使うことはそれほどなかった。そう言えば、そういうラノベもいくつかあったっけ。

 そう考えてまとめていくと、身体の自由が利かず思うように動けなかったこと、長期間入院で不便だったこと、ネットスーパーのことは聞いていていいなぁと思っていた事。……それを踏まえて

「あっ、そうだ。異世界に転生できるのなら、日本のネットスーパーが使える能力とか貰えませんか?」

 とりあえずダメ元で言ってみるか。

「ネットスーパーですか? 最近多いですよねぇ」

 あぁ、やっぱり何か呆れられた様な感じがする。

 最近多いって、そんなに異世界転生は多いのだろうか?

「そんなに多いんですか?」

試しに聞いてみた。

「あぁ、いえ、六道とか喜びの野とか、皆さんが聞いたことがある話の世界は死後の世界を垣間見て戻ったひとや前世の記憶をある程度持って生まれた人が広めたもので同世界の転生なのですが、これらの世界に転生すること自体は普通のことです。そうですねぇ、一つのグループと考えてください。そのグループが複数あるとします。その他のグループの世界のある所に転生するのが異世界転生となりますが、これはかなり稀な例となります。その稀な例だったものが最近私達が管轄する日本で増えてきてまして、まぁ、全体数から言えば少ないと言えば少ないのですが、過去5千年を比較してもここ2・30年での増加は顕著ですね。通常は魂の因果等に引き寄せられて行くというのが自然だったのですが、最近は積極的に自ら異世界を望まれる方が増えまして、その際スキルとか能力や魔法が存在する世界をと……そして、生前読まれていた『ラノベ』というものの影響で無茶なスキルや能力を希望される方が増えまして……」

 わっ、ちょっと聞くつもりが何かまくしたてられるように愚痴られた! やっぱり、ラノベみたいな能力は無理過ぎたか。僕ってもしかしてクレーマーっぽく見られているのか?

「あっ、無理ならいいんです、無理なら。可能な能力とかスキルとかでいいですから付けてもらえませんか?」

 ここは心証を悪くしない方が良さそう。無茶言って怒らせて何も貰えないより少しでも有利になる能力とかスキルとかを選ばせてもらえた方が得だし。何と言っても相手は神(?)だし。

「はっ!失礼しました。ちょっと最近対応と後処理に追われまして……コホン、ですが、あなたの場合は別です。最初に私が言いましたとおり、あなたは転生する『権利』を獲得されています。なので多少の無茶は叶えてあげたいと考えています」

「えっ! 僕が……何故?」

 素直な疑問が口に出る。

 だって、子供を庇って車にひかれて死んだとか、暴漢から少女を庇って刺されて死んだとかじゃないし、そんな大層な権利を貰える謂れがない。って言うか、無茶なのは本音なんだね。

「何故獲得されたかと言うと……イコロの出た目です」

 んっ? 聞き間違えだろうか? 何か変な単語が聞こえたような?

「……えっと、何と?」

 確認の為もう一度聞いてみよう。

「サイコロの出た目です! あらかじめ今回の勤務中に担当する人の何人目に異世界転生の権利を与えるかをサイコロを振って決めました。ちなみにサイコロは100面ダイスです!」

 開き直った風な口ぶりで一気に言った薄紫髪ツインテール少女神(?)。サイコロの種類とかどうでもいいよ! てか、100面ダイスってあるんだ。テレビで見たミラーボールみたいなのかな? じゃなくて、神(?)がサイコロ振っちゃってるよ!

「安心してください。機会は公平です」

 過去の偉人の言葉を否定してるのか? 肯定してるのか

「それに丁度私が業務改善案として提出したものに近い能力なので多少調整すれば可能です。……あぁ、また仕事が……残業が……」

 少し虚ろな目になった薄紫髪ツインテール少女神。業務改善案って、残業って、仕事溜まってるのか? 家に帰れてないとか、きついノルマがあるとか。自分も仕事中に倒れた身だから他人事じゃないし。まぁ、ボクの場合は、自分の体の問題で、仕事面で問題があった訳じゃないけど。

「あの、労働組合とかあったりします?」

 興味本位で聞いてみた。

「そんなのある訳ないじゃないですか。組織立って神に弓引けば、即堕天ですよ、堕天。堕天の理由が労働争議とか笑えないでしょ」

 またも聞きたくなかったかも!いや、聞いたのはボクだけどさ。

「それでは、手続きを行って来ますので席を外させていただきます。あっ、これ『転生のしおり』です。手続きを行って来る間、これを読みながらしばらくお待ちください」

「……」


 普段は役所の窓口みたいな所って本当かも。昔、友達が大学の入学の際、引っ越しの手続きをしに行くのに付き合って役所に行ったことがあるけど、ゴミの出し方とか防災マップとかといっしょにこんなの貰っていたっけな……とことん台無しだなぁ。

「お待たせしました。それでは、日本のネットスーパー形式の能力を所持させておきますね。画面を表示するには、「ネットスーパー オープン」と心で念じて下さい。使い方は画面表示内の説明文を読んでください。あと、あなたはテストケースにもなっていますので、すぐに死なれても困りますので飛びぬけてとはいきませんが、能力値も上げておきますね。それと、前世の記憶も残しておきますね。普段ならこれだけでもかなりの特典なんですよ。何か質問はありますか?」

 適当にパラパラと読んでいた『転生のしおり』を閉じて、戻って来た薄紫髪ツインテール少女神の方を見る。

「いえ、ありがとうございます」


「では、良き来世を!」


 その声と共に視界が白く輝き、ボクは意識を手放した。


   ◇


 次にボクが意識を取り戻したのは揺り籠の仲だった。

 これは大きな誤算だった。

 てっきり地球で死んだ時と同じくらいの20代後半くらいか、もしくは一番体力があった高校二年生位だと思ってた。テストケースで能力値もあげておくと言っていたので、まさか赤ちゃんからやり直すとは思わなかった。

 あぁ、転生と転移の違いだっけ?まぁ、あの薄紫髪ツインテール少女神が言ってた通り、前世の記憶を持ち越せてるだけマシか。

 改めて自分の今置かれている立場を整理してみる。

 とは言っても動けない以上、分かることはあまり多くなさそうだ。

 まず、部屋の中だけど、お世辞にも良い部屋とは言い難い。精々小屋って感じかな。ってことは、あまり裕福ではない家庭ってことか。あの薄紫髪ツインテール少女神、すぐに死なれても困るからと言っておきながら、これも予想外の対応だ。妹達が持って来てくれていたラノベの設定なら、赤ちゃんからなら貴族の子供なのが普通じゃないのか?

 とりあえずお決まりの台詞を言ってみようか! ボクは心の中で叫んだ。

(ステータス オープン!)

「……」

 何も起こらない。ま、まぁ、そうだろうな。あの薄紫髪ツインテール少女神も使えるなんてこと言ってなかったし。

 次に薄紫髪ツインテール少女神に教えられた言葉を言ってみる。

(ネットスーパー オープン!)

「よしよし、ちゃんとネットスーパーの能力が付いてるな」


   *   *   *


 『超大型ネットスーパー パスティエルマーケット』


 いらっしゃいませ


 《お買い物 》

   お買い物ページです。

 《パスティエル広場》

   その他のサービス

 《教えて!パスティエルちゃん》

   困った時の説明書


   *   *   *


 超大型ネットスーパーって……これもトートロジーって言うのか? あと、何気に自分の名前入れてるし、右下にアニメでスーパーの店員の制服を着てニコニコしている薄紫髪ツインテール少女神が時折ペコリとお辞儀してるし、自己主張強いのか?


 ふと僕はある項目を見て固まった。もし傍から見ていれば赤ちゃんがひきつけを起こしている様に見えただろうか?


   *   *   *


 現金プール額: 0円

 パスティエルポイント: 0ポイント


   *   *   *


「……これって……まさか……『円建て』」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ